6.
田中くんは宣言通りに、昼休みになった途端、私のクラスに現れた。
「佐藤さん、一緒に食べよ」
ここで私は嫌と言えただろうか? いや、無理である。そんなことをしたら、私があの穴あき宇宙人のような末路を辿るのは目に見えている。
私と机を迎え合わせにして食べていた由里子が、また小声で歓声をあげていた。そして教室内にいた他の生徒たちも、私たちを見てヒソヒソと囁き合っている。
「あ、佐藤さんのお弁当美味しそうだね」
そう言って私の弁当を覗きこむ田中くんに、私は思わず弁当を遠ざけてしまった。いや、決して中身を見られるのが恥ずかしいからとか、そんな理由ではない。多分。
「……田中くんは、いつもパンなの?」
無視して食べ続けるのも辛いので、当り障りのない会話をする。
「そうだね、余裕があればコンビニ弁当とか買ってくるけど、朝練とかある日だと時間なくってさ。結局売店のパンになっちゃうかな」
繊細な美しい見た目に反し、田中くんは豪快に袋を破ってパンを食べ始めた。それにしても宇宙人って、地球の食べ物を摂取しても問題ないのだろうか。
思わず凝視していた私のなにを勘違いしたのか、田中くんが食べかけのパンを私に差し出した。
「食べる? あ、よかったら佐藤さんのおかずと交換してよ」
うげっ、とうめき声を上げそうになった。私の前に座る由里子が、羨ましそうな顔で私を見つめている。
だが待って欲しい。こんななりをしているが、彼は立派な宇宙人である。そんな彼の食べさしを食べて、果たして地球人の私に害がないと言い切れるのだろうか。
私が悶々と苦悩していると、田中くんは私の口に無理やり食べかけのあんパンを突っ込んできた。
「ぶふっ」
吐き出しそうになったところを無理やり口の中に押し込まれ、思わず涙目になった。
「それじゃ、俺これ貰うね」
輝く笑顔で、私の好物の唐揚げを颯爽と強奪する田中くんに唖然とした。
「あ、美味しい。これ、佐藤さんのお母さんが作ったんだよね?」
一々尋ねなくとも、私を監視しているんだから知っているはずだろうに、わざとらしく田中くんは聞いてくる。
「ん……げほっ、そうだけど」
口中に広がるあんこの甘みに顔をしかめつつ、私は急いで水筒からお茶を飲んだ。
「そっかー、いいなぁ。俺の母さん仕事で忙しいから、弁当とか作ってもらえないんだよね」
寂しそうに言う彼に、由里子やクラスメート達が同情的な視線を送ってくる。騙されているぞみんな。
私だけ鼻白んでいると、ふと目の前を影が横切った。なんだ、と思うと同時に、口元にひんやりとした感触がした。
「あ、佐藤さん、口元にあんこがついてる」
そう言って、親指で拭ったあんこを当たり前のように舐めとった田中くんに、教室のあちこちから悲鳴が上がった。
一方、私はドン引きしていた。美形だろうかなんだろうが、コイツはタコ足の宇宙人である。なにより私を脅している悪人である。そんなヤツのキザったらしい仕草に心惹かれるわけがない。それどころか、なんでこんな意味不明な行動をするのかと、不気味ささえ感じていた。
騒がしい教室内で、皆の視線などどこ吹く風と、残りのパンを食べる田中くんに、私は得体のしれない恐怖を感じたのだった。




