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異世界で奴隷になったからご主人様を王にする  作者: 九番空白
第二章 はじまりの迷宮
40/71

第34話 どうなってんだ

『一週間』――およびそれに似た概念はこの世界にもある。……地域にもよるが。

 それは過去から現在にわたって日本人が転移してきている影響だろう。

 文明の発展に大きく関わった転移者はそれなりの影響力を持っていただろうし、その転移者が取り入れたシステムならば、とすんなり受け入れられたとしても不思議ではない。


 シオンたちは週休二日で迷宮探索を行っていた。

 少し無理をして疲労が溜まれば臨時に休息日を設けたりもして、決して焦らなかった。

 それでもシオンたちの攻略速度は群を抜いていた。

 それにはジェットとサツキが最初からレベルが高かったというのもあるが、一番の原因はやはりシオンの強さだろう。


 シオンの強さはレベルが上がるごとに爆発的な上昇を見せる。人の二倍の成長率なのだから当然であろう。

 現在のレベルは八。つまり単純計算で言うなら十六レベル相当。基礎ステータスも倍になったことを加味すればそれ以上、つまり大体のステータス項目が二十レベル前後の数値を誇る。

 だが中でも敏捷においてはレベル四十半ば相当という脅威の数値を誇っていた。

 これは、はっきり言って既にはじまりの迷宮の範疇を逸脱しており、モンスターなどもはや全く相手にならなかった。



――――――――――――――――――――

 鷲獅子紫苑

 人間 16歳 男/女 レベル: 8

 クラス/なし   ジョブ/ 奴隷/女奴隷

 HP: 40/40   (+20)

 MP: 47/47   (+23)


 攻撃: 41    (+23)

 防御: 34    (+19)

 魔法防御: 43  (+25)

 敏捷: 32    (+6)

 器用さ: 34   (+7)

――――――――――――――――――――

 知性: 15

 運: 12

――――――――――――――――――――

 奴隷ジョブにより攻撃10%上昇

 女奴隷ジョブにより器用さ10%上昇

――――――――――――――――――――



 この日、シオンとジェットは休日を買い物に費やしていた。

 サツキは例によって宿で留守番、ルリはその世話などを焼いている。

 ポーションなどの消耗品の買い込みや食材などを買い終えたあと、二人は武器屋を訪れていた。

 目的は、シオンの武器の新調である。


 シオンは、攻撃ステータスが上がったことにより、今ではパーティの最大火力源であるが、その足かせとなっているのが弓の弱さ(・・・・)であった。

 攻撃ステータスが上がればそのまま威力アップにつながる投擲ダガーと違い、弓の攻撃力は弓の張力によって決まる。

 シオンなら今の短弓を限界まで引き絞ることができるが、力があってもそれ以上引けない――無理をすれば壊れてしまう――なら、そこでその弓の火力の限界であった。

 もしもっと火力を上げたいならば、強い弓を買うしかないのである。



「店主、この店にある一番強くて丈夫な弓を見せてくれないか」


 店主は普段鍛冶もしているのだろう、よく鍛えられた体をしたオヤジで、角刈りの頭には汗を防ぐためにハチマキが巻かれ、全身よく日に焼けている。

 そのオヤジはジェットを一瞥すると納得した風に言った。


「おう、あんたか。有名だぜ、今迷宮攻略トップのパーティはあんたのとこか、イーサンってぇ帝国貴族のパーティだろうってな。俺もこの街でそれなりに商売やってるが、あんたんとこほど速いパーティはなかなか見ねぇ。……イーサンはウチにも何度も来ているが、地道な努力家だな。派手さはねぇが時間をかけてパーティを集め育ててる。近々攻略できるんじゃねぇかってウワサだぜ。……もしかしてあんたらもそろそろ攻略して()へ行くのかい? じゃあ念入りに準備していかなきゃな! 行ったら簡単にゃ帰って来れねぇんだからよ。……ああ、そうだ、すまんすまん、弓だったな。ちょっと待ってな」


「ああ、頼む」


 なかなかおしゃべり好きの気さくなオヤジである。ジェットを上客と見込んでのことかもしれないが。

 オヤジを待っている間、シオンとジェットは陳列されている武器や防具を見回していた。

 壁にかかっている剣や槌、槍などは盗難防止のために短い錠付きの鎖でつながれており取り外しはできず、万が一客が持って暴れたりできないようになっている。鞘を引けば刀身は見て回れるので物色には問題ない。

 割と安価なものばかりで、高級なものは店の奥にしまってあるのが常識である。よって、もし上物を探すならばこうして店主に聞くのが手っ取り早いのだ。


「ボクたち有名になっちゃいましたね」


「ああ、そうだな」


 シオンたちはこの街の現在のトップクラスの攻略者だ。ジェットとイーサンのパーティは冒険者たちの憧れの的といってもいい。

 冒険者たちは彼らのようなトップチームに入ることを夢見たり、少しでもマネをして攻略を進めたりしている。

 街中で声をかけられたり握手を求められたりすることも増えた。それは少し煩わしくもあったが、嫌な気分でもなかった。


「それにしても、行ったら帰って来れないというのは何なのでしょう」


「迷宮最奥の転送陣をくぐればそこは遠く離れた地だ。戻るための(・・・・・)転送陣などない(・・・・・・・)のだから、ここへ戻ってこようと思えば陸上手段しかない。そういう意味さ」


