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第3話 こいつが欲しい

 サルベス=デッコは焦っていた。


 冒険者を目指し、はじまりの迷宮に挑戦するため、ここレッテンの街へとやってきたものの、さっそく現実の厳しさを感じていた。


 といっても、サルベスは決して冒険者としての才能が無いわけではなかった。ダンジョンの一階層ですら踏破できずにリタイアしていく者たちが少なくない中で、自分はどうやら一階層の魔物と戦っていけるだけの才覚は持っているらしかった。サルベスは固太りした図体をしており、器用ではないが、腕力はあった。

 しかし、一人で行けるのは一階層がせいぜい。強力な装備を買う金と、仲間が必要だった。


 冒険者ギルドでパーティを募集するも、実績も実力も無い自分が有名パーティに誘われるはずもなく、なんとか日銭を稼ぐ程度では装備を新調することもできなかった。

 もっとも、新人たちは誰も彼もが自分と似たりよったりであったが。


 この新人たちとパーティを組んで、一緒に強くなり、ついには迷宮を踏破する。それがおそらく正道なのであろうが、だからといって誰でもよいわけではなく、なにより険しき道のりであった。


 当然ながら、パーティを組めば魔物の相手も楽になるが、得られる経験値も相対的に減る。先の階層への挑戦もでき、今より稼げるだろうが、人数が増えた経費や分け前分を上回れるかは効率次第だ。人数が増えれば増えるだけ必要なアイテム、装備も増えるのは道理だ。

 頭数だけ増えてもダメなのだ。信頼しあい、連携し、それぞれの力を高めあってはじめてパーティは成功する。一筋縄ではいかないのは明白であった。


「奴隷でも買えればなぁ」


 サルベスがそう考えてしまうのも無理はなかった。


 奴隷をパーティに組み込むことはよくあることであった。とはいえ、奴隷はそれなりに高価であるし、人権も保障されている。契約時に決められた返済金額分の働きをすれば奴隷から解放もせねばならない。一緒に迷宮にもぐらせるには装備が必要なのも変わらない。経験値が減るのも同じだ。ただ、自分の意向に逆らわない、雑用をまかせられるといった利点はあるにはあった。

 ――あくまで合法に手に入れる奴隷に関しての話、であるが。



 アルバシア王国、ギアマール公国、グルモース教国の中心に位置するはじまりの迷宮を臨むレッテンの街は、三国のどこにも所属していない、都市国家であった。それは、はじまりの迷宮を一国が所有することを防ぐためであり、治安はあまり良いとは言えなかった。


 自治は行われているし、法もある。が、はじまりの迷宮を目指して人々が流入してくるこの街は人種のるつぼ(・・・)であった。人間国家に囲まれた地ということもあり、さすがに数は少ないが亜人や獣人もいる。トラブルは日常茶飯事、すべてを取り締まることなど不可能であった。


 そんな街のことだ、よからぬ商売もある。人権を無視した奴隷なども取引されているのだ。

 もっとも、結局は大金が必要なのだが。

 



 サルベスはため息をつきながら、寝坊したせいで遅いスタートをかけようと迷宮に向かうことにした。勤勉な連中はとっくに潜っている。こんなことだから日銭を稼ぐに留まり、貯金ができないのだった。

 入り口に到着すると、なにやら壁の文字をぶつぶつとつぶやきながら真剣に読みこんでいる子供を見つけた。だぶついた見慣れない服を着ている。短髪で黒髪、顔は異常に整っていた。女と見まがうほどだが、服装からしてもおそらく少年だろう。


 エルフか。いや、耳は尖がっちゃいないな。ハーフ、いや、クォーターか?

 それにしてもこんなところで何してやがるんだ、とサルベスが考えていると、壁の文字についての記憶がよみがえって来た。


 そういや、あれは転移者とかって連中のためのメッセージだって聞いたな。見慣れねぇ服、とくればあのガキ、転移者か。



 サルベスは知らず知らず、忍び足になっている自分に気づいた。



 てことはなにか? アイツはこの世界にやってきたばかりで身寄りもなにもねえってことか?

 う、ははは。これはもしや絶好のチャンスなんじゃねーのか?



 サルベスはそう思うともう止まらなかった。あまりに衝動的な犯行。



 ――俺はこいつが欲しい!



 サルベスは後ろから近づき、いっきに首に腕を回し、絞め落とした。


「ぐっ……」


 子供はすぐに気を失った。ズボンの上から下腹部を触ってみれば柔い感触。


「……やっぱり男か。まあこれだけの上物だ、売ればとんでもなく高く売れるんじゃねーか? ……おっと、誰かに見られてもいけねぇ、遠回りして街の裏から入らなきゃな」


 サルベスは少年を担ぐと、レッテンの街へと戻りだした。



 はじまりの迷宮は小高い山の中腹にある。迷宮の周りに街を作れれば面倒はなかっただろうが、山の中腹には街は作れない。結局、水の便も考えて街を作れる一番近い場所が今のレッテンということだ。


 昼を過ぎたこの時間、人通りは少ないが皆無ではない。サルベスは脇道にそれ、森の中を通って街へと帰った。

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