表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋人気分のレエゾンデエトル  作者: 棒王 円
〈十指編・術者誕生〉
12/31

風向きはどちらに



「さて、行こか。」


ミサちゃんが立ち上がるので、俺も慌てて立ち上がる。

外に出たミサちゃんについて行くが、行先を聞いていない。


「何処に行くの、ミサちゃん?」

「ん?買い物。今日は荷物係もおるし、たくさん買えそうやわ。」


「…は。そうですか。」


そりゃあ荷物係はしますけど。

こんな美少女に重いものを持たせるなんて、恐れ多くて出来ません。


俺達は四条通に入って、色々な店を回った。

靴屋ではミサちゃんの小さな足に合う靴を見て感心したり、アクセサリーの店では京都ならではのデザインの変わったものに二人で笑ったり、服屋ではまるでファッションショーのように試着室から出て来るミサちゃんに意見を聞かれたりして。


まるで、デートのようだ。

周りから見たら、歳の離れたおじさんに甘えている女子高生に見えているだけかも。

いや、そのまんまだな。


それにしても、彼女はどうして俺にこんなに親しくするのだろうか。今日初めて会ったのに。俺は俺で、何で超ド級の美少女に、違和感なく会話をして行動を共にできるのか。

訳が分からない。


俺の両手が紙袋でふさがるほど色々なものを買い込んでも、ミサちゃんはそぞろ歩きを止めない。あちこちの店を外から眺めては、俺とたわいもない話をして街中を散歩している事を楽しんでいるようだ。


「あ、そうや。」

「ん?なに?」

「冴羽さん、うち行きたい所があるんよ。」

「…どこへでもお供しますよ?」


ニコッという美少女スマイルに負けないように、腹に力を入れて頑張った俺を連れてミサちゃんは細い路地を歩いていく。

京都らしい犬矢来が並ぶ町屋の先にある薄紫色の暖簾を、ミサちゃんがくぐった。

俺も続いて入ると、良い香りがした。

静かな香り。例えて言うならそんな感じの香りで。


小さな薬箱のような沢山の棚が壁一面に並んでいる。薄暗い店内を見まわして、俺はそこがお香屋だと気付いた。

手前側のガラスケースには小さなお香立てと、そこに刺さっている短い線香があり、手前のカードには達筆な筆文字で〈夕顔〉と書いてあった。


確か、源氏物語に出て来る女性の名前だったような。


ミサちゃんが、慣れた感じで二階に上がっていく。

店員もいないのに断らなくていいのだろうか。そんな事を考えながら俺も二階について行った。木の階段を上がり切った二階の部屋は、いかにも高そうなお部屋で。

…庶民には一階で十分です。


あの店構えだって、相当敷居が高く見えるのに。この部屋は重要文化財級だよなあ。


「いらっしゃいませ、賢上院のお嬢様。」


着物を風流に着付けた店主らしい男が、ミサちゃんを見てにこりと笑った。

ああ。美形が笑うとたまったもんじゃねえな。


ミサちゃんはレトロなソファに座り、美形店主にお香を出して貰って吟味しはじめた。

着物の粋な店主と話しながら、幾つかのお香を選んでいる。俺は何をするでもなくそれを見ているが、店主はミサちゃんに見惚れていて、此方としては何だか笑えてくる。


そんなに美形なら、あんたモテるだろうに。

まあ、ミサちゃんの美少女っぷりは破格だから、仕方ないか。


そんな事を考えている俺に、ミサちゃんが声を掛けてきた。


「冴羽さん、ちょっと来て?」

「…なに?ミサちゃん。」


俺が近づくと、ミサちゃんがたくさんのお香が並んだ箱詰めを差し出した。


「この中から、どれか一つ選んでみて。…勘でいいんよ。」


何処かいたずらっ子のような顔をしながら、ミサちゃんがそう言った。

俺は勧められた椅子に座り、言われるままにお香の箱を膝の上に置いて眺めてみる。

ミサちゃんの言い方からすると、香りを嗅がずに選べって感じだなあ。


「これって、香りを嗅いじゃ駄目なのか?」

「だめ。」


やっぱりね。

少し平べったい丸の形をしている色とりどりのお香が、格子に区切られた木の箱の中に四十個近く並んでいて。選べと言われても悩んでしまう。

香りで選ぶのが普通だろう?お香なのだから。


色々な香りが僅かながらも立ち昇ってくるが、混じり合って不思議な香りになっている。

俺は順番に見ていきながら、何かの試験のようだと思った。

真剣に見ている俺を、どこか伺うかのようにミサちゃんが見ている。



「…これかな。」


迷いに迷った俺が、薄水色のお香を指さすと。

ミサちゃんは頷き、店主は感心したような溜め息を吐いた。


え?


