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想いはやがて剣神へと至る  作者: あねもえ
5/8

強さのあり方

文字数安定しない・・・。

「ッシ!」


短い息を吐く音と共に小気味の良い音が響く。

あれから半年。

アレンさん無事師弟関係を結んだ俺は現在も体力作りをやらされている。

メニューは主に下半身を鍛える走り込みや重い物を運ぶような基礎的なものから、槍をやったり、槌で地面を固くしたり、ひたすら投げられる小石を避けるなど変わったものまである。


「っはあぁっ!」

「ほらほら、腰をイれなさい?あと振るんじゃなくて振り抜くの」

「ハイっ」


現在やっている剣で薪を作るというのも訓練の一環だ。

そして唯一剣を触っている時間でもある。

基礎作りは大事だと思うし、他の武器を使った訓練も不満はない。

だがやはり剣を触ってない時間が減るというのは焦りを感じさせるもので、どうしても時間の少なさに焦って剣筋が乱れることが多くなっていた。


ーーガキンッ。


剣が折れてしまう。

割れた数は42本。

これまでとほとんど変わらない数だ。

不甲斐なさのあまり苦々しく顔を歪める。


「はいはい〜お疲れ様ぁん。今日は42本ねん」

「アレンさん、俺、強くなってますか?」


これも訓練後の口癖になってしまった。

アレンさんとの対決はほとんど記憶がない。

アレンさんも姉さんも褒めてはくれたが、実感が湧かないのも焦りを上長させた。


「んー。体力はついたけど、そんなに変わってないわねん」

「・・・ッ!そう、ですか」


アレンさんは結構ズバズバと物を言ってくる。

なんてない、そんな風にお前は変わっていないと告げるのだ。

俺だって、そんな一朝一夕で強さを身につけられないのはわかっている。

だが、目標であるあと2年半に迫った『剣王』までの道が見えずに焦ってしまうのは仕方のない事だと思う。


「・・・ねえロゼちゃん」


ふと視線をあげるとアレンさんから恐ろしいほどの殺気が向けられた。

慌てて折れた剣を引き上げながら跳びずさる。

俺がいたところには恐ろしい速さで振るわれる斧が通り過ぎた。


「ふふ、今のは4割よん♪」


アレンさんは斧を担ぎ直してにっこりと笑みを浮かべた。


「4割・・・」


あの時、つまりは試験出だした力よりも上ということだ。

確実に強くなっている。

そう言われた気がして、少しだけ嬉しくなった。

だが・・・


「ふふふ。けど、まだ足りない」


アレンさんが俺の思考を先回りするように告げる。

そう。足りないのだ。

俺が欲しい力はこんなところでは終わらない。

『剣王』になるためには俺は・・・。

そこでハッとする。

俺の目標はそんな程度だったのか?

俺の求める強さ(チカイ)はそんな程度だったのか?


