第55話 独占
「いくよ、スネークバイト! ≪ヘビーショット≫!」
シオンがトリガーを引くとシオンの愛用武器スネークバイトの節が伸び、ガーゴイルに向かってもの凄いスピードで直進する。
ドゴガンッ
剣先に向かっていくほど幅が広い大鉈であるスネークバイトの先端部はかなりの重量がある。それが高速でぶち当たると鉱石の体を持つ魔法生物ガーゴイルといえど無事ではすまない。
おまけにスネークバイトの先端から飛び出している牙が命中と同時に相手を抉る。
さすがのガーゴイルもバラバラに砕け散った。
中距離から炎を吹いてくる厄介なガーゴイルを先に仕留めたシオンは、すぐさま伸びきったスネークバイトを振るって手元に戻し、近距離で槍を振るってくるスケルトンソルジャーの一撃を受け止めた。
「≪パリイ≫!」
近距離剣技を使って敵の槍を受け流しながら、シオンはスケルトンに蹴りを入れる。
ガシャーンッ
スケルトンは吹っ飛んで仲間に当たってもつれ込んだ。
スケルトンはその名の通り全身が骨であり、その武器も骨製の剣や槍、防具も骨製の甲冑などを着ている。体重は軽いとまでは言えなくとも、それほど重くはない。とはいえ吹っ飛ばせたのはシオンの蹴りの威力が凄まじいというのが大きな理由だ。
シオンでなければこうは上手くいかないだろう。
スケルトンは人型モンスターなだけあって、中には騎士クラスのスキル、≪インクリースウェイト≫で衝撃を緩和してくるものもいるのだから。
騎士クラスのスキル≪インクリースウェイト≫は、敵の攻撃や突進などを受け止める際に衝撃を緩和できるように、体重を増やす能力だ。いわゆるスーパーアーマーである。
そう、スケルトンは冒険者が初めて体験するであろう、クラスを持った敵なのである。スケルトンたちのクラス構成によっては盾・近接・遠距離職で組んだ王道パーティーの冒険者をも破り得る。
後先を考えないスケルトンが戦士ばかりの構成で突撃してきた場合、盾が二人程度ではしのぎ切れないこともあるのだ。
王道パーティは継戦力や対応力には優れているが、とんがった構成に対しておくれをとる事もあるということだ。スケルトンは決して弱い敵ではないのだ。
そのスケルトンを、シオンは敵のクラスを見破りながら適切に近距離剣技と中距離射撃スキルの両方を使い分け、状況を打破していった。
「まさかそのスネークバイトが『バトルシューター』にとって最適な武器だったとはな」
「『バトルシューター』は適切な武器さえあれば輝けるクラスですよっ」
『バトルシューター』は戦士と狩人の中間職である。かつてシオンは『バトルシューター』や『ドラグーン(騎士と狩人)』などの中距離職への道を否定していたが、それには二つの理由があった。
一つは、中距離職用の武器が市場ではあまり出回っていないこと。近距離・中距離両用の武器がなければ敢えてやる必要があまりないのが中距離職なのだ。
需要が減れば供給が減り、供給が減ればまた需要が減るという悪循環により、中距離職用の武器を作る鍛冶師はあまりいない。そもそも中距離用の武器の発想自体が少ないのもあるだろう。
そしてもう一つの理由は、ジェットやサツキ、ルリというバランスのとれたパーティがいたために必要がなかったことである。
それが今こうして中距離用の武器を手に入れ、たった二人のパーティの中でやっていく上では『バトルシューター』などの中距離職は有効な選択肢の一つであった。
そして一方のファイズも負けてはいない。
スケルトンが厄介な敵であるのは主に一次職や中間職に対してだ。
厳密には戦闘向きではない二次職もあるが、完全な戦闘向け二次職に覚醒したファイズにとって基本職のスケルトンは相手にならないと言ってよかった。
腰に差した二刀はファイズ自らが打ち鍛えた魔剣。氷を生み出す白い刀身――銘を≪白煙≫、そして黒い刀身に触れた水流を操作する――銘を≪B・E≫。ファイズはこの二刀での戦闘を基本としている。
だがファイズは、他にも魔法収納に収められた槌や槍、弓などを状況に合わせて使い分ける。それに応じてファイズのステータスは『武者』というクラスによって最適化される。鍛冶師であるファイズのポテンシャルを完全に発揮できる戦闘方法であった。
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ファイズ・シュライゼン
エルフ 48歳 男 レベル: 19
クラス/ なし ジョブ/ 鍛冶師
HP: 35/35
MP: 34/34
攻撃: 55
防御: 31
魔法防御: 43
敏捷: 20
器用さ: 25
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知性: 11
運: 11
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鍛冶師ジョブにより攻撃・器用さ5%上昇
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モンスターたちを片付けたあと、二人は湧き水のある安全地帯で一息入れていた。
シオンとファイズが冒険者としてコンビを組んでから約三ヶ月の時が過ぎていた。
「それにしても、ボス部屋はいつも空っぽですね」
「む? 知らなかったのか。ボスはポップする周期が把握されていて、ギルドによって討伐するクランが決められ、そして最速で倒されているんだ。要するにボスの独占をさせている」
「え、それはどういうことですか?」
「理由は大きく二つある。一つは、八階層までの雑魚ではもはや経験値を稼げなくなったレベル十九冒険者にも、階層ボスを倒せばそこそこの経験値が入るからだ。もっとも、ボスのポップ周期次第なのでレベル二十に到達するにはかなりの時間がかかるらしいけれどね」
現在ギルドは八階層ボスの攻略を禁止しているが、手をこまねいているわけではない。ギルドは突破できる冒険者を育て、満を持して攻略に挑ませるつもりなのだ。
何しろ冒険者が攻略に失敗すればまた武器防具を奪われてリビングアーマーたちが強くなってしまうのだから慎重にもなる。
「ではもしかすると既にレベル二十に到達している者もいるのでは?」
「時間が経てば徐々にそういう者も現れるだろうが、今現在では街最大クランのリーダー、チェスターが到達したかどうか、といったところだろうね」
「たしかボクが戦ったバルガルもまだレベル二十には達していないような口ぶりだったので、そうかもしれませんね」
二番手のクランリーダーであるバルガルがいまだレベル十九ならば、そういう推測は成り立つ。
「ああ。そしてもう一つの理由は、後発の冒険者を育てるためだな。冒険者の死亡事例はほとんどが階層ボスによって引き起こされる。その階層の雑魚モンスターが手に負えなそうなら、あきらめて一つ前の階層に戻ればよいだけだからね。試練の迷宮にまで到達した冒険者たちならそこいらの感覚はすでに身につけている。――つまり確実に倒せるものにボスを倒させて、後発の冒険者にボスに挑ませないわけだ。……そして出来るだけ多くの冒険者を死から遠ざけ、二次職への覚醒者を増やそうとしているのさ。『医者』のような者や、それこそリビングアーマーを打倒でき得る実力者が現れるのを待っているんだ。――もっとも、造血丸なしで覚醒する例はほとんど無いと言っていいほどだけど」
造血丸なしで覚醒したファイズは少し面映ゆそうに言った。
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