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異世界で奴隷になったからご主人様を王にする  作者: 九番空白
第二章 はじまりの迷宮
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第33話 真の弱点

 シオンたちは魔術師の二枚構成で五階層を探索していた。

 ポイロウをウィンドカッターで落とし、飛行能力を失ったポイロウをサツキやジェットがとどめをさしている。

 するとシオンの中にまたしてもふつふつと疑問が湧きあがってきた。


「ポイロウに対してウィンドカッターを使用するのは正解なんでしょうか」


 シオンはその疑問を口に出す。これは、モンスターの弱点属性に対する疑問だ。

 するとジェットが反応して答えた。


「ファイアーボールは当たればダメージが大きいが、回避されやすい。同様にストーンバレットやスプラッシュウォーターも当てるのが難しい上に、当たってもあまり効果がなかったじゃないか。サンドウェーブは高さが出ないから当たりそうにないしね」


「そうなんですよね、ボクもウィンドカッターで正解だというのはわかるんです。でも、なぜ正解なのか疑問に思ってしまって……」


 一応、ルリはここまでの攻略で遭遇したモンスター全部に、それぞれの弱点を探す意味で全ての属性魔術を試している。その上で、ダメージの通りが良いと思われる魔術、あるいは当てやすい魔術を選択してきた。それをシオンたちも見ているし、納得していたはずである。


「なんていうか、ファイアーボールは火属性、スプラッシュウォーターは水属性っていうのは分かりやすいですよね。……でも、ウィンドカッターって風属性というよりも、斬撃じゃないですか? ストーンバレットも石が飛んでいくだけなので打撃にしか思えないですし、属性的なダメージって与えてないような……」


「……ふむ、なるほど。確かにそう言われればそうかもしれないな。風属性には他にもつむじ風を起こすワールウィンドがあるが、あれは風属性という気がする。砂の波を起こすサンドウェーブも土属性という感じだな」


 一つの属性には一種類以上の魔術がある場合がある。というか、ほとんどだ。≪火おこし≫や≪水洗≫、≪微風≫など、戦闘以外の魔術も含めれば実はもっとある。


「ルリもそう思います! ポイロウにはウィンドカッターが一番有効なのは間違いないと思いますけど、弱点属性だからというよりも普通に斬撃としてダメージを与えているような気がするです。ポイロウは別に風属性が弱点なわけではないと思います」


 確かに当てやすさを考慮しなければ、ダメージとしてはファイアーボールの方が大きいのだから、本来は火属性が弱点なのだろう。

 だが、例え仕留めきれなくとも、当てやすい、そして翼を切り裂き地面に落とすことができるウィンドカッターの方が有効なのだ。


「つまり、本来火属性が弱点であるはずのポイロウだけれど、私たちは自然とウィンドカッターを選択している。理由は、この方が戦いやすいから。……ということは今まで戦ってきたモンスターや、これから戦うモンスターもそういう『真の弱点』のような、本当に効果のある攻撃方法があるのではないか、ということね」


「そうなんです!」


 サツキのまとめにシオンは満足の声を上げる。


「なるほどな、まあ全てのモンスターにあるわけではないだろうし、特に手間取るモンスターでもなければわざわざその『真の弱点』を探す必要もないだろうがな。……ここまでだと四階層のガウルだろうか。奴の経験値効率は高いし、もしガウルを効率よく倒せる方法が見つかれば良い稼ぎ場所になるのだが」




 シオンたちは再び四階層へと引き返し、ガウルと戦ってみることにした。

 ポイロウとルドンボアという構成の五階層は手間がかかる割に金銭的にも経験値的にも実入りが少ない。

 よって、ガウルの効率の良い狩り方を探ることにしたのだ。


「……一通り試しましたけど、やっぱり毛皮に阻まれちゃうですね」


「今までは火属性で毛皮を焼き、近接攻撃で仕留めてきましたけれど、簡単ではありませんね」


「そうね、あの毛皮があると斬撃も打撃もダメージを低減されてしまうのだもの、真っ先に毛皮をどうやって排除するかを考えてしまうわよね。……もしかして、それが間違っているのかしら」


「……うーむ。少し気になっていることがあるんだが」


 ジェットが思い出すように語りだす。


「スプラッシュウォーターを試したときなんだが、ほとんどの水は毛皮にはじかれていた。だが、少しだけ濡れている部分を攻撃したとき、斬撃が深く入った気がするんだ」


「……! もしかして、あの毛皮は水分を含むと防御が下がるということ!?」


「ああ、可能性がある。だが、ケモノというのは毛づくろいをして全身に油分を広げ、水をはじくようにしている。スプラッシュウォーター程度の水量では十分に濡らすことはできないだろう」


「それならサンドウェーブで汚してからならどうです?」


「ルリちゃん、それだ!」



 一行はガウルを探した。

 都合よく、一匹でいるガウルを見つけ、早速試してみる。

 ジェットがガウルの前に立ち、トーントをかける。


「≪サンドウェーブ≫」


 そこへルリが砂かけの魔法を放つ。詠唱なしだからこそできる速射だ。

 すかさずシオンが水流の魔法を放つ。


「≪スプラッシュウォーター≫」


 ばしゃん


 直前に食らった砂と水が合わさって、ガウルは泥だらけになった。

 トーントの効果が切れて大きく後退しようとしたガウルだったが、泥に足を滑らせている。

 本来ならば一足飛びで三~四メートルは跳びはねるガウルが見る影もない。


「はっ!」


 そこへサツキの突きとジェットの斬撃が入る。

 これも本来ならば毛皮が衝撃を吸収して浅い傷を負わせることしかできないはずが、たっぷりと水分を含んだ毛皮は衝撃をそのまま通した。

 ちなみに斬撃には出血属性が含まれているので、相手のHPに関係なく皮膚を浅く傷つけることは珍しくない。

 だが今回は、ざくりと――もちろんHPがほぼ底をつかない限り大きな傷を負わせることはできないが――毛皮部分を切り裂き、深いダメージを負わせた感触を二人に与えた。


「行けるぞ!」


「ええ!」


「ボクも行きます」


 シオンも戦士にクラスチェンジしてガウルに畳みかけた。

 ガウルは次々と襲い来る衝撃に立ち上がることもできず、なすすべなく息絶えた。


「これは……凄いぞ」


「やったー」


「やったです」


「素晴らしいわ」


 サンドウェーブとスプラッシュウォーターのコンボはその後も大活躍した。

 ガウルはたとえ泥のぬかるみから抜け出たとしても、全身に付いた泥水の重さで大きく敏捷が損なわれるのだ。

ブルンブルンと体を震わせて泥や水を飛ばそうとするガウルもいるが、それはジェットたちが一斉攻撃を加えることができる致命的な隙となる。

 二匹以上のガウルとの戦闘になると顕著(けんちょ)で、今までからすると戦闘時間は五分の一以下、いや、下手をするともっと短縮できた。


 ジェットたちも泥水で汚れることもあるが、魔術とは空気中の魔素(マナ)と呼ばれるものを『呪力』によって変換して起こす現象であるので、密閉空間に保管したりしない限りにおいて、水も砂も数十秒から数分で空気中の魔素(マナ)へと再変換されるため問題ない。


 これによってシオンたちのレベルは加速度的に上がっていくことになった。

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