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恋人気分のレエゾンデエトル  作者: 棒王 円
〈十指編・術者誕生〉
31/31

闇堕ち・1





暁さんの部屋を出て階段を降りていくと、一階の玄関で中也君と出くわした。

手に刀を持っている。何処かへ行くのだろうか。


「冴羽さん。丁度いいところで会ったな。」

「丁度いいところ?」

「これから出かけるんだけど、ついて来ないか?」


何処にとは聞かない。

俺を誘ってくるという事は普通の買い物ではないだろうし。


この家の人で俺を買い物に付き合わせるのは、小夜子ちゃんか人美ちゃんぐらいで、他の人が一緒に行こうという時は大概術者の仕事をする時だ。

前に暁さんに誘われてついて行った時に温泉に一緒に入っただけという事態もあったが、あれは例外だろう。

中也君はそういう茶目っ気は無さそうだしな。

肯いて一緒に外に出る。


最初に小夜子ちゃんと来た時に街の中をぐるぐると歩き回ったのは、この家が隠された存在で、辿り着くための術式を町の道を使って描いていたとは気付かなかった。

今ではその図式を俺も覚えている。


だから、この先の道が何処に通じていようとも、不思議とも思わないし違和感も無くなった。

中也君と共に細い道を歩き、閉じられた場所から術式を踏みつつ移動する。


術者の仕事は色々あって、暁さんが率いる〈十使〉は主に妖魔を相手にしている事も知った。俺がつきあわされるのは大概その仕事だからだ。


対術者の仕様で術や体術を教えられている割には、まだ人の術者と戦ったことが無い。

いつかは相まみえる事になるのかも知れないが、なるべくなら人と戦う事はしたく無いものだ。

もっとも。

人の術者を相手に戦えるかと聞かれれば、俺の実力はそんな所には達していないのが事実で。



歩きながら俺が胸のポケットから眼鏡を出して、今している眼鏡と代えてかけると、中也君が複雑そうな顔をした。

暁さんに貰った仕事用の眼鏡で、ゴーグル使用になっていて動いても落ちない便利なものなのだけど、何故か中也君と小夜子ちゃんは俺が掛けるのを良しとしていない雰囲気だった。

けれど二人とも何かを言ってくるわけでは無くて、ただ微妙な顔で俺が掛け代えるのをじっと見ているだけだ。

似合わないって事なのかなと、変に納得している。


もっとアクティブなタイプの男が掛ける様な眼鏡ではあるけれどね、アスリートとか。

しかし俺は眼鏡が無いと何も見えないほど目が悪いから、これは必須のような気がする。眼鏡のずり落ちを気にしながら妖魔と戦うなんて器用な真似も出来ないし。



出たところは相変わらずの魔界だった。

京都の街並みととてもよく似ているのだけれど、そこを闊歩しているのは殆んどが黒い靄に包まれた魔物で。何回か来たことがあるけれど最初の時は度肝を抜かれた。

こんな大きな空間に魔物がひしめいている場所が、この国に存在しているなんて。


建物は普通の町と同じで、辺りの魔物も何でもない様に人間の服を着て歩いている。ただその中身が恐ろしいものなだけで。


隣を見ると一つ肯いた中也君が、先にいる魔物を指さした。

身体の大きな魔物がこちらを見ている。

大概の魔物がこちらを無視している中で、その魔物ははっきりと俺達を見ていた。暁さん曰くこちらに気付くものは感受性が高いものなのだそうで。

つまり、力が強いという事だ。


「冴羽さんは、けん制してくれるだけでいい」

「わかった。先に行く」


俺はこっちを見ている魔物の前に駆け込むと、腰に差してある刀を抜いて振りかぶった。魔物が手で払おうとするのを避けて切り込む。刃先が肩口を掠ったが致命傷にはいたらなかった。

俺の腕前じゃ致命傷なんて無理だろうな。


魔物が後ろに飛び下がるのを踏み込んで追いつき、先の傷跡にもう一度刀を切り下す。同じ場所を抉られた魔物がでかい声をあげた。

相変わらず魔物の言葉は分からないな。


「どいて、冴羽さん」


冷静な声が通り過ぎていく。

俺の横を中也君が通り過ぎていくのを、二歩下がって確認する。

中也君の獲物も俺と同じ日本刀なのだが、その使いっぷりは神業というレベルで、いつ見ても本当に見惚れるぐらいだ。


瞬時に幾太刀も入れ込む技は見事で、魔物も瞬く間に血塗れになり地面に倒れ込んだ。

スゴ技に感心する以外にない。

術者の操る剣技だけれど、その熟練度は鍛錬の賜物だって分かる。勿論術式を上乗せしているのだけれど、中也君が毎日のけいこを怠らない事を今の俺は知っているから、術者としての実力の差ではないって思い知らされる。

俺ももっと修行しないとな。


戦闘中にそんな事を考えていたから、俺はとっさの事に対応が遅れた。

倒れ込んでいた魔物が俺の所に這いずってきて、俺の足首を掴んだのだ。まるで万力のように足を閉められて、俺はとっさに刀を突き立ててしまった。


「あっ」


小さく中也君が叫ぶのが聞こえた。


俺は戦闘においてとどめを刺すことを禁じられていた。

理由は分からない。特に中也君と小夜子ちゃんは俺にその行為を禁じていたし、親次君なんかは最後までやってしまう事が常だったので、俺の出る幕なんてなかったのだが。


魔物がひときわ大きな喀血をして、足元に頽れる。


その途端、俺の心臓がドクンと大きく跳ね上がった。

なんだ?

冷汗がどっと出て来た。それから激しく眩暈もする。

何だこの違和感は?この、気持ち悪さは?


俺の肩を掴んで中也君が、小さく溜め息を吐いた。


「…帰ろう冴羽さん。あんたはもう無理だろう」

「でもまだ一体だし」

「いやいい。…吐き気はこらえられるか?」


無理をして答えた俺の身体の具合など分かっているよと言わんばかりに、中也君が小さく笑った。その眼が憐憫の色を含んでいる事に気付いたけれど、何故だか分からぬまま突き上げて来る吐き気と戦いつつ俺は魔都を後にした。



屋敷に戻ってすぐにトイレに駆け込む。

何度も吐いてから、俺は自分が震えている事に気付く。


なんでだ?

魔物を仕留めたのだから、殺生とは違うはずだ。魚を絞めたりしたことはあるのだから、それと似たような事だと思えばいいはずで。


確かに人と同じ大きさで人と同じ服を着ていたけれど、あれは魔物で。

くそ。術者ならそれぐらい平気にならなければいけないのに。


俺の気持ちはそんなに弱いのか?







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