改めて修行の日々・3
「で、出来た。」
できたぞ!?どうやっても出来なかったのに。
いや、やっぱり最初から難しいのなんて、出来なかったんだ。
こうやって初心者用なら、簡単に。
「…読んで実行して、すぐできるのなら、あんたには素養があるんだろう。」
「え?」
中也君を見る。
煙草を咥えたまま、こちらを見ている。
「そ、素養?」
「ああ。読みました、やってみました、出来ました。なんて誰でも出来る事じゃない。術者としての素養が高いんだろう。」
「え、でも俺、前の所じゃ全然できなくて。」
灰皿に煙草の灰を落として、中也君が聞いてくる。
「何をやっていたんだ?」
「ええと確か、「原始綱躁術大系」。」
「…ああ。それなら、最初はあんたの資質を見極めたかったんだろう。」
「え?」
俺が困って見ていると、ローテーブルの下に置いてあった缶コーヒーを開けながら、中也君が見返してくる。
あ、いいなって思ったら、別のをポンと投げてきた。
俺の好きな甘い缶コーヒー。喉が渇いていたから遠慮なく開けて飲む。
うま。
「鋼術か操術か、どちらの資質か見たかったんだろう。」
「え、どっちって…。」
中也君が片眉を上げて俺を見る。
そんな怪訝な表情をされても、本当に分からない。
俺、何にも聞いてないんだって。
「…なに、習ってたんだ?」
「え、えと、基礎作りって言われて殆んど筋トレしていた…。」
何だか言うのも恥ずかしい。
けれど中也君はこくりと頷いた。
「初心者だから、生活そのものの変化を体験させるのに専念したんだろう。まあ、想像でしかないが、基本的な術はまだ先に覚えさせる気だったんじゃないか?普通の生活とはかなり違うし、仕来たりとかを教えるにしても違和感を感じられても困るだろうしな?」
「…。」
「一般の人にいきなり術を使いましょうなんて、どんなカルトかって思われるだけだろ?あんたはここに来ても違和感なさそうだから、その教えてた奴のやり方は良かったんじゃないのか?」
「…。」
俺は黙り込むしかない。
中也君の言っている事に、合点がいってしまったからだ。
筋トレして、夜行と話してミサちゃんと出かけて。
その日常の中に術やら妖魔やら、そんな中二病的なエッセンスが至る所に合って。
いつの間にか、それがある事に術者が居る事に何の違和感もなくなっていた。自然と話題が出ても気にしなくなっていた。
最初に訪れた時は、武蔵と夜行が話している内容にも、変な感じがしていたのに。
…そうか。それが目的だったのか。
「どれぐらい居たんだ?一年間か三年間か?」
「……一か月……。」
「はあ!?」
やけに大きい声で聞き返された。
今度ははっきりと呆れているって表情で俺を見ている。
「あんた、それは、忍耐力が無さ過ぎるだろ。受験生だって一年や二年は死に物狂いで勉強するのにさ。」
「……うん。」
「自分に期待し過ぎだろ。どれだけ褒められてやり始めたんだ。」
中也君は、吸殻を灰皿に入れると間髪開けずに煙草を咥える。
「…まあ、さっきも言った通り。」
中也君は煙草の煙を吐きながら表情を戻して、説明を続けてくれた。
「あんたを育てようと思っていた人物は、鋼術と操術のどちらがあんた向きなのか、見極めたかったんだろうな。」
「それってどう違うんだ?」
恐る恐る聞いてみる。
もう俺が素人なのは分かり切っているのか、中也君は肯いてから解説してくれる。
「操術は術そのものをメインで行使する術だ。札を使ったり印を切ったりはするけれど、主体は呪文と誓約で力を使う。」
夜行はそっちだなと思った。
「鋼術は武器に術を纏わせて行使する術だ。術の力は術者の技量だけでなく武器の階位や等級で決まる。」
「階位?等級?…ごめん、分からない。」
「謝らなくていい。一般的じゃないから。…強さとか威力とかを段階的に分けてそう呼んでいる。ちなみに対人用の評価だけどな。」
「え?たいじんって、人に対するって事だよな?」
中也君が肯く。
術者って魔物とか妖魔とか、人外を相手にするものだとばかり思っていたから、人に対する威力なんて量る必要さえ考えた事がない。
「…武器なんて全部、人を殺傷するために作られたんだから、驚く事でもないだろ?」
「そうだけど。」
「一撃で破壊力が大きいのが一番上。あとは術的ってなると妖刀とか魔剣とか本体が魔力を帯びているのが上の階位になるな。」
俺はあんまり好きじゃない。
もともと殺戮するための兵器を、誰かを助けるために使うなんて。
そう考えている俺の顔を見て、中也君は鼻でふっと笑った。
見ると何だかニヤニヤ笑いを浮かべている。
「…夜行のとこに居たのなら、そんな考え方だろうな。」
「知っているのか?」
けれどその質問には、中也君は答えなかった。
っていうか、俺が夜行の所に居たって、何で全員知っているんだよ。
家族で話題を共有するの、早すぎないか?此処の家。




