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5.



「おはよう、佐藤さん」

「お、おは、よ……う」

 学校に登校すると、私のロッカーの前で田中くんがとても良い笑顔で立っていた。タコ足はいつものスラリと長すぎる足に変わっていたので、妙にホッとした。

「今日もいい天気だね。あ、俺のクラス今日、体育でサッカーなんだ」

 だからなんだと言うのだろうか。サッカーだろうが野球だろうが、好きにしてくれと思った。

 しかし田中くんは青春映画のヒーローのごとく、私のロッカーに片手を着くと、妙に芝居がかった仕草で私を見下ろしてきた。

「俺、佐藤さんが見ててくれると、凄い頑張れそうな気がする」

 何を言ってるんだこの宇宙人。

 理解が及ばす怪訝な顔をしていると、後ろから友人の由里子が話しかけてきた。

「はよー沙羽! って、えぇっ!」

 朝からテンションの高い由里子が、私の後ろからヒソヒソと話しかけてくる。

「なに? 沙羽ってば、いつの間に田中くんと仲良くなったの!」

「いや、仲良くないし」

 かといって、田中くんがタコ足の宇宙人で、目撃者の私を監視しているとも言えない。言ったら即、精神病棟行きな気がする。

「えっと、牧山さん……だっけ? おはよう。俺隣のクラスの田中っていうんだ」

 突然話しかけられた由里子が、私の後ろで大騒ぎした。

「うぁっ! どうしよう! な、なんで私の名前を田中くんが……って、沙羽助けてぇ!」

「あー、田中くん、とにかくそこどいてくれないかな? 上靴出せない」

 私が言うと、田中くんは肩をすくめて謝った。やはり一々大袈裟というか、身のこなしが胡散臭い。

「ね、佐藤さん、よかったら今日一緒に昼飯食べない? 佐藤さんって弁当だったよね。俺、そっちのクラス行くからさ」

 なんで私が弁当持参だと知っているんだコイツ。やはり宇宙人の未知なる力のような、そんな感じなのか? いや、そうじゃない。そういえば、コイツ私を監視するとか言ってたわ。

 そうやって私だけ戦々恐々としていると、私の背中に張り付いていた由里子がキャーキャー小声で騒ぎ立てている。

「す、凄いじゃん沙羽! いつの間にそんな関係に……」

「いや、そんなんじゃなくて……」

 答えに窮していると、田中くんはさらりと嘘をついた。

「実は昨日、佐藤さんが暗くなってるのに、一人で帰ろうとしてるの見かけてさ。ほら、俺サッカー部が終わった時にちょうど見かけて、危ないなぁって思って話しかけたんだよ」

 田中くんがサッカー部に所属しているのは有名だから知っていたけど、彼が言ったような出来事では決してなかった。

「そうしたら、佐藤さんも不安だったらしくて、一緒に帰ろうってなってさ」

 宇宙人の嘘つき能力半端ないな。よくも淀みなく嘘を吐き続けられるものだ。そして私の友人は、まんまと嘘を真実だと信じこんでしまっている。

「そうなんだー。まったく、沙羽ってば昨日あれから私も心配してたんだよ? おばさんからも連絡来たしさ、大輝君迎えに行かせようとか言ってたから。あ、でも田中くんに送ってもらったんなら良かったじゃん」

 何気ない由里子の言葉に緊張が走る。ほら見たことか、嘘をついてもどこかで綻びがでるものなのだ。

 白けた顔で田中くんを見上げると、彼はまったく堪えた様子もなく由里子にこう言った。

「そうだったの? だったら行き違いになったのかもね。ごめんね、佐藤さん」

「う、うん」

 無言の圧力を感じた私は、ただ由里子に嘘がばれないように、余計なことを言わないようにするだけで精一杯だった。

「それじゃ、俺そろそろ行くね。一限目は移動教室なんだ。あ、昼にそっち行くからね」

 こちらの返事も聞かずに颯爽と去っていく田中くんに、私は恨みがましい視線を送ったのだった。




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