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Dragon Sword Saga10『妖精の国』  作者: かがみ透
第 Ⅲ 話 妖精の国
7/9

水壁

 巨大蛾の魔物を倒し、魔界の王子ジュニアとも分かれた一行は、当初の通り、妖精のほこらを目指して進むが、唯一の案内役であった吟遊詩人が消えたことで、一切の手掛かりをなくしてしまっていた。


 頼みの綱は、妖精ミュミュの頼りない勘のみという、事態は振り出しに戻り、一行は、途方に暮れながら歩く。


 それでも、深みのある緑や青、黄色などが入り混じった、丸みのある葉を茂らせた植物が、見る者を穏やかな気持ちにさせていた。木々も低木が多く、色鮮やかな果実や花々を実らせている。


 彼らがこれまで通ってきた、まやかしの樹海とは、打って変わった景色だ。


 幸いにして、魔物と出会うこともなく、のどかな景色が続いている。となると、これまでの魔物の登場は、魔界の王子ジュニアの力に吸い寄せられて湧いたものだったのかと、彼らには思えてきた。


 先頭を行く、ラン・ファのそばに浮かんでいたミュミュが、しくしくと泣き出した。


「どうしたの、ミュミュちゃん?」


 ラン・ファがミュミュをてのひらに乗せて、やさしく問いかけた。

 ヴァルドリューズも足を止め、一行も周りに集まった。


 ミュミュは、ラン・ファの手の上に、足を投げ出した格好で、座り込み、泣き続ける。


「……ミュミュ、もうわかんないよー」


 その一声は、一行の両肩に、ずーん……と、巨大な石を乗せたに値した。


「はあ?」


 カイルが、ゆっくりと、皿のような目を小さな妖精に向け、無表情な声を発した。


「だって、ミュミュ、一生懸命探してるのに、歩いても歩いても、妖精の気配が何にもしてこないんだもん。ミュミュ、やっぱり、帰り道忘れちゃったんだー!」


 あ~ん、あ~んと大きく口を開き、空に向かい、ミュミュは、一際大きな声で泣いた。


「こんな幼い子ひとりをあてにするなんて、やっぱり可哀想だわ」


 ラン・ファが、ケインに訴えた。


 眠っているマリスを背負ったケインが、ミュミュに近付く。


「ごめんな、ミュミュ、俺のマスター・ソードのために、無理させて」


 カイルがケインの肩越し意から、ひょこっと顔を出す。


「だけどさぁ、もうちょっとだろ? なんとか頑張れねぇの?」


「もうダメなんだもん! わかんないんだもん~!」


 一層ぎゃあぎゃあ泣き出すミュミュに、一行は顔を見合わせ、途方に暮れてしまった。


 それから、ほどなくして、茂みの間から、枝葉をかき分ける音が聞こえた。


「ここか、妖精の泣き声がしたのは。どうかしたのかね?」


 その低く野太い声に、驚いた皆が振り返る。


 ずんぐりむっくりした体型の、大柄な男だ。

 大柄といっても、ケインやカイル、ヴァルドリューズほどの背丈もなく、猪首で肩幅の広い、ガッチリとした筋肉質の、人間たちからすれば、やや不自然な体型であった。


 カールのかかった、もじゃもじゃとした赤い髭を、胸が隠れるほど長く伸ばし、てっぺんに斧の刃のようなものの付いた兜を被っている。


 手にも、柄の長い、大きな斧を持ち、黒く汚れた、人間の炭坑夫が着るような、薄汚れたつなぎの作業着らしいものを着ている。


 人間たちが、目を丸くして男を見ている中、ひっく、ひっく……と、しゃくりあげていたミュミュが、ピタッと泣くのをやめた。


「ドワーフ!?」


 ミュミュの泣き声に引き付けられてやって来たのは、人間たちの間でも、小人の一種として書物や唄で知られるドワーフであった。




「妖精の国だと? 知っとるぞ」


「ホントか、おっさん!」


 ドワーフの言葉に即座に反応したカイルは、青い瞳を輝かせ、身を乗り出した。


 座り込んだドワーフの前に、人間たちも座る。

 眠っていたマリスも目を覚まし、ケインの隣に座っていた。


 一行がドワーフという種族を見たのは、初めてであった。


 ケインは、マスター・ソードを手に入れる際に、小人族とは出会っていたが、ドワーフは吟遊詩人の物語でしか聞いたことはなく、これほどまで、ヒト族に近い別の種族を目の前にしたことはなかった。