「ふふ、やっと気付けた見たいね」

「・・・ッ!ありがとうございます!」

「良いわよん♪」


そうだ。俺の目標は『剣王』なんかではない。

『剣神』だ。

その為にはもっと貪欲に、この程度じゃ足りないくらい力を得て技術を盗まなくちゃならない。

その為には焦りすらも飲み込まなきゃならない。

ーー全てはこの想いために。


「じゃあ今日は特別にもう一本やろうかしら」

「はいっ」


先程とは違い、迷いのない剣筋はするりと薪へと吸い込まれる。

アレンさんの弟子になれて良かった。

たまにセクハラ紛いな事もされるけど、この人の元で剣を振れて良かったと。

先ほどとは違う剣の感触を楽しみながら、そう思った。



ーーーーーー


それから半年、アレンさんの元で鍛錬を初めて丁度一年が経った。

薪割の鍛錬も殆ど剣を折ることなく終えられるようになり、基礎の方も11とは思えないほど成果も上がり、現在では前の倍以上は動けるようになっていた。

身長の方は相変わらずのままだったが。


「・・・ふぅ」

「はいお疲れ様。じゃあこれからは『加護』と『剣気』、そして『魔力』の扱いを覚えてもらうわん」

「剣気と魔力ですか?」


聞きなれない単語に首を捻る。


「えぇ、『加護』は人が扱う特別な力。『魔力』はそれを可能にする糧なのはわかるかしら?」

「はい、『加護』は人によって様々であり、その効果、効力もその人によって様々。またそれを扱うために『魔力』がある。でしたよね?」

「そう、大体合ってるわ。けど、『魔力』には他に使い方がある」


そう区切るとアレンさんは鉄のインゴットを取り出した。


「本来『加護』っていうのは人間が決めた呼び方であって、魔物や魔族達が使う『魔法』と変わりないものなの。そして『魔力』も『加護』を使うだけのものはじゃ、ない」


アレンさんが徐に手を握りこむと、鉄のインゴットがひしゃげる。

目の間に映される異常な光景に思わず俺は息を呑んだ。


「今やったのは魔力を使った身体強化。流派によって『纏位』とか『魔闘術』とか呼ばれているわね。はじめは難しいかもしれないけど、慣れればロゼちゃんでもこの程度はできるわん」


鉄塊を握り潰すのがこの程度、なのか。

得る力の大きさに思わず笑みが溢れる。


「そしてこれ、私は『修纏』って呼ぶけど『修纏』には種類がある」

「種類、ですか?」

「えぇ。その人の魔力の性質によって変わるわ。身体強化にしても柔軟性がある魔力の方が速く動けるようになるし硬質な魔力には強い力や防御力を得ることができる。それぞれ『柔』と『剛』って呼ぶけど、多分ロゼちゃんは見た感じ完全に『柔』ね。」

「見ただけでわかるんですか?」

「魔力を目に通せばなんとなくわかるようになるわ。じゃあとりあえずやってみようかしらん」


アレンさんはおもむろに立ち上がると無言で俺に腹パンを打ち込む。

突然の出来事に無防備だった俺は反応できず、胃からこみ上げる物を吐き出した。


「ゲホッ、なに、するんですか・・・」


怨嗟まじりにアレンさんを見上げる。

殴られたところが熱を持ったように熱く何かがのたうち回るのを感じる。


「ん?魔力を打ち込んだのよん、感じるでしょ?私の太くて熱いの❤︎」


色っぽい吐息を吐き出しながら身をくねらせるアレンさん。

ボケを返す余裕もないが、落ち着いてくると言った通りに熱い何かが残るようにそこに残った。


「この・・・熱い何かが魔力ですか?」


お腹をさすりながら熱を感じる。

相手が姉さんなら俺も真っ赤になっていただろうが目の前にいるのはピンクのエプロンを着たスキンヘッドのヒゲ男だ。

セクハラはスルーする。


「んもぉんっもっと味わってくれてもいいのにぃん!」

「・・・早くしてください」

「つれないわねぇ、そう。それが魔力よ。残っているうちにそのイメージを馴染ませるように広げてみて」


言われた通りにする。

熱いマグマのような何かを広げるように動かそうとすると、それを押さえつけるように冷たい何かがあるのを感じる。


「アレンさん、何かが押さえつけようとしているんですが、これは・・・?」

「それがあなたの魔力よ。やっぱり『柔』みたいねん。それを今度は薄く広げるようにしてみて」


頷き返し、魔力を動かす。

頭のどこかに何か違う器官があり、そこがぞわりと震えたような感覚の後、ゆっくりと魔力が動く。

際限無く溢れる魔力を全身に行き渡らせると、アレンさんの体の周りや木々に薄いモヤのような物が溢れているのが見えるようになってきた。


「うん、出来てるわねん。一回で出来るなんて流石はロゼちゃんね。もう何回かヤルつもりだったんだけど」


『何回も』と言うところで俺は身を震わせた。

手加減されているとは言えあの腹パンは結構キツい。

本当に一回でできてよかった。


「あとは自分でその『修纏』の使い方を考えなさい。魔力は人によって違うからどんな風に底上げしてくれるかはワタシにもわからないから」

「はい」

「じゃあとりあえずそのままで次は『剣気』の説明を始めるわね、っとその前に」


アレンさんは斧を担ぐと俺へ剣を投げ渡す。


「一年の成果を俺に見せてみろ」


ニヤリと不敵に笑いアレンさんは、俺の今を全て見せろと、そう告げた。

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