第35話 こっちへいらっしゃい
ちょいエロ注意です。
ストーリーには関係ない話なので苦手な方は飛ばしていただいて構いません。
ある日の夜。
日中、突き刺さるような日差しに嫌というほど熱された地面は冷える間もなく街を温め続けている。
季節は夏に差し掛かっていた。
宿においてシオンはサツキとルリと部屋をともにしていた。サツキの言いつけである。
いつものことであった。基本的にサツキはシオンを猫可愛がりしているので、めったに放さない。
シオンは男であると同時に女でもあるのだから、どちらの部屋にいてもなんら不思議はなかった。
いや、どちらの部屋にいようと問題はある。
その問題が最近、顕著になってきていることにシオンは焦りを覚えていた。
「ふう。こうも暑いとシャワーを浴びるのがたまらないわね」
「さいこーデス!」
そう言って髪の毛を軽く拭きながら出てくるサツキとルリ。シオンたちが泊まっているクラスの高級宿になると、水タンクを完備しており、金を払えばいつでもシャワーを浴びることができる。
毎日、魔術師が水をタンクに満タン補充しており、それで収入を得ている魔術師も多いのだ。
魔術で出した水はすぐにマナへと再変換されてしまうが、密閉しておけばその限りではない。
もちろんサツキたちも、その水でシャワーを浴びれば身体を拭かなくともすぐに乾く。……が、そうは言ってもボタボタと水を滴らせて出てくるわけにもいかないので軽く拭いているのであった。
「お姉さま、ルリちゃん。またそんな恰好で! ちょっとは気にしてください!」
そう。このところは暑いせいか、サツキは部屋でいるときはとんでもなく薄着で、シオンは目のやりどころに困るのであった。
「どうしたの、シオン。あら、もしかして興奮しちゃったのかしら。そうよね、シオンは男の子でもあるのよね。でも私は女の子の扱いしか知らないから……。それでもいいならこっちへいらっしゃい」
そういってサツキは座っているベッドを指す。まだ少し濡れた黒髪が艶めかしい。シャツはゆったりとしたタンクトップに近いもので、隙間から大きな胸がチラチラとのぞいている。
いきなりそんなことを言われても、とシオンは思ったが、シオンとて健康な若者であり、ずっとサツキとルリのいる部屋で過ごしているのだ。そうした欲求が溜まっていないといえば嘘になる。
シオンはいつの間にかフラフラとサツキに近づいていた。
「私も、ジェットのために、男性恐怖症を治していかなければならないと思っていたのよ。きっと、シオンの身体なら大丈夫だと思うから、少しずつ練習したいの」
男性恐怖症を治すために、シオンをリハビリに使うということか。
それはシオンにとって都合のよい言い訳を与えてくれた。いや、もとよりシオンは奴隷である。求められれば応えるのが当然なのだ。
「ボ、ボクの身体なんかで良ければ、いつでも使っていただいて構いません。何より、ボクはお姉さまの奴隷ですから」
くすりと笑うサツキの唇を見ていると、シオンの頭の中はもう痺れたようにそのことしか考えられなくなった。これが、シドゥーク家の若いメイドの中で噂になっていた『女神の微笑み』である。本気になったサツキの微笑みで落ちなかった者は未だに存在しない。
「そう、いらっしゃい。ルリも、むうむう言ってないでこっちへ来なさい。あなたもいつもみたいに可愛がってあげるから。そしてシオンの男の子を満足させるのはあなたの仕事よ」
部屋の隅で様子を見てむうむう言っていたルリも、その一言で顔を輝かせてやってくる。
そんなことよりいつの間にかルリとそんな関係になっていたのか。
シオンのそんな考えが顔に出ていたのか、
「たまに、よ。女だってそういう気分になるときがあるわ」
と言い訳じみたことを言ってくる。
そういえば休みの日にジェットと買い物に出かけている間、二人は宿で暇を持て余していた。そんなこともあったのだろう。
まあ、仲が良いことは悪いことではないだろう、とシオンは思った。
「ほら、どうしたの。緊張しなくていいわ。初めはちゃんと手加減してあげる」
そう言ってサツキに抱きしめられ、シオンは考えることをやめた。
そして次の日の夜。
「それではお姉さま、行ってまいります」
「ええ、本当は私の役目なのだけれど。シオンに任せてしまってごめんなさいね」
そう言ってシオンはジェットの部屋へと向かった。
シオンがコンコンとノックすると、ジェットが扉を開けてくれる。
「うん、どうしたんだシオン?」
「ご主人様。今晩は寝所を共にさせていただきます。経験もない未熟者ですが、よろしくお願いします」
「ななな、なにを言っているんだシオン!? 急にどうしたっていうんだ?」
「ボクはサツキお姉さまにご奉仕させていただきました。ですから、今度はご主人様の番なのです」
「い、いやいや待て待て。どうしてそうなる。サツキはまあ、可愛い女の子に目がないからいつものことだし仕方のないことだが……」
「ボクは奴隷です。そして、ご主人様たちに対してご奉仕に差があってはなりません。サツキ様にも、しっかり自分の代わりを務めてくるよう言いつけられておりますから!」
言うや、シオンはするりと部屋へと入っていく。
「な、なるほど。って、ええ、おいちょっと!?」
「えへっ。初めてですけどボク頑張りますね」
そう言ってシオンは微笑む。一度目にしただけでサツキから盗んだのだろう、脅威の学習能力であった。
その微笑みはどこか妖しく、しかしサツキにも劣らない、名づけるならば『魔性の微笑み』。
シオンはもはや性別を超越して人々を虜にする魅力を放ち始めていた。
ごくり
ジェットはその微笑みに目を奪われ、唾を飲みこむしかなかった。




