第50話 エルフの鍛冶
シオンを助けてくれたエルフは、とんでもなく美形であった。
すぐに信用するのもシオン自身どうかと思うのだが、どうしてもこのファイズと名乗るエルフを疑うことができなかった。
美しい顔、優しく安心する声、透き通るような髪――。
もしだまされたとしても文句は出そうになかった。
そもそも、シオンは金などほとんど持っていない。奴隷首輪を見ればそれは相手も承知の上だろう。
襲うにしたって気を失っている間に何なりとできたはずだ。それにもし襲われてもシオンには逃げ切る自信と実力があった。それは昨夜のバルガルとの闘いでも証明された。バルガルがこの街のトップクラスだとするなら、シオンの力は今のところこの街でも十分通用する。逃げに徹するならなおさらだろう。
それならシオンはファイズを信じたかった。何より、彼の目を見ればシオンには理解できたのだ。彼が信用できるということを。
ファイズの居住空間から店に出ると、シオンは驚いた。
ドワーフの店とは雰囲気が違うし、商品のラインナップもかなり違う。だが、紛れもなくそこは鍛冶屋であった。
「ここ、鍛冶屋さんなのですか?」
「ああ、エルフは鍛冶が得意なのだよ。ドワーフたちの専売特許だと思っていたかい?」
「あ、いえ、その……」
「構わないさ。確かにエルフの鍛冶屋はドワーフより知名度は少し低い。それは彼らとは得意分野が違うせいもあるがね。試練の迷宮へ挑むような冒険者は力が相当上がってきている。モンスターの防御力もね。だから大きく、分厚く、威力のある単純な武器が好まれるんだ。そしてドワーフは力が強く、そういった武器防具を作るのが得意だ。人気が出るのもうなずけるさ」
「ではエルフの鍛冶は?」
「エルフはドワーフほどの力はないが、器用だ。武器に複雑な機工を組み込んだり、複雑な形にしたりな。本当は、使い手が充分な器用ステータスを備えていればドワーフの武器に負けない威力を出せるんだが……。まあ、傾向の話さ。レベルの高い鍛冶屋ならエルフだろうと力は強いし、ドワーフでも器用だよ」
「なるほど」
シオンはそこまで聞いて店内を見まわしてみた。確かにドワーフの店で見た大きく無骨なだけの武器は少ない気がする。もちろん大きいものもあるが、複雑な形状をしていたり可変機構が備わっている。
そこまで考えて、シオンはファイズに聞くべきことを思い出した。
「あの、もしかしたらこの剣を修理できませんか?」
そう言ってジェットの剣をファイズに見せる。
「ふむ、見せてみなさい」
ファイズはシオンから剣を受け取り鞘走らせる。だが、一瞥して首を振った。
「――無理だ。もし俺の腕が元通り二本あればやりようはあるが、この腕ではどうしようもない。――この店の商品も腕があったころに打ったものでね。今は研ぎや簡単な修理くらいしかできないんだ」
「そう、ですか……」
シオン落胆しかけ、ふと疑問が湧いた。それは、もしファイズの腕が治れば剣の修復の見込みがあるということではないだろうか。
「その腕は治らないのですか?」
「ああ、この島には今『医者』がいないからな。手足の欠損を治せるのは上級クラスの『医者』か、それ以上の治療魔法使いだけだ。『医者』は、いやそもそも上級クラスの覚醒者自体が滅多に現れない上、この閉鎖された島国では現れることは期待できないだろうな」
覚醒に必要な≪造血剤≫というアイテムもすでに枯渇している状況では、新たに『医者』へと覚醒するものが現れる可能性は限りなく低いということだ。
「そうでしたか……」
シオンはその言葉に、今度こそ落胆せざるを得なかった。シオンの思考は、自分が『医者』へと覚醒することができないだろうか、というところへとたどり着いたが、あまり現実味がないように思われた。
クラスチェンジというのは一種の才能である。相性と言ってもいい。
シオンは基本六種のクラスの才能があるが、その内の二種の組み合わせである一.五次職には、可能性だけで言えばすべてになれるはずである。だが自分の中の感覚で、無理、あるいは難しいだろうな、と思えるクラスがあるのだ。
ジェットも、基本クラスから考えて唯一可能な『パラディン』へのクラスチェンジを切望していたが、苦戦していた。
シオンも、『医者』への覚醒は難しいのではないかという予感がある。簡単にあきらめてしまうわけではないが、他の覚醒者を探す方が早いかもしれない。
どちらにせよシオンには今すぐにどうこうできる話ではないので、一旦その考えは置いておくことにした。
そういえば、シオンはまだ店を見ていない。ファイズがどんな武器を作るのか見てみたくなった。
「武器を見せてもらってもいいですか?」
「ああ、それは構わないが……」
なにせ、この店の商品は、ファイズが手を失って作れなくなってからほとんど追加されていない。買い取りもほとんど行っていないので本当に売れ残りばかりだ。
売れ残りと言っても出来が悪くて売れ残っているわけではない。むしろファイズの鍛冶の腕は天才と言っても過言ではなかった。ではなぜ売れないのかというと、単純に使い手の方の能力が足りないからであった。
器用さ。そのステータスも素早さと同じく、およそレベルが二上がるごとに一ずつ上がるステータスである。
この世界では、武器防具を装備するということは気=パスを通さなければならない。そしてその気が武器防具の隅々まで通ることで、耐久力が大幅にアップするのである。
もし、刃物にパスを通せない僧侶が剣を装備しても、刃の部分にはパスを通せず、瞬く間にモンスターの堅さに刃がつぶれ、ただの鉄の棒と化すことだろう。
あらためて店の商品を見てみると、刀身が波打つフランベルジュと呼ばれる剣や、枝わかれした剣、返しのついた槍など、パスを通すのが困難であると思われる形状のものばかりであった。
シオンはそれらを見ていくうちに、ひとつの武器に目が吸い寄せられる。それは他とは一線を画すほど複雑な機工を備え、無骨さと精巧さを兼ね備えていた。
「ああ、それかい? それは遊びで作ったものさ。――この街にそいつを使える者はいないだろうな。もちろん俺自身も含めてね。鍛冶の腕の限界が知りたくて作ったのさ」
シオンは、その武器を見て、彼なら本当にジェットの剣を修復できるかもしれないと思い始めた。




