第57話 二人で挑むつもり?
「やっほー、シオンちゃん、それにファイズも」
「おはようございますアリーさん」
「ああ、元気かアリヴェガン」
「――ちょっと、その名前で呼ばないでくれる? アリーと呼んでと言っているでしょう」
「なぜだ。絶えぬ幸福、いい名前じゃないか」
「……響きがゴツくてかわいくないでしょ」
ギルドのカウンターにはエルフのアリーがいた。シオンがこの街に来た初日に、いろいろと教えてくれた職員である。
ファイズの腕と脚が完治し、冒険者に復帰したことはアリーにとっても喜ばしいことであった。
シオンとパーティを組んだと聞いた時には驚いたが、彼が身寄りのない子供を放っておけないことを考えれば当然の成り行きだったのだろう、とアリーは納得した。
自分も同じようにまた一緒に冒険者稼業に復帰したいという思いも少しあったが、いまはギルドの職員としての自分の方が性に合っている気がしている。
「それで、ご用件は? 魔石の換金かしら?」
「いや、今日は別件で来た。ボス討伐権が欲しくてな」
「……まさか、二人で挑むつもり? 一~三階層の討伐権を持っているクランだってほとんどが十九レベルの六人パーティなのよ」
「分かっているよ。今まで黙っていたが、このまえ上級クラスに覚醒したんだ」
「えっ本当に!? それはおめでとう! ……そうねえ、それなら二人でも一階層のボスには負けないだろうけど、討伐権を持っているクランとの勝負に勝てるかどうかが問題ね」
「早合点しないでくれ。俺が欲しいのは八階層の討伐権だ」
「なっ!? いったい何を言い出すの! ……リビングアーマーを許せない気持ちはわかるけど、いくらなんでも無茶よ。しかもたった二人でなんて! そもそも討伐権を持っているのはチェスターたち≪クリムゾンベアー≫なのよ!?」
「わかっているさ」
「わかってないわよ! ≪クリムゾンベアー≫はリーダーのチェスターの他にも上級クラスを抱えているのよ! あなたたち二人でどうにかなる相手なわけないじゃない」
感情的になり大きくなったアリーの声がギルド内に響き渡る。
ガヤガヤと賑わっていたギルドがしんと静まりかえった。
アリーはしまった、という顔をするがもう遅かった。
「なんだなんだ!? 今≪クリムゾンベアー≫に挑戦する、なんて言葉が聞こえてきたぞ、おい」
「ギャハハ、まさかそんな奴がいるわけねぇだろう」
「そうだ。いるとしたら命知らずも甚だしいぜ。しかもなんだあ? たったの二人じゃねえか!」
近くで聞いていた冒険者パーティのわざとらしいその会話によって、ギルド内の離れた場所にいた者たちにもシオンたちの言動が周知される。
にわかにざわめき出すギルド内。
どんな奴がそんなことをのたまっているのやらと、見に来た冒険者の幾らかは言葉を失った。
とんでもない美形のエルフと、魔性の美貌をもつ奴隷のコンビだったからである。
シオンとファイズは良くも悪くも目立つ。
シオンがこの街に来て、ファイズと冒険者稼業を始めてから三ヶ月、ギルドの利用は最小限に抑えてはきたが、それでもやはり二人は目立ってしまう。
パーティへの勧誘や食事やその他の誘いは、何度もあった。
誘いを断られて面白くないと思っている者もいるし、逆に二人の隠れファンも多い。
とはいえ、二人を知らない者も少なからずいる。そういった者たちにとってはさぞこのファーストコンタクトは衝撃的であったことだろう。
いつの間にか≪クリムゾンベアー≫に挑もうとする美しい二人は多くの冒険者に囲まれていた。
「どうせパフォーマンスだろう」、「名前を売ってメンバーを集めるつもりか?」、「負けても殺されはしないと高をくくってるってわけかよ」、などといった野次から、「……でも実際俺はこのパーティになら入ってもいいなあ」、「そのきれいな顔に傷がついたらどうするんだ、頼むやめてくれ」、だのといった倒錯の入ったものまで口々に言ってくる。
「いや、俺たちはメンバーを募集するつもりはない」
ファイズの放ったその言葉に野次馬たちは更に混乱に陥れられた。
「じゃあなぜそんなことをする!?」
「ボス討伐権が欲しいからに決まってるだろう」
ファイズの答えはそっけない。
「はあああ!? 二人で≪クリムゾンベアー≫に勝てるわけないだろうが! 本当の狙いを言え!」
「そうよ。何が目的なの? どんな狙いがあったとしてもお願いだから危ないことはやめて!」
アリーまでもが言ってくる。
「さてな。別に他意などないのだが……」
ファイズとシオンは途方に暮れようとした時、そこに一人の人間が現れた。




