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8.



 そもそも監視だ何だと田中くんは言っていたが、それも全て彼のはったりなのではと私は訝しんだ。

 なので家で嫌々宿題をこなしているとき、思いついた私は椅子から腰を上げて部屋の真ん中に仁王立ちになった。

「へいへい! このタコ野郎~見てるかこの~! へへーい!」

 ぺっちんぺっちんと尻を叩きながら、自作のダンスを踊っていると、私のベッドの上で眠っていた飼い猫のクルミが「なにしてんだコイツ」という顔で見てきたので、ついでにクルミを抱き上げて、一緒に踊った。

「にゃにゃにゃーん、へい! いくぞ、猫パンチだ! タコ野郎なんか、この猫パンチで一発KOだにゃん!」

「あぉん」

 私がクルミの腕を持ってぺいぺいと殴る振りをすると、クルミはやる気なさそうに低く鳴いた。

「はっはー! まったく、とんだふかし野郎だぜ、あいつは~うひっひーん」

 クルミを背中に乗せながら、床に寝転んで平泳ぎのポーズを取っていると、ふと視線を感じて顔を上げた。

「……た、たーくん?」

 猫のためにいつも開けているドアの隙間から、生ごみを見るような目で弟の大輝が私を見下ろしていた。大輝は私の部屋の前から立ち去ると、大声で階下にいる母に向けて呼びかけた。

「母さん! アホ沙羽が、ついに頭おかしくなっちまった! もう手遅れだぞ!」

「ちょちょちょ、違う、違うから! やめて、そんな……あぁ、お母さんも違うんだってばー!」

「あぉーん」

 その夜、私は何も悪いことをしていないのに、また母から一時間ほど説教をされたのだった。




 ぐったりと机の上で上体を投げ出していると、教室内がにわかに騒がしくなった。

「沙羽! 田中くん来てるよ、沙羽ってば!」

 由里子が後ろから私の背中をシャーペンで突いてくるが、私は無視を決め込んだ。顔を伏せてふて寝の体勢を決め込んでいると、私の机の横に誰かが立つ気配がした。

「佐藤さん、寝てるの?」

 起きていることなんて知っているくせに、田中くんはわざとらしく聞いてきた。

 机に突っ伏したまま、何の反応も示さず黙りこんでいると、笑いをこらえた様な田中くんの囁き声が聞こえてきた。

「タコ野郎に猫パンチ……」

 がばっと音がするほどの勢いで私は起き上がった。見上げると、田中くんが美麗な顔を少しだけ歪めつつ、必死に笑いを耐えるような表情をしていた。右頬がヒクヒクと痙攣している。

「えっと、女の子があんな恰好をするのは、いかがなものかと思うよ佐藤さん」

 カッと頬に熱が集まるのを感じた。この宇宙人、本当に私を監視してたのか!

「あと数学の宿題、数式ほとんど間違えてたよ」

 言われずとも、ついさっき授業で先生に当てられた時、間違えまくって怒られたよ!

 しかし何たることだ、私の日々の生活が丸裸状態じゃないか。私の人権はいったいどこに行った。

「佐藤さんって、面白い人だね」

 微笑む秀麗な田中くんの目の下に影がさす。もちろん睫毛が長いせいだ。なにこいつ、タコ足宇宙人のくせに、なんでこんなに睫毛長いの。一本一本引き抜いてやろうか。

 妄想の中で田中くんの睫毛を毟り取りながら、私は滅多に感じない恥ずかしさで再び机に突っ伏したのだった。




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