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10.



「佐藤さん、今日一緒に帰らない?」

 いつの間にか私と由里子に混じって、田中くんが昼食を摂るのが当たり前になった頃、彼は綺麗に微笑みながら尋ねてきた。

「いや、それはちょっと……」

 教室中の視線が痛い。主に女子からの。こんな中で、私が田中くんと共に帰るなどと言った日にはどのような事になるのか、発言主の田中くんは分かっているのかいないのか、飄々とした様子で私を見つめている。

「佐藤さんって部活入ってないよね? サッカー部は今日休みだから、一緒に帰れるよ」

 誰も頼んでいないのに、なぜ当たり前のように一緒に帰ること前提で話しているのだろうか。

「えっと、私由里子と帰るからさ、今日は無理っていうか」

 チラリと目の前の由里子に視線を投げかけると、由里子がハッとした様子で目を見開いた。良かった、助けてくれそうだ。

「ううん、沙羽は田中くんと帰ってよ。私今日部活のことで、ちょっと先輩と打ち合わせあるから」

 こやつ、裏切りおった……! 朝から今日は吹奏楽部の練習ないから、一緒に帰れるねーとか言ってたくせに!

 変な方向で気を使う友人に、田中くんはここぞとばかりに詰め寄ってきた。

「だったら一緒に帰れるね。あ、授業終わったら迎えに来るから待っててね」

 頬杖を突きながら覗きこんでくる田中くんに、何も言い返せずに眉をしかめることしかできなかった。そして教室の中でも一際強い視線を感じたのでそちらを見ると、伊集院さんが無表情でジッと私を見つめていた。先日の忠告を思い出し、なんとなく気まずくなって不自然に視線を逸らしてしまった。




 放課後、私は田中くんの宣言通りに、授業が終わって直ぐに退路を断たれてしまった。

「一緒に帰ろ、佐藤さん」

 教室の入り口で、鉄壁の笑顔に鉄壁のディフェンスを披露する田中くんに、私は渋々頷くしか無かった。そしていつものように、一方的に田中くんが喋りかけてくるのを適当に聞き流していると、その日は闖入者があった。

「田中くん! 今日は部活ないの? だったら一緒に帰ろうよ!」

 突然田中くんの腕に抱きついてきたのは、派手な化粧をした女の子だった。

「ごめんね、今日は佐藤さんと帰る約束してるんだ」

 言わなくてもいいのに田中くんが断りを入れると、彼の腕に絡みついていた女子がキッと私を睨みつけてきた。

「つまんなーい! ね、ね、私も一緒に帰っていいでしょ? この前は1組の子たちと帰ってたじゃん! 今日は私と帰ってもいいでしょ?」

「でも……」

 チラリと私を見下ろす田中くんに、私ははたと気が付いた。

「あ、だったら私一人で帰るよ。田中くんは――」

「じゃあ、三人で帰ろうか」

 なぜそうなる。いやいや、ここは私を置いて、その子と帰るべきでしょう。田中くんは、どこまでも監視の手を緩める気はないらしい。

「いや、でも……」

 助けを乞うように、ちらちらと田中くんに絡みつく女子に視線を送ると、なぜかさらに睨みつけられた。

「それじゃ、帰ろうか」

 違う、そうじゃない。声に出して反論したかったのに、突然手を引かれて言葉を飲み込んだ。派手な化粧の女子が一層、きつく睨んでくるけれど、君が想像しているような甘いものじゃないよこれ。だって、めちゃくちゃ手が痛い。この宇宙人め、私の手の骨を粉砕するつもりかと思うほど、強く握りしめてくるのだ。おまけに体温が凄く低い。前に触れられた時も思ったけど、まるで金属に触れているような冷たさだった。

 女子の刺さるような視線と、田中くんの無言の圧力に二重の意味で、私はキリキリとお腹が痛くなったのだった。

 そして案の定というか、学校から出る頃には大名行列のように、田中くんを先頭に女子たちがぞろぞろと着いてきた。道行く人達が何事かと、驚いてこちらを見てくるのが本当に恥ずかしい。

 田中くんは涼しい顔で、周りの女の子に持て囃されつつ、時折私へと話題を降ってくる。その度に私は、キツい女子たちの視線を体中に浴びる羽目になったのだ。

 もう、本当に誰かどうにかして欲しい。




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