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異世界で奴隷になったからご主人様を王にする  作者: 九番空白
第二章 はじまりの迷宮
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第26話 冒険者ギルドへようこそ

 街の中心部にある大きな建物が、冒険者ギルドである。

 敷地は広く、裏手には訓練場もある。

 利便性のためか、正面入り口は大きく壁が取り払われ、中の喧騒が外まで漏れ出している。

 そして冒険者ギルドのマークが大きく描かれた看板が吊り下げられていた。

 冒険者はここに迷宮での成果を買い取ってもらいにくるし、商人や人々はここにそれらを買いに来る。



「おっきいです!」


 ルリの体格から見ればことさら大きく見えることだろう。

 中に入るとだだっぴろい空間がカウンターでL字にカットされ、内側が受付になっているのが見える。

 クエスト依頼の掲示板は入口から入ってすぐの場所に立っていた。

 左奥は交流所という名の酒場になっている。収入を得た冒険者がそのままここで反省会や祝勝会などと言って飲み食いしてしまうのも無理はない。特に、パーティを探している冒険者たちは、ここを交流所として利用できるため重宝する。夕方ともなればもう既に騒がしい。

 ギルドの周りには他にもそういった居酒屋やシャレた店もあるので、少し静かに飲みたい場合など、目的に応じた供給がなされている。ここら一帯はいわゆる歓楽街だ。


 ジェットはギルドの受付カウンターへと歩いていった。シオンはそれに続きながらきょろきょろと周りを見渡す。こういう雰囲気は珍しい。

 柱やテーブルはトレントから採取できる木材だろうか。頑丈そうだ。

 酒場のウェイトレスに目がいく。なんと、メイド服であった。

 もちろん、元の世界のメイド服とは細部は違うが、充分にメイド服と呼べるものであり、可愛らしかった。


 ――き、着てみたい!!


 シオンの中の女の子が叫んでいた。

 じろじろと見ているとサツキが声をかけてくる。


「どうしたのシオン、かわいい娘でもいた?」


 どれどれ、とサツキも値踏みしはじめる。割と目がマジである。

 一通り娘たちに目を通すと、サツキは言い放った。


「なかなか可愛らしい娘たちだけれど、うちの屋敷にいた娘たちの方が上ね」


 それになにより、とシオンを後ろからがばっと抱きしめる。


「そもそもシオンより可愛い娘なんているわけがなかったわ!」


「ひゃうっ」


 と、直球で返されたシオンは真っ赤になってたじろいだ。

 それを見たルリは、むーと少し頬を膨らませる。

 ルリは負けていられないとばかりにシオンの前からひっついた。


「で、何を見ていたのです?」


 ルリに問い詰められ、シオンは照れながら答えた。


「あ、あの服が着てみたいなって。……えっと、ボクはお姉さまとご主人様の奴隷ですし、ご奉仕するのが当然なのであって、だからボクがああいう服を着るのは自然なことというか……」


「じゃ、じゃあ私もシオン君にご奉仕するです。私をシオン君のメイドにして欲しいです!」


 サツキは腕の中でもじもじするが二人がたまらなくかわいくなってルリごと抱きしめた。


「わかったわ。二人にかわいい服買ってあげる! 落ち着いたら普段着の替えが必要だと思っていたし、今度買いに行きましょう」


 その光景をジェットはやれやれ、といった風に見ていた。




「冒険者ギルドへようこそ」


 胸の大きな美人の受付嬢が対応してくれる。

 やはりこういった職にはそういう娘が選ばれるのだろうか。

 ギルドとしては冒険者が増えてくれることが収益へとつながるため、事務能力が必須なのは当然として、それ以外の要素としてそれなりに魅力的な女性が勧誘の役も担っているのだろう。

 交流所のウェイトレスたちも同じだ。

 働く女性の側からしても、ギルドの守護があるため身は安全だ。

 当然、求められる能力は高く、その分高給であり就職倍率も高いと思われる。


「登録がしたいのだが」


 ジェットが応えると、受付嬢はうれしそうに微笑んだ。


「冒険者登録ですね、承知いたしました。――ではこちらの書類に必要事項を記入して頂いた後、鑑定水晶に血液の登録を行っていただきます。パーティ登録される方がいらっしゃいましたら同様にお願いいたします。犯罪や、ギルドに対して多大な不利益行為を起こされましたら罪状次第では粛清もあり得ますのでご注意を。……書類に関してですが、記入の際に、冒険者登録をされる方とそのパーティの方は明確に区別されていることにご注意くださいませ。パーティの方はそのままですが、冒険者として登録される方はこれ以降、ジョブが『冒険者』となります。ジョブボーナスは攻撃五%、防御五%の上昇となっております。ご理解いただいた上で登録される場合は、登録料として一人銀貨一枚を頂戴いたします」


