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異世界で奴隷になったからご主人様を王にする  作者: 九番空白
第二章 はじまりの迷宮
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第27話 ツラ貸しな

 シオンたちはパーティ登録が終わった後、魔石とガルドンボアの素材を換金した。大銅貨八枚と少し、つまり銀貨一枚にも満たなかった。これを四人で分けるとなると一日の稼ぎとしては中々に厳しいだろう。

 もっとも、シオンたちは今日のところは全力で稼ぎにいったわけでもないし、実力的にはもっと先の階層まで行けそうである。



「おいおい、まさかそのガキの奴隷と幼女まで登録したのかよ。冒険者なめすぎじゃねーのか? 子供連れの観光気分で迷宮うろつかれちゃこっちも迷惑なんだがよ」


 そうしていざギルドを出ようとしたところで、酒場で少々酔った冒険者にからまれた。もはや冒険者というよりもゴロツキといった風体で、まだそれなりに若いのだろうがどうにもおっさん臭い。

 たしかに、シオンは外見は多少中性的だが華奢な女の子で通るし、ルリに至っては完全に幼女だ。シオンを奴隷と見破るのは首に嵌められた首輪を見れば一目瞭然である。


「失敬な! 私はこれでも立派な成人ですよ。小さいのもぺたんこなのも種族特性デス!」


 ルリの反論に、「いや、背はそうだが、俺が見た鳥獣人の女性の体型はちゃんと大人の女性だったが……?」とジェットがツッコミを入れた。

 ルリはそれを聞いてガーン、と落ち込んだ。小さい頃に集落を追い出されてほとんど同族の記憶がなかったのだ。ルリは見事に寸胴型の幼女体型である。自分は翼以外、鳥獣人として平均的なのだと思い込んでいた。


「そ、それはマヂですか……はうぅぅ」


 ジェットはまずいことを言ったかな、と頭をかいていた。


「だ、大丈夫だよ、ルリちゃんはかわいいよ!」


 シオンはルリを抱きしめ、頭をなでてやりながら言った。


「ほんとですか? ……よかったです! こんな体型ですが、ルリは合法ですからね」


 謎のアピールをしだしたルリをサツキも「あらあら」と微笑ましく眺めている。


「って、おいコラァ! なにを無視して喜劇かましてくれてんだァ!? 先輩に対する礼儀がなってねーんじゃねーのかおい」


 酔った冒険者の怒りをかったようだ。


「それで、あなたは一体何が言いたいのかしら。私たちがどんなパーティを組もうとあなたに関係ないでしょう」


「うひょお。気の強い美人ってのもいいねえ。……あんたうちのパーティに入りなよ。これでも俺たちは結構ヤルんだぜ。先日、五階層に入ったとこだ」


「残念ですけれど間に合ってますわ、先輩。うちのメンバーはみんな頼りになりますから。五階層にもすぐにたどり着けると思います。それにあなたたちは好みじゃないわ」


 サツキが煽るようにつっぱねると、飲んで様子を見守っていた仲間が大笑いしだした。硬貨が行きかうところを見るとどうやら、ナンパが成功するかを賭けていたらしい。

 それを見てしまってはナンパ男は引くに引けない、というよりも最初から半分こうなることは織り込み済みだ。素直にサツキたちが仲間になるか、下僕になるか、それとも力ずくでそうさせるかだ。


 何も珍しいことではない。彼らは新参パーティにいる『才能あるもの』を引き抜こうとしているだけであって、才能は一箇所に固めるべきだと信じている。それこそこの迷宮を攻略するために必須の行為であると――。そしてそれはある意味では正しい。

 足を引っ張る仲間のせいで『才能あるもの』が埋もれ、死んでいくのを彼らは何度も見ているのだ。であれば、自分たちが活用してやることの何が悪いのか。残された才能のないものがどうなろうと知ったことではない。この世界において、命は決して等価ではないからだ。使えるなら下僕として稼がせるし、それもできないようなら、早いうちに冒険者稼業に引導を渡してやるのも優しさと言えなくはない。

 ギルド内で(・・・・・)公然とこのような行為が行われていることからも、それが一つの方法であることが認められているのだろう。もしくはただ単にこの街の実力主義の気風を尊重し、揉め事の範疇に収めるならば目をつぶる、ということか。


 そして、それはサツキたちも充分に理解していたのである。このギルドに来る前からこういうことはあるだろう、と覚悟して打ち合わせしていたのだ。ソロの冒険者ならば見向きもされないが、新参パーティで、どうやら一階層は難なくクリアとなれば声がかかる可能性が大きい。いや、一階層クリアなどなくともジェットの赤銅色の肌、サツキの美貌、シオンの魔性、ルリの可憐さを自覚しない彼らではなかった。これだけ揃って人目を引かないはずがない、と。

 よってシオンとルリの実力が分からないうちは登録するつもりはなかったが、それは今日の迷宮へのアタックで杞憂であることがわかった。


「そ、そうかい、わかったぜ。じゃあ俺がちょいと実力を見てやるよ。裏の訓練場までツラ貸しな。拒否権はねえぞ」


 その言葉を合図に後ろで飲みながら笑っていた連中が急に剣呑な雰囲気を醸し出す。逃がす気はない、ということだ。


「仕方ありませんわね。甚だ迷惑ですけれど、付き合って差し上げましょう」

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