「そうでしたか。では最後の迷宮へと到達して凱旋した正騎士様たちというのは偉業をなされたんですねぇ」


「ああ、彼らは遠くトゥーライセンへと到達し、厳しい道のりを踏破して戻った英雄たちなのだ」



 そんな話をしながら壁の武器や防具を見ていると、奥からオヤジ店主が戻ってきた。


「待たせたな。弓以外にもおすすめを持ってきてやったぜ。気になったら見てやってくれ」


 抜け目なく商売っ気を出してくるオヤジである。

 その手に持つ武具らは一目見て質の良さがわかるほどの品々であった。


「弓はこの複合弓(コンポジットボウ)が一番威力が高い。金属と木や骨などを合成して作られたものだ。だが、この街のレベルでこいつを引けるやつははっきり言っていない。試練の迷宮へ挑む用でな。仕立ても良くていい品なんだが、売れないっつーのが問題よ。……こっちは長弓だな。威力はあるしこれは多少引きやすい。だが、ダンジョンで使うために少し短くしてあるとはいえ、それでも狭い場所では取り回し(にく)い。……さあ、どうかね、兄ちゃん?」


 その言葉をジェットはシオンにそのまま受け流した。


「どうだ、シオン?」


「はい、ちょっと引いてみてもよろしいでしょうかっ」


 シオンはコンポジットボウを手に取り、弦に指をかける。


「って、おいおい。そっちの嬢ちゃんには無理ってもんだぜ。そもそもここいらで引ける者はいねえんだ。そんな細腕で引けるわけが……ってなんだとおおおおお!?」


 シオンは涼しげな顔でぐいっと弦を引き、ふむ、と納得してゆっくりと弦をもどした。そして、今度は長弓を手に取り、同じように引きを確かめる。


「どどど、どうなってんだ嬢ちゃんのその力は……」


 オヤジが驚いているのは無理もない。当然、この世界にはレベルというものが存在し、人の実力は見かけとは完全には一致しない。どれだけひ弱そうに見えても高レベルならば強いし、どれだけ筋骨隆々だとしても低レベルならば弱い。

 だが、完全には一致しないが、充分指標にはなる。

 筋肉の量は基礎ステータスに大きく関わってくる。レベルアップによるステータス上昇量も、鍛えた部分にはボーナスがつく場合が多い。鍛錬は無意味ではないのだ。

 この街の冒険者のレベルは十を超えることはほぼない。はじまりの迷宮ではそれが限界だからだ。

 だとすれば、基礎ステータスにレベル分を上乗せして、それでも鍛えている者ですら引けないという弓が華奢(きゃしゃ)なシオンに引けるなどと、どうして予想ができようか。


「ボク、こっちのコンポジットボウが気に入りました。やっぱり長弓は取り回しがし難いですし、威力もこっちの方が高いとのことなのでっ」


「ああ、そうだな。店主、これはいくらだ?」


 とんとん拍子に運ぶ会話にオヤジ店主はあっけに取られていたが、それでも自分の仕事を思い出したらしく、二人に金額を告げた。


「金一枚だ」


「……むぅ」


「たっかいよおじさん! どうせ売れないんでしょ、もっと安くしてっ!」


 シオンはその金額を聞いた衝撃で反射的に値切っていた。


「あーいやー、確かにそうなんだが……間違って仕入れちまった時にそのくらい払っちまってよお。でも確かにあんたらを逃したら売れそうにねぇしなあ」


 オヤジはうんうんと唸っている。何やら考え込んでしまった。


「わかった、それじゃあ俺用のメイスを見繕ってくれ。それと合わせて買おう。それなら少しは値引きしてくれるか?」


 業を煮やしたジェットが助け舟を出す。

 ちなみにサツキは槍を新調してまだ間もないし、ルリは特に武器を振るう役割をこなさない。


「いいんですか、ご主人さま?」


「ああ、これは俺たち全員のためでもある。遠慮するな」


「ちっ、負けたぜ兄ちゃんにはよお。なんだい、兄ちゃんはメイスを使うのかい。分かった、こっちも腹ぁくくったぜ。それなりのもんを付けてやらあ。……兄ちゃんは商人に鞍替えした方がいいぜまったく」


 結局、かなり上等なメイスとコンポジットボウを合わせて金一枚で購入した。



「でも、どうしてメイスなんですか?」


 帰り道、シオンはジェットに尋ねた。


「俺は今後、パラディンを目指さなければならない。というか、もうなれなければならない頃だというのに、中々なれずにいる。……パラディンになったら刃のある武器は使えなくなるからな。今から練習だ。もしかしたら、それが原因でなれないのかもしれないしな」


「なるほど、そうでしたか。でもボクとルリちゃんの二人も僧侶がいますから、ご主人さまは無理してパラディンになろうとなさらないでも大丈夫ですよっ。ご主人さまは最硬(・・)の騎士なんですから!」


「はは。ああ、そうだな。……そうだ、シオン。この剣はこれからお前が使うといい。お前の剣も相当力不足になってきているだろう。シオンの剣と弓、そして俺のメイス。全て良いものに交換できてよかったじゃないか」


 そういってジェットは自分の愛用の剣をシオンに渡した。


「よ、よろしいのですか? これはご実家から持ってこられた大切な剣なのでは……?」


「いや、私もレベルが低かったからな。家の武器庫にあった装備できるギリギリの物を持ってきただけだ。もっと良いものもあったのだから、持ってこればよかったと今では思っているよ。だからそれは気にせず使いなさい」


 シオンはそれでも何度も礼を言い、剣を受け取ったのだった。

ギルマスとかぶるので店のオヤジをハゲから角刈りにしました

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