第22話 選り取り見取りね
「力求めしもの、自らが『何者』かを知るべし。そしてさらに己を究めし者、『王』へと至らん」
「?」
シオンの頭の上にクエスチョンマークが踊る。
「『何者』かとは、上級クラスのことさ。二次職とも呼ばれている。例えばさっき言った上級回復呪文を扱えるのは『医者』というクラスだな。そしてさらにそれを究めると、『王』へと至れるらしい。『王』クラスはほぼ伝説の領域だ。……だが実は、基本六種のクラスと二次職の間に、『中間職あるいは一.五次職』と呼ばれるものがある。基本六種のうち二つのクラスの両方の特徴を兼ね備えたクラスたちだ。今俺たちが目指すとしたら、まずはそこだろうな」
「そうね、でも基本クラス二つの特徴を併せ持つと言っても、一つ一つは六種単体のクラスには及ばないの。足して二で割った職業と言ってもいいわね。中間職は全てが有用なクラスばかりではないけれど、中には便利なクラスもあるわ。例えば魔術師と僧侶を併せ持つ『スペルマスター』とかね。ルリは目指してみるのもいいかもしれないわよ。……逆に、活躍どころが難しいものとしては、戦士と魔術師の『ウォーロック』とかかしら。属性を乗せた斬撃とかを放てるらしいけれど、魔術師の防御の低さも半分受け継いでしまうし、敵に接近して戦うのは危険だわ。そこまでしてやることでもない気がするわね。戦士か魔術師として役割に徹した方がいいと思うわ。……騎士と魔術師の『バリアメイジ』とかは、ここぞ、というときにのみ輝く職、といった感じかしら。敵の属性攻撃を中和する魔術を使えるわ」
どうやら戦士と魔術師の力を合成したといっても、「ファイアーボールが撃てる戦士」にはならないらしい。
その後、サツキは中間職をシオンとルリに教示した。これだけの職を暗記しているのはなかなかの記憶力である。
デュエリスト………戦士と騎士
ウォーロック………戦士と魔術師
クルセイダー………戦士と僧侶
バトルシューター…戦士と狩人
インファイター……戦士と格闘家
バリアメイジ………騎士と魔術師
パラディン…………騎士と僧侶
ドラグーン…………騎士と狩人
グラップラー………騎士と格闘家
スペルマスター……魔術師と僧侶
シャーマン…………魔術師と狩人
エンチャンター……魔術師と格闘家
エクソシスト………僧侶と狩人
モンク………………僧侶と格闘家
レンジャー…………狩人と格闘家
「私は可能性があるのが『デュエリスト(戦士と騎士)』か『インファイター(戦士と格闘家)』か『グラップラー(騎士と格闘家)』。どれも近接職としては悪くないクラスたちだけれど、槍を使い続けるならデュエリストね」
「ああ、攻防バランスのいい、良職だ。サツキにも適している。そして俺は、適正が騎士と僧侶しかないから『パラディン』一択だな。……パラディンは防御力と回復魔法を併せ持つ生存力の高いクラスだが、騎士には装備できた長剣が使えない。短剣かメイスなどの鈍器が主武器になるだろう」
ジェットの適正が一つ少ないということは、ここに大きく響いてくるのであった。本人がコンプレックスに思うのもあながち理解できないわけではなかった。
「ルリは、『モンク(僧侶と格闘家)』と『エンチャンター(魔術師と格闘家)』は近接職だし、やめておきなさい。あなたのステータスでは危険よ。それに、『スペルマスター(魔術師と僧侶)』は中間職の中で最も優秀とまでいわれるクラスなのだし、狙うならばこれね」
ルリは素直にうなずいた。
「シオンは選り取り見取りね。もし狩人を活かすなら『バトルシューター(戦士と狩人)』、『ドラグーン(騎士と狩人)』、『レンジャー(格闘家と狩人』、『シャーマン(魔術師と狩人)』、『エクソシスト(僧侶と狩人)』なのだけれど、前の三職はともかく後の二職はなり手がほとんどいなくてよくわからないわ。王国の知り合いの正騎士もほとんど見たことがないと言っていたわね。……まあ、シオンはどれにでもなれる可能性があるのだから、狩人をベースにすることにこだわらなくてもいいと思うわ。一職で全てをカバーしようとしないで「近接特化職」と「遠距離特化職」を適時使い分ければいいのだから」
そのとおりであった。シオンはむしろ遠・近を合成して中距離職になどなってしまえば逆に良さを殺す可能性もある。そのとき求められる距離に応じたクラスチェンジを行えばいいだけのことであった。
その大きな理由の一つとしては、「適正な武器」が無いということだろう。
バトルシューターやドラグーンなどの近・中距離職にふさわしい武器が市場にはほとんど出回っていない。近距離武器で戦うなら、戦士やデュエリストでいいのだ。
もしその問題が解決すれば、あるいは良職なのかもしれないが、遠・近のバランスがとれたパーティであるシオンのパーティでは、やはり無理して中距離職になる必要性が見当たらなかった。
「そうですね。ボクは役割を決めずに、敵に合わせてクラスを変えていけばいいですね」
――と、いい加減放置しすぎるとガルドンボアの死体が迷宮に吸収されてしまうので、解体……というより魔石の摘出を行い、肉や革はかさばるので牙だけ採取した。
魔石はルドンボアのものより多少大きいが、やはり豆粒ほどの大きさであった。
「さて、小休止もしたことだし、まだ日は高いわ。二階層もちょっとだけ覗いて行きましょう」
サツキの言葉に一行は気合を入れなおし、ボス部屋の奥にある階段を下っていったのであった。