「…やっぱり、あんさんには資質があるんやねえ…。」


ミサちゃんは何故か少し悲しそうに言った。


「資質?」

「…これは占いなんよ。…冴羽さんが選んだのは、幽顕。…うちらの世界やね。」

「ミサちゃんたちの世界って?」

「後で話すわ。…夜行にも許可を貰わないけないし。」


夜行に?

どうしてだ?


俺が疑問に思っている事は顔を見れば分かるだろうに、ミサちゃんは店主からお香を包んだ袱紗を受け取ると紙袋にそれを入れて立ち上がり、階段を降りていく。

慌てて俺も店を後にする。


外に出てからミサちゃんはクルリと俺に振り返った。

綺麗な笑顔で。

俺はさっきの話を聞く事を諦める。ミサちゃんに話す気がないなら仕方ない。


「ああ。喉が渇いた。…冴羽さんはお腹空かないん?」

「空いてるよ。」

「そうよねえ。もうお昼の時間やものねえ。」


そう言った俺達の目に、少し先にある珈琲屋が飛び込んでくる。

京都では老舗の店だ。


「あそこで、何か食べないか?」

「賛成。うちも、ちょっと歩き疲れたわ。」


考えてみたら今日は早起きして地元を出て来ているから、長い時間何も口にしていない。

二人してよく喋ったから俺も喉が乾いていた。

こんなに人と喋ったのは久しぶりかもしれない。

最近は仕事場でも彼の事で悩んでいて、あまり楽しく会話をしていなかったから。


今は彼に会えて、悩みも幾らか消えている。

食事も美味しくなりそうだ。


俺もミサちゃんもジュースとコーヒーを1つずつ頼んで、まずは喉の渇きを潤した。それから一緒に頼んだサンドイッチを頬張る。

ああ。美味い。


ぺろりと平らげた俺を面白そうに見ながら、ミサちゃんも口いっぱいに食べている。

ああ。美少女は和むなあ。

何をしても可愛い。


こんな妹が欲しい、なんて贅沢過ぎか。



イノダを出て更にその先に行って、ミサちゃんが食べたいと言う和久傳で、いつの間にか予約をしてあったらしいお弁当を4人分買った。…ん?何で4人分?

俺が疑問に思っているのを気付いて、ミサちゃんが言ってくる。


「多分、夜行がむーちゃんを連れてくるやろ。」


ああ!?何だって?

夜行が家に男を連れて帰って来るって!?


あ。いや。

彼は男だから良いんだよな?そうそう。うんうん。良いんだよ。


一人ごちている俺の顔を見てミサちゃんが笑う。


「ほんま、冴羽さんは顔に出るんやね。」

「…ミサちゃんって、俺の事を前から知っているように言うんだな。」


俺の言葉に、ミサちゃんが困ったように笑う。

困ったように笑っても、美少女の笑みは最強です。


「それは、夜行に許可を貰わんと言えへんわ。」


また。

夜行に許可って。

俺は彼の管轄なのか?…まあ、それはそれで嬉しいけど。


最後に和紙の店で慌ただしく紙を注文だけして、ミサちゃんは家に帰ると言った。

お弁当が悪くなると嫌だと言って。


俺に別に意見はなく大人しく後を着いて帰る。

手荷物は多いけれど、女の子との買い物なんて人生初で、相当楽しかった。

彼女がいれば日常なんだろうけれど。

夜行との買い物もしてみたいな、なんて不穏な事を思ったり。



俺達が家についても、まだ夜行は帰っていなかった。

結構外を歩いたので、かれこれ四,五時間は過ぎているのだが

ミサちゃんが少し心配そうな顔で、壁にかかった時