第24話 レベルアップだね
シオンとルリは同時に歓声を上げた。
「う、あ……、ああああああん」
「ふわああああああ……」
身体の奥から力が溢れ出す感覚。思わず嬌声のようになってしまう。
それは得も言われぬ快感であった。
「おや、レベルアップだね」
「あら、おめでとう二人とも。――あそこに二階層の安全地帯があるわ。休憩がてら、ステータスを確認してみましょうよ」
シオンたちは一階層と同じく、泉の部屋へと入った。
そこには先に来ていた冒険者が思い思いに休息を取っていたが、この部屋はそれなりの広さがあるので場所には困らない。
ただし、ジェットの肌の色やルリの小柄さ、サツキとシオンの美貌はさすがに周囲の目を集めるようだ。
だが、ぶしつけに話しかけてくる者がいなかったことは幸いであった。
「それじゃあ、ステータスを見せてくれるかい?」
クラスチェンジを解除し、シオンとルリが頷くとステータスが開示された。
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鷲獅子紫苑
人間 16歳 男/女 レベル: 2
クラス/なし ジョブ/ 奴隷/女奴隷
HP: 20/20 (+3)
MP: 24/24 (+4)
攻撃: 18 (+4)
防御: 15 (+3)
魔法防御: 18 (+4)
敏捷: 26 (+1)
器用さ: 27 (+1)
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知性: 15
運: 12
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奴隷ジョブにより攻撃10%上昇
女奴隷ジョブにより器用さ10%上昇
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ルリ
獣人 17歳 女 レベル: 2
クラス/ なし ジョブ/ なし
HP: 8/8 (+2)
MP: 21/21 (+3)
攻撃: 11 (+1)
防御: 8 (+1)
魔法防御: 17 (+2)
敏捷: 13 (+0)
器用さ: 10 (+0)
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知性: 10
運: 11
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「……まさかとは思っていたけれど」
「……ああ。これは大変なことになってきたぞ」
サツキとジェットは思案顔だ。
まあ、シオンにもそれは理解できる。ルリの成長率と自分のを比較すれば一目瞭然であった。
「レベルアップによる成長率にまで『二人分の能力』の効果は及んでいるようですね」
考えてみれば当然のこと、シオンのステータスは二人分が合成されたものであるのだから、レベルアップしたのは二人分のステータスであり、成長率も二人分だ。
「一般的にはレベルアップで成長する数値は合計一〇前後だ。その一〇を各項目に割り振る感じだな。俺は防御方面ばかりに偏って伸びて困っているが。……ルリは今回は九だが、次のレベルで敏捷と器用さが上がるという前触れだろう。敏捷や器用さは大体二レベルに一ずつ上がる者が多い」
「それがシオンは合計二十も成長しているのだものね。これがこの先もずっと続くとしたら、シオンは一体どれほど強くなれるのかしら」
正確には、ステータスの項目は認識とともに増えたり減ったりする。そのため、表示されていない項目があり、そこにもステータスアップの効果が表れている可能性があるのだから、成長する数値が一〇というのはジェットの先入観である可能性もある。
だが、ともかくも、「HP、MP、攻撃、防御、魔法防御、敏捷、器用さ」の七項目においては合計で一〇前後のレベルアップ成長があるということであった。
「シオンは成長に偏りはあまり無さそうね。……ルリは若干、魔法系に偏ってはいるけれど、ちゃんとHPが増えてよかったわ。防御系が伸びなさすぎると後々ついてこれなくなってしまうからね」
「むしろ私は獣人なのに魔法系が伸びるのが不思議ですねぇ」
その疑問に答えたのはなんとシオンであった。
「ルリちゃんが魔法系なのはたぶん、飛べない代わりだよ」
「え?」
「鳥獣人の人はたぶん翼で魔法の力を発生させて飛んでるんだと思う。いくら小柄でも人間は構造上、翼で鳥のようには飛べないからね。ルリちゃんは飛べない代わりにその力を魔法に使っているんだね」
「そ、そうだったですか」
サツキとジェットも不思議がったので、シオンは翼で人間が飛べない理由を自分にわかる範囲で簡単に答えた。
シオンは元の世界では頭の良い子供ではなかったが、それ位の常識はある。加えて二倍になった知性が、想像力や思考力、洞察力、判断力を高めていた。そのおかげで、あれだけたどたどしかったこの世界の言語もすでにほぼマスターしていると言っても過言ではない。
「さあ、それじゃあ今日のところはこれくらいにして迷宮探索を終えましょう。今から帰れば、街に着くころには夕方ね。ルリがマッピングをしてくれているおかげで、帰りはあっという間よ。それに次に来るときもすぐにここまで来れるわ。ありがとう、ルリ」
「えへへー」
休憩の後、一行は迷宮の入口へと進みだした。
「あ、そういえばシオン。あなたのファミリーネームなのだけれど、何と読むのかしら」
迷宮を出た後の、レッテンへの帰り道での雑談である。
「えっと、『ワシシシ』と読みます」
「ワシシシ?」
「んーと、この世界にいるのかわかりませんが……、前の世界ではグリフィンと呼ばれる空想上の生き物のことでした」
あるいはグリフォンとも呼ばれる、鷲の翼と上半身、ライオンの下半身をもつ伝説の生物である。ゼウスやアポローン、女神ネメシスなど天上の神々の車を引く動物であるとされている。
「まあ、グリフィンのことだったの。こちらの世界にはいるわよ。とっても珍しい動物で、王族の方が乗る馬車を引くのを一度だけ見たことがあるわ。――それならシオンの名前は『シオン・グリフィン』ということね」
グリフィンはこの世界では実在し、王族の車を引くらしい。
「あ、なんだかかっこいいです! ……そうですか、モンスターじゃなくてよかったかな。一度見てみたいですねー」
こうして彼らの迷宮への挑戦初日は終了した。
まだまだ駆け出しだが、すべり出しは順調。
それぞれが感じた手ごたえは決して勘違いでも幻でもないだろう。
目の前に広がるレッテンの街に本日の攻略を終えた冒険者たちが次々と帰って行く。
街が目覚める音が響き始めていた。