 だが、始めのうちこそドワーフを珍し気に見ていたものの、一行は、まやかしの森で出会う異なる種族に慣れてきたのか、受け入れるのにそれほど苦労はいらなかった。


 ドワーフは、掘りの深い、大きな茶色の目で、じろじろと見つめている。


「お前さんたちは、ヒト族か」

「ああ、そうだよ」


 カイルが答えた。


「ヒトがこんなところになぁ……。良くないことの前触れでなきゃ、いいんだがね」


 縁起でもない物良いに、皆、少し引っかかった。


「あ、あのう、……私たち、ここへ来てはいけなかったのでしょうか?」


 いつもは皆の後ろで控えているクレアが、人間に近いドワーフに対しては、遠慮がちではあるものの、それほど怯えることなく尋ねることが出来た。


 この場所には、人間界と違う生物たちの秩序があり、その生き物たちを脅かしたり、迷惑をかけるようなことは避けるよう忠告した、吟遊詩人が消えてしまったことで、より慎重な姿勢になっている。


 ドワーフは、クレアを向いてから答えた。


「別段、いけないわけではない。通りたいなら、通ればいいことだ。だが、こんなところを、滅多にヒトは通らないものでね、不思議に思っただけだ」


 素っ気ない返答だった。


 クレアは、ドワーフが機嫌を損ねてしまったのではないかと、気がかりであったが、それを察知したカイルが、クレアの側に寄り、ドワーフには聞こえないような小声で言った。


「心配すんな。吟遊詩人たちの唄によると、人間を良くは思っていない種族は多く、ドワーフもきっとそうなんだろう。波長が合わないっていうか、ウマが合わないっていうか、特に恨みはないが、なんとなく苦手とか、そんな程度なんだろう」


 そういうことなら、人間の存在だけで秩序を乱すことにはならないだろうか、とクレアは思い直した。


「それで、妖精の国へは、どういったらいいのかしら?」


 今度は、マリスが尋ねる。


 ドワーフは目を細め、気が進まないような、いかにも嫌そうな表情で、人間たちを、そして、マリスを見た。


「ワシは、ニンフのお嬢ちゃんには教えてやってもいいが、人間には、あんまりその道を教えたくないわい。特に、あんたのようなエルフにはな」


 マリスは、少々憮然とした顔になった。


「どうしてよ? しかも、あたし、エルフじゃないし」


「ほう、エルフじゃなかったかね? あいつら、昔、ワシらの坑道を、鉱物の砂塵で汚れるから通りたくない、などと言って、わざわざ遠回りをして行った、まったくいけ好かない連中でな。そうかい、あんたは、エルフじゃなかったんかね? それにしても、よく似とるけどな」


 マリスは不可解な顔で、うさん臭そうに彼女を見上げるドワーフを見ていた。


「だがな、例え、エルフじゃなくとも、ここは『みんなの道』なのだ、敬意を払ってもらうぞ。『みんなの拠り所』であるというのに、荒し回る者、自分たちの都合のいいように変えてしまおうとする者が、エルフにも人間にも多いのだよ。


 ヒトもエルフも、自分たちは、どの種族よりも優れていると思い上がっとる。だから、ワシは、ヒトも、そして、エルフのやつはもっと好かないのだ。あんたらには悪いが、大抵の種族は、そう思っとるはずだ」


