7.
田中くんはサッカー部のエースらしい。
「きゃー! 田中くんがんばってー!」
売店で買ったスポーツドリンクをちびちび飲みながら、だらだらとゴミ袋を収集所に運んでいた。よいせっと気のない掛け声を上げてゴミ袋を収集所に放り込み、ようやく帰れると一息ついていると、グラウンドから黄色い歓声が上がっていた。そのあまりにもの熱狂ぶりに若干引きつつグランドへと視線を向けると、そこではサッカー部が練習試合をしていた。その中に、ここ最近で一気に見慣れてしまった姿があった。
「うわ速っ」
思わずそう呟いてしまったほど、グランドを走る田中くんは速かった。そして速いのに正確にボールを運びつつ、ブロックを物ともせずに突き進むその姿は、確かに女子生徒の憧れになるだけはあるなと思った。だけど田中くんの顔の良さも運動神経の良さも全て、彼が宇宙人だからだと分かってしまうと、手品の仕掛けを暴いたような残念感がある。だってどう考えても、私たち地球人より宇宙人の田中くんのほうが、なんでも出来そうな気がするじゃないか。
つらつらとそんな事を考えつつグランドを眺めていると、なぜか田中くんがこちらを見た気がした。いや、気じゃない。こっちに向かって手を振ってる。
「やばっ!」
慌ててその場から去ろうとしたが、一歩遅かった。
「佐藤さん!」
あぁ、なんでさっさと教室に戻らなかったのかと、数秒前の自分を頭でなじった。
とにかく、注目される前にここを去ろうと、聞こえなかったふりをして背を向けた途端、一際大きな声で田中くんに呼び止められた。
「佐藤さーん、待ってよ!」
田中くんのせいで彼を見に来ていた女子達が、一斉に私の方を見てきた。本当に、この宇宙人は余計なことしかしないな。
仕方なくその場に留まっていると、田中くんが額に浮かぶ汗を腕で拭いながら近づいてきた。宇宙人でも汗をかくのかと訝しんでいると、汗が光る爽やかな笑顔で話しかけてきた。
「今から帰るの? 今日は遅いんだね」
「うん、掃除当番だったから」
「そうなんだ。あ、それ差し入れ? 嬉しい」
「え? あ、ちょっ……」
止める間もなく、私が持っていたスポーツドリンクを田中くんは掻っ攫うと、遠慮無く口をつけた。何するんだこのタコ足! 減らされたお小遣いをやり繰りして買ったやつなのに!
あまりにもの傍若無人ぶりに、怒鳴りつけようと思っていたら、グラウンドの端で応援していた田中くんファンが一斉に駆け寄ってくるのが見えてしまった。
「田中くーん! スポドリなら私も持ってるよ!」
「私も! こっちの飲みなよー!」
「あ、タオルどうぞ!」
わらわらと田中くんが一気に女子たちに囲まれてしまった。ついでに私はその女子たちに思いきり体当りされ、輪の中から弾き出されたのだった。
これ幸いにと教室に戻ろうと踵を返すと、後ろから田中くんが嬉しそうな声で言ってきた。
「これ、ありがとう、佐藤さん! 大事に飲むね!」
なにこの宇宙人。余計なことしか出来ないの? 折角注意が逸れてたのに、お前のせいで台無しだよ!
ブツブツと内心愚痴りつつ、私は田中くんに返事もせずその場を去った。痛い、めっちゃ視線が痛いよ!