 シオンからしてみれば、犯罪については抜け道が多すぎる気がしたが、この文明レベルではまだ血液鑑定ができるだけマシと言えるのかもしれない、と思いなおした。

 登録料については、ほとんどそのままの意味だろう。この手続きだけでそれだけの手間はかかっている。


「了解した。ありがとう」


 ジェットは記入用紙を受け取り、こちらへ戻ってくる。


「さて、みんなはどうする? 俺はジョブが『騎士』から『冒険者』に変わっても構わない。というか、防御が多少下がろうが攻撃が上がるなら望むところだ」


 ジョブとしての『騎士』は防御に一〇%の上昇ボーナスだ。ジェットの防御は確かに過剰とも言える。

 ちなみに騎士とは、人あるいは国を護ると誓った人物であり、国に直接仕えるもののほとんどが彼らで、普段は護衛、戦時においては軍人として勤めるもののことである。王国で発生した迷宮(ダンジョン)の討伐なども仕事だ。アルバシア王国は現在戦時下ではなく、ある程度の自由はきく。というより、『正騎士』を目指す旅に出るものを――しかもジェットとサツキのような上級貴族を――咎められるはずもない。『正騎士』とは一騎当千の英雄たちであり、その数は圧倒的に少ない。国としても『正騎士』が増えるなら願ったりかなったりだ。


 やや話がずれたが、ジェットの第一の目的はサツキを護ることであり、サツキに雇われているわけではなく自主的なものだ。目的が果たせるならば『騎士』である必要はない。トゥーライセンへと至り、王国に帰ることができれば今度は『正騎士』へとなれる。よって今現在のジョブは『冒険者』に変わっても全く問題はなかった。


「私は『騎士』のままでいくわ。クラスは戦士だし、攻撃力が不足しているわけではないから。必要にかられれば『冒険者』にはここに来ればいつでもなれるのだし」


「ああ。それがいいだろうね」


 サツキは『騎士』のままでいくと宣言する。


「ボクはご主人様たちの『奴隷』ですから」


 そもそも奴隷は借金を返すまで冒険者になることはできない。そんなことができればいつでも奴隷をやめることができてしまう。……もっとも、シオンはジェットとサツキに認められているのでいつでも奴隷をやめることができるのだが。

 一つ大きな判断材料としては、男性女性ともにジョブとしては『冒険者』であり『女冒険者』などというジョブが無い以上、『奴隷』と『女奴隷』の二つのジョブボーナスが得られる分、シオンにとっては奴隷でいることの方がメリットが大きいだろう。


「私はシオン君の『メイド』になるって決めたので! さっき!」


 ジョブとは公的機関に認められたり、個人に雇われたり、あるいは大衆に認知されたときなどに固定される。たとえそれが自称であっても、認知されればよいことになる。この場合、ルリはシオンにメイドとして雇われなければならない。ただし、報酬は金銭に限らない。

 ルリにとって名前を貰った(・・・・・・)ことは既に多大な報酬を貰っていることと同義であった。


「わかったよ、ルリちゃん。……でもそんなに気にしなくてもいいのに」


 シオンはルリの好意がこそばゆかった。


「やったです、ジョブがメイドになりました! 効果はMP五%と器用さ五%の上昇ですね。私にとっては冒険者より良かったかもしれません」


 メイドは家事をこなすためのMP量と器用さが上昇する。この世界では≪照明≫の魔法や≪魔法収納≫など、家事と生活魔法は切っても切り離せない関係にある。

 確かに、ルリにとって近接戦は限定的な場面でのみ活躍するオマケであり、なくてもパーティへの影響は少ない。防御上昇は無駄にならないだろうが、MPと器用さの上昇は魔術師、僧侶としてはメリットが大きかった。


 これで全員の意向が出そろったので、冒険者をジェット、残りの面々はパーティとして用紙に記入した。


 用紙を提出すると、血液登録をさせられた。

 指先を針で刺し、鑑定水晶に垂らす。

 鑑定水晶は複雑な光を放って模様(パターン)を映し出し、特殊な魔力感応紙がそれを記録していった。

 最後に銀貨を四枚払うと、登録が完了した。


「お疲れ様でした。皆様はパーティネームなどお持ちでしょうか。無ければ、仮にライオード様のパーティとしておきますが。これはいつでも変更可能です」


「ふむ、なにか案はあるかい?」


 それぞれがうーん、と悩んでいると、そこでサツキが思いついた、とばかりに声を上げる。


「【パープル・グリフィン】なんてどうかしら」


 紫色のグリフィンを想像してしまい、(び、微妙なのでは……)、と各々の心の中で葛藤が始まるものの、サツキは自信ありげだ。


「ジェットの赤。ルリの蒼。紫苑の花は紫だし、サツキだって赤紫の花よ。みんな混ぜれば紫じゃない」


 そういわれてしまえば否定する材料はなくなる。いや、グリフィンはどうなんだ、ただのシオンのファミリーネームじゃないか、と思ったがやはり対案を出せない以上、何も言えなかった。


「わ、わかった。それで行こう」


 こうしてパーティ【パープル・グリフィン】は発足した。

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