 ケインは、マリスが怒り出さないか心配になり、ドワーフに殴りかかろうとする前に、彼女を止めなくてはと、身構えていた。


 だが、予想に反して、マリスは怒らなかった。

 何かを考え、しばらく沈黙してから、溜め息を吐き、ドワーフに向き直った。


「そうね。それは、言えてるかもね。あたしたち人間は、知らない間に、他の種族たちに迷惑をかけてきたのかも知れないわ。まやかしの森を通ってきて、それがわかったわ。現に、さっきも、一部破壊しちゃったしーーああ、それは、あたしであっても、あたしじゃないんだけどーーとにかく、ここでは、気を付けるわ」


 珍しくそんなことを言い出したマリスに、ケイン、カイル、クレアは意外そうな顔になるが、ドワーフの表情は変わらず、ふんと鼻を鳴らした。


「ドワーフのおじちゃん、それで、妖精の国には、どう行ったらいいの?」


 パタパタと、ミュミュがドワーフの目の前に飛んで行く。


 それまでの気難しい顔から一変した彼は、柔らかい表情でミュミュを見た。


「おお! あそこの、ワシらドワーフの坑道を通って行くと近いぞ。お嬢ちゃん、ワシが案内してやろう」


 ミュミュは、みるみる明るい表情になっていった。


「わーい! おじちゃん、ありがとー!」


 ドワーフは、にこにことミュミュに微笑んでから、じろりと人間たちを睨む。


「このお嬢ちゃんに免じて、特別に教えてやるが、お前たちヒト族は、その坑道を、二度とは使わんでくれ。約束するなら、ついてきても良いぞ」


 ドワーフはミュミュを肩に乗せ、歩き出した。




「なんてことだ。道が塞がっとる!」


 ドワーフの嘆きは、後ろを歩く人々にも聞こえた。


「どうかしたのか?」ケインとカイルが、後ろから覗く。


「岩だ。坑道の入口が、岩で塞がっておる!」


 目の前に、山を削り取ったような崖が(そび)え立ち、四角く、ゲートのような枠が作られていた。


 枠の中に、巨大な岩が、いくつも埋め込まれ、挟まっている。(あたか)も、巨人が、小石をつまんで詰めていったように。


「上の端の方には隙間があるが、あんなところまでは、とても登れぬし……」


 ドワーフが途方に暮れ、人間の二人分はある高さのゲートを見上げた。


「俺たちは、ミュミュがひとりずつこの中に運べば、全員通れるけど、ここが塞がったままだと、ドワーフたちが通れなくて困るよな」


 ケインが岩に触れた。「ダーク・ドラゴンの力を借りるか」


「なにっ!?」逸早く、ドワーフが驚き、声を上げる。


「あんな魔界の竜なんぞを、お前さんが呼べるとでも?」

「ああ」


 ケインは、鞘からマスター・ソードを抜き取った。


「そ、それは、ドラゴン・マスター・ソード……! お前さん、ドラゴン・マスターだったのかい!?」


「ああ、まあな」


 短く答えたケインを、ドワーフは信じられない表情で見つめ、皆は、一見、ただのロング・ソードであるマスター・ソードを、彼が一瞬で見抜いたことに、内心驚いていた。


 改めて、ケインに、妖精のミュミュが付いたのは、偶然ではなかったのだと知る。


 マスター・ソードの魔石を手に入れるのに、やはり、ミュミュは必要なのかも知れない。それにより、他種族も、協力的になる場合もあるようだ。


 一行の誰もが、そう思い、見守る中、ケインは気を引き締め、念じた。


 魔族の空間に現れた時と同じく、剣の刃から黒い光とともに、黒い竜の本体が出現し、威嚇するように翼を広げた。


 かぎ爪の足で、勢いよく岩を握りつぶす。


 砕かれた岩の粒が散る前に、ラン・ファの指示で、彼女とクレアが、物理防御の結界を張り、一行とドワーフは守られた。


 ケインには、飛礫(つぶて)は当たらなかった。

 それも、ダーク・ドラゴンの力で防いでいるのだろうと、一行は解釈する。


「ワシらの工具で数時間はかかると思われる岩を、いとも簡単に……! さすがは、マスター・ソードだわぃ!」


 驚いていたドワーフは、我に返ると、ケインというより、マスター・ソードの威力ばかりを褒めちぎった。

 その様子から、一行の中では、やはり、彼は、人間が嫌いなのだなと、苦笑いが起きていた。


「こっちじゃ」


 真っ暗な中を、ドワーフのカンテラと、坑道内の天井や壁に、ところどころ生えている光苔を頼りに進んで行く。


 坑道は広く、長く、そして、ヒトには肌寒く感じられるほど、ひんやりとしていた。


「……何か、おかしな匂いがする」ドワーフが呟く。

 一行にも異様な匂いが感じられ、用心深く進む。


 異臭はますますひどくなり、顔をしかめていたドワーフの足が止まった。


「なんということだ……!」


 二度目の失意が、その顔に現れる。


 彼らが目にしたものは、数人のドワーフたちの、転がった死体であった。


 戦闘の後のように怪我をし、彼らのものと思われる斧や工具は折れ、赤い色と緑色の体液が飛び散っていた。


 クレアは悲痛な面持ちで両手で口を覆い、ミュミュも顔を伏せるようにして、ドワーフの首に抱きついた。


「緑色の体液……これは、魔物のものだわ」


 むごいと言わんばかりに、ラン・ファが訴え、ヴァルドリューズも死体の近辺を調べる。


「ケイン、カイル、ご遺体にお祈りをしたいから、こちらの方に並べてくれる?」


 静かな声で、クレアが言った。


 ケインとカイルが、彼女の指示通りに遺体を運び、並べているのを見ていたドワーフは、呆然として、地面に膝を付いた。


 集められた遺体に向かい、巫女であったクレアが、安らかに眠り、成仏するようにという内容の、祈りの言葉を捧げた。


 その横で、ドワーフは兜を外し、俯いて、静かに聞いていた。


「他の種族だというのに、敬意を払ってくれたことを、感謝する」


 しみじみと言うと、ドワーフは、クレアに頭を下げた。


「いいえ、私は当然のことをしたまでです。ただし、一部のヒト族のやり方なので、ドワーフ族の方の魂が、ちゃんと救われたのかは、正直に言って、わかりませんが」


「いや、ちゃんと伝わっとると思うぞ」


 クレアは、少しホッとした顔になった。

 ドワーフの顔つきも口調も、見直したように、柔和になっていた。


「しかし、近頃は魔族のちょっかいも激しくなり、このような犠牲も多くなった。ここは、まだ大丈夫だと聞いとったが……」


「遺体は、まだ新しい。現れた魔族との戦い後、入口を塞がれたのだろう」


 嘆かわしい様子のドワーフに、ヴァルドリューズが告げた。


「魔王が復活するのが、約半年後だって、ジュニアのヤツが言ってたな」


 そう言ったケインを振り返ったドワーフの顔が、強張(こわば)った。


「なんだと!? 半年後には、魔王が復活するというのか!」


 ケインが(うなず)く。


「『封印の石』というものを知らないか? それがあれば、魔王の復活を、遅らせることが出来るんだ。ドワーフ族なら鉱物を扱うから、『石』にも詳しいんじゃないか? もし、何か知っていたら、教えて欲しいんだ」


 溜め息を吐いてから、ドワーフが口を開いた。


「『封印の石』とは、もしや、『ドラゴンの持つ石』のことかの?」

「『ドラゴンの持つ石』!?」


 ケインが瞳を大きく開く。


「しばらくの間だけ、どのような物でも封じることが出来ると聞く。ワシらの間では、『ごく近くにあって、近くでないところにある』と言われておる。ドワーフ族の土地では、見たことはない。見つかったところで、ワシらドワーフは、使い方を知らん」


