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第11話 あなたのお名前は?

 そんなサツキの心中など知るよしもなく、ヤルスは切り出した。


「それではお買い上げ、ということで」


 シオンたちを示す。


「こっちの奴隷はシオンと言います。実は、珍しい転移者というやつです。そのせいか、こんな体をしていやがりますが、物好きはむしろ喜ぶでしょう。金一枚半は下りません」


「転移者……!」


 その言葉を聞いてサツキが息を呑む。


 それを上々な反応だと受け取ったヤルスは続けた。


「そしてこっちがセイレーンという珍しい魔物です。調教済ですので危険はありません。こちらは金一枚といったところでしょう。奴隷登録はしてはおりませんので、見世物か愛玩用としてお買い上げいただくことになります」


 ここで吹っ掛けたヤルスの豪胆さは見事という他ないだろう。だが、その目論見はすぐさま打ち砕かれた。


「馬鹿を言うな、その子は鳥獣人の子だろう。私は獣人帝国ガルガロスから来た使者にも会ったことがある。その中に鳥獣人の方がいたのだ。見間違えたりはしない」


 ジェットの、普段はあまり見せない強気な発言だった。


 ぐっ、とヤルスは息を呑む。


「そ、そうなんですか。これは私としたことが、掴まされたもんです」


 決して、鳥獣人だと知っていたことだけは漏らすまいとする。


「知らずのことならば、すぐに彼女を解放すれば罪には問われないだろう、……どうする」


 ヤルスはやりにくさを感じていた。

 後ろめたさのない正攻法な客は、逆にやりにくいのだ。

 奴隷を買いに来る客なんてのは大抵そういう後ろめたさのようなものを抱えていて、お互いに深くは干渉せず、といった暗黙の了解がある。

 その点、この客は叩かれてもほこり一つ出そうになかった。


「……わかりました。そいつは解放いたしましょう」


 もともとこの鳥獣人は、もののわかる客(・・・・・・・)を選んで売りつけるつもりで飼っていたものだ。

 そうそう新天地で簡単に売りぬける商品ではない。

 渋々ながらそうする以外になさそうだった。


「おい、お前はもう自由だ。そこの御仁に着いていくなり、好きにしな」


「え、あ、あの。ありがとうございます」


 自分たちの今後が話し合われているとはわかっていたものの、いきなり話を振られたセイレーンは、対応に戸惑った。


「とりあえず、街までは私たちと一緒に行きましょう。その後のことはあなたの自由にするといいわ。もちろん、あなたが望むなら私たちはあなたを放り出したりしない。約束するわ」


 その言葉を聞き、セイレーンは感謝した。

 このサツキという女性は、なんだか信じられるような気がした。

 少なくとも、どこぞに見世物として売られ、飽きたら捨てられるというような未来からは救ってくれたのだ。

 だが、今後自分がどうするかはすでにセイレーンは心に決めていた。


「私はシオン君に着いていくです。私はシオン君に守られた。だから今度は私が守る番です」


 きっぱりと言い放った。


「そう。なら彼女――いえ、彼かしらね――と一緒においでなさい。二人とも悪いようにはしないわ。……それで、あなたのお名前は?」


 サツキは既にシオンを連れていくことを前提に言った。


「ありません」


 セイレーン、いや、この鳥獣人は生まれてすぐに両親に捨てられた。そもそも、名前など付けてもらっていないのだった。

 その事実を告げると、サツキは表情を曇らせた。


「なんてひどい……」


 そう言った瞬間、今まで黙って聞いていたシオンが言った。


「ルリ」

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