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第59話 始め!

 トウザイトギルド裏に位置する武舞台。

 そこは通常、冒険者たち用の訓練施設として利用されている多目的施設である。

 舞台はかなり広い。弓や魔法の訓練をする施設でもあるから当然と言える。


 そこには今、街中(まちじゅう)の、と言っても過言ではないほどの人々が集まっていた。

 なぜなら今日ここでは、この街を二分しているクランがついに直接対決をする武闘大会が開催されるからであった。


 急遽、突貫で簡単な客席まで作られ、屋台までが立ち並び、大勢が武闘大会の開始を今か今かと待っていた。




「……い、今からでも私もあなたたちのパーティに入って一緒に戦うわ!」


「落ち着けアリヴェガン、俺たちは大丈夫だよ。どうして君の方が緊張しているんだ」


 シオンとファイズはアリーの案内でギルド内の職員休憩室を控え室代わりにしていた。


「どうしてあなたたちはそんなに落ち着いているのっ!?」


「大丈夫です、なんとかなりますよっ」


「もう、そんな可愛らしい笑顔で言われてもどう反応していいのかわからないわよ!」


 アリーは混乱している。はたから見れば、二人で勝てる要素など何もないのだからそうなるのもうなずけるというものであった。






「さて、少し早いが行くか。会場の空気にも慣れておかないとな」


「はいっ」


「お願いだから生きて帰って来て」


 泣き出しそうなアリーをおいてシオンとファイズがギルド裏へと出て行くと、会場に集まっていた大勢の人々の視線が一気に集まった。


 ガヤガヤとしていた会場がしんと静まり返り、漏れるため息。二人の容姿は男女問わず虜にしてしまうようだ。


「シオン様ー。ファイズ様ー」


 そんな中、いち早く反応して駆け寄ってきたのは既に耐性のある孤児院の子供たちであった。


「みんな、応援にきてくれたの?」


 シオンが尋ねると、レェリが心配そうな顔をして言った。


「ど、どういうことなんですか、シオン様。シオン様がお強いのは知っていますけれど、お二人でクランを相手にするなんて」


「そうだぜ。俺たち居てもたってもいられなくなって来たんだ」


「どうせ今日は街中、開店休業状態ですしね」


 レェリの言葉にふんふんとうなずくイーズー、セットとセシルも心配顔だ。……イーズーは皮の兜をかぶっているのでよくわからないが。


「だいじょーぶだよ、みんな。ボクたちは勝つよ」


「ほんとですか?」


「ああ。応援していてくれ」


 ファイズもそれに応える。

 そうするとやっと安心したようで、子供たちの顔にも笑顔が戻る。


「ほら、これでみんなで何か食べながら観戦しているといい」


 そう言ってファイズがレェリにお金を渡すと、安心した子供たちにもお祭りのような感覚が芽生えはじめたようだ。


「ありがとうございます!」


 そう言ってレェリたちは屋台の方へと向かっていった。


 二人の容姿に圧倒されていた人々も、そんな微笑ましい場面を見て癒されていた。

 徐々に言葉を取り戻した人々の会話の中でも、さっきまで謎の二人組挑戦者に対して(ささや)かれていた非難の言葉が明らかに減っていた。






「おーう。待たせたな」


 そこにリーダー・バルガル率いるクラン≪アッシュホーン≫がぞろぞろとやって来た。

 先頭を歩く六人が第一軍のパーティだろう。その後ろに十数人がついて行く。見事に獣人ばかりである。


 第一軍の六人はクランの最強戦力である。そして第二軍もしのぎを削り、一軍メンバーに入れるように努力する。

 そしてもし二軍メンバーが一軍メンバーの実力を抜くようなことがあれば、一軍メンバーと交替する。


 それが通常のクランの在り方であり、≪アッシュホーン≫もそれに近かった。


 ただ、≪アッシュホーン≫は――というよりもこの街のクランは――、金を上納する多くの奴隷たちを抱えており、それを監督するメンバーもいるようだ。


 彼らの登場で会場には一気に緊張が走った。


「役者がそろったようじゃな。それではルールの確認じゃ」


 老マスターが間に立つ。


「一パーティ同士での試合形式とし、パーティメンバー以外の者からの妨害や支援などは即失格じゃ。武器防具、C.C.Cの使用は認める。……つまり死ぬ可能性もある。じゃが、故意に殺してはならん。相手が降参した場合や、気絶した場合、明らかに戦闘不能な場合、審判であるワシが止めた場合もすぐに攻撃を中止せよ。やむを得ず殺してしまった場合は(とが)めはせんが――ワシの目を誤魔化すのは無理じゃと心得よ。……何か質問はあるかの?」


「勝敗の判定は?」


 バルガルが問う。


「まず当然として、相手全員の降参宣言か、戦闘不能。審判であるワシの判断。そしてリーダーの敗北宣言――これはリーダーがパーティの総意として敗北を宣言するということじゃ。リーダー個人が降参した時点で負けというわけではなく、残りのメンバーが戦えるならば続行してよい。――メンバーの少ない≪パープルグリフィン≫には不利なルールじゃが、この場で行うのは『リビングアーマーを倒せるパーティ』の選別じゃ。リーダーだけを倒せたとしてもそれは証明できん。『パーティの総力』を見せてもらおう」


「道理です」


 ファイズが理解を示す。


「ガハハ。すまんな」


「気にするな。元より承知の上だ」


「ほーう。一体どんな勝算があるってんだ? ワクワクしてきたぜ」


「では他に質問がなければそろそろ開始するとしよう。この試合に勝ったクランは≪クリムゾンベアー≫に挑戦する権利を得る。よいかな?」


 その問いに「おう」「はい」とお互いのパーティリーダーが返事をする。






 舞台の中央、一定の距離を挟んで二つのパーティがにらみ合う。


「それでは……始め!」


 老マスターの号令と同時に、会場を照らすほどのクラスチェンジの輝きが放たれた。

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