 話を聞きながら、ケインは考え込んだ。


「『ごく近くにあって、近くでないところにある』ーーねぇ……。漠然(ばくぜん)とし過ぎてて、なんのことだか」


 さっぱりわからないというように、カイルが肩をすくめ、クレア、マリスを見てから、ケインに視線を移す。

 ケインは、真面目な顔で、考え込むように黙ったままだ。


「もう既に、エルフの奴らが隠し持っているかも知れん。このお嬢ちゃんの妖精女王フェアリア様に、お尋ねしてみるがよいだろう」


 ドワーフは、パタパタと、ケインの周りを飛ぶミュミュに、笑いかけた。

 ミュミュがドワーフの側へ飛んでいく。


「うん、わかったよ!」


「ほれ、妖精の国との境が、そこの突き当たりにある『水壁』だ」


 ドワーフが指さした先は、坑道の道が途切れて、壁になっている。

 石壁の中央には、ドワーフ族の背丈ほどの水たまりが、縦になって出来ていた。


「砂漠の地下都市に出来ていた、次元の入り組んだところに似ているわ」


 クレアが皆の顔を見渡して、言った。


「そうね!」


 クレアとマリスが、そろってケインを見るが、ケインは何かを考えているままだった。


「そこから、妖精の国は近道になっとるはずだ」


 ミュミュが嬉しそうに羽ばたく。


「おじちゃん、ありがとう!」


「いいんだよ、ニンフのお嬢ちゃん。ヒト族の若者たちよ、達者でな」


「お世話になりました」


 クレアが頭を下げて、別れの挨拶をすると、ドワーフは少しだけ笑ってから、ケインを見た。


「ドラゴン・マスターのあんたなら、エルフどもの意地悪にも、太刀打(たちう)ち出来るかも知れんな」


 とことん、エルフが嫌いらしいな、と思ったケインは苦笑して、ドワーフを見た。


「言っちゃ悪いけど、ここは、もう危険な気がする。何かあったら、ドワーフ族を助けに行きたいけど、あなた方も、どこかに避難した方がいいんじゃないかな」


「そうだよ、おじちゃん! 魔族がしょっちゅう来て危ないんなら、妖精の国に来た方がいいよ!」


 ケインの肩に止まったミュミュが、心配そうな顔になった。


「ミュミュ、ママに頼んであげるから! 今、一緒に行こうよ!」


「それが賢明だ。そして、あなたの残りの仲間全員が、避難した後は、この『水壁』を塞いだ方がいい」


 ミュミュに賛同したのは、ヴァルドリューズであった。

 彼がそう言ったことで、一刻を争う問題なのかも知れないと、カイルやクレアにも伝わった。


 ドワーフは驚きのあまり、声も上げられないでいたが、しばらくして、表情が引き締まった。


「わかった。お嬢ちゃんの言う通り、今、あんたらに付いていって、妖精女王に許可をいただくとしよう。それから、仲間を引き連れていくことにしよう」


「わーい! 良かったー!」


 ミュミュが喜び、ドワーフの周りを飛び回った。


「ところで、おじちゃんの名前は、何ていうの?」

「ワシの名は、ハドリーだ」

「ハドリーのおじちゃん、ミュミュだよ、よろしくね!」

「ああ、よろしくな!」


 ハドリーは、顔をほころばせた。


「じゃあ、皆で、この『水壁』を通ろう〜!」ミュミュが張り切って拳を上げる。

「このすぐ向こうが、妖精の国だよ! はやく、はやく! こっち、こっち!」


 水で出来たような壁に、ミュミュがはしゃいで入っていくと、縦になった水面が、わずかに波が立つが、こぼれるようなことはなかった。


 ミュミュに続き、ハドリーが、ヴァルドリューズ、ラン・ファ、カイル、クレア、マリスが、最後にケインが通り抜けていった。


 通り抜ける時、水に潜ったような、周囲の音がカットされたように思えたのは、ほんの一瞬だった。

 身体にまとわり付く水の感触も、肌や服を濡らすことはなかった。


 実に簡単に通り抜けられた一行は、次に、視界に飛び込んできた景色に、目を疑った。


 空は、燃えるように赤かった。

 人間界で見る夕焼け以上であり、まさに、燃えているようだ。


 グエーッ!


 全身を茶色い硬質化した皮膚に覆われた怪鳥が、奇声を発しながら、飛び回っている。


「……えっ?」


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