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9.



 私はいま、校舎裏で人生で初めての「呼び出し」というものを体験している。

「ねぇ、佐藤さん。佐藤さんって田中くんと付き合ってるの?」

「いや、付き合ってないけど」

 正直に言ったのに、私の前にいる女子たちは、納得していないといった顔をした。

「でもあんなに一人の子と話す田中くん、初めて見るんだけど」

 一番前にいた睫毛でほとんど瞳が見えない女子が言うと、後ろにいた数人の女子達が一様に頷いた。田中くんのような天然睫毛ではなく、人工的な睫毛の方である。

「そうそう、休憩時間のたびに教室に来るとか、あり得ない」

 確かにあり得ないよね、田中くんどんだけ暇なの。

「だよねー。それにいつもは男子としかお昼食べないのに、なんで佐藤さんと一緒に?」

 あんなモテモテなのに、今まで男子としか食事してなかったのか、意外だな。

「私たち何度も誘ってるのに、一度も一緒に食べよってなったことないのにね」

 そのままの勢いでゴリ押しすれば、いつか一緒に食べてくれるよ。なんなら昼食時を襲撃して田中くんを攫ってくれれば、私と由里子も平穏な昼休みが過ごせるし。

「なんで佐藤さんなんかと……」

 口々に不満を漏らす彼女たちに、私はそんなこと知るか、と言い返したかった。だけど下手なことを言って刺激しても、後々厄介だし、なにより田中くんに監視されているいま、どのような言葉が言ってはいけない事なのかが判断できない。

 だから結局、私は当り障りのない、平凡な答えを返すことしかできなかった。

「私に言われても困る。私は田中くんのこと、なんとも思ってないし、勝手に田中くんがしてることだから」

 そう言うと、彼女たちの顔色が変わった。

「なにそれ、あの田中くんが自分に構ってくれるからって、調子に乗りすぎ!」

「マジでナニ様ってカンジ」

 言葉の選択を間違ったようで、女子達から一斉に集中砲火を浴びる。ここまで人を魅了する田中くんは、やはり宇宙人の能力かなにかで、洗脳でもしてるんじゃなかろうか。

 面倒くさくなってぼんやりと考えに耽っていると、不意に左肩に衝撃が走る。

「ちょっと、聞いてんの!」

 気がそぞろだったせいか、唐突に肩を叩かれたせいで後ろによろけてしまった。

 何とか踏ん張って体勢を保ったが、それがまた気に食わなかったらしく、第二撃を今度は右肩にくらった。

「いった」

 さすがに踏ん張りが聞かずに、後ろの壁に叩きつけられてしまった。コンクリートの外壁が背中に痛い。

「ちょっと、何してるの?」

 突然、凛とした声がその場に響いた。私を囲っていた女子達が、驚いて一斉に後ろを振り返った。

「伊集院さん……」

 どこか怯えたような、そんな声で呼ばれたのは、私と同じクラスの伊集院美咲妃だった。

 彼女は堂々とした足取りで、私たちに近寄ってきた。

「何してるのって、聞いたんだけど?」

 怜悧な瞳をすがめて見つめられた女子達が、急におどおどとし始める。それを見下したような表情で、伊集院さんが見つめていた。

「田中くんに相手して貰えないからって、みっともない真似をするのはどうかと思うけど」

 普通の女子が言えば反感を買うような言葉も、完璧な美貌を持つ伊集院さんが言えば、反論などできるはずもなく、私を攻撃していた女子たちは気まずそうな顔をしつつ、不明瞭な言葉を発しながらその場から逃げ出していく。もちろん、去り際に私を睨みつけることは忘れなかった。

 誰もいなくなり、私と伊集院さんだけがその場に取り残された。気まずいことこの上ない。

「えっと……ありがとう」

 あの女子たちを蹴散らしてくれたのだからと素直に礼を言うと、伊集院さんは片目だけを器用に細めた。

「佐藤さん……だったっけ。貴女、田中くんと随分仲いいのね」

 あぁ、伊集院さんもか――なんとなくガッカリして、私は目の前でモデルばりの美しい立ち姿を披露する伊集院さんを見上げた。

「別に仲良くないし」

 真実は言えないけれども、それ以外のことは正直に話しているのに、やはり伊集院さんも納得していない様子だった。一体私に、これ以上なにを望むと言うのだろう。

「そう……でも、あまり親しげにするのも、どうかと思うわ」

 私はさらに落胆した。田中くんと張り合うほどの美貌を持ちながらも、誰にも媚びずにいつも凛としている伊集院さんだったから、彼女だけはそういう下世話な話題を持ち出さないと思っていたのに。

「親しくなんかしてないよ。みんな勘違いしてるだけだよ」

 溜息を零しながら言うと、伊集院さんの目が品定めするように私を見下ろした。女子にしては高い身長も、完璧なスタイルを持つ伊集院さんだから違和感はない。だけど威圧感はある。

「とにかく、あまり田中くんと一緒にいないほうがいいわ」

 それだけ言うと、伊集院さんは来た時と同じように、堂々と立ち去っていった。

 私はその場で思いきり伸びをして、一気に脱力した。物凄く疲れた。

 今後もこのようなことが続くのかと思ったら、憂鬱でたまらなかった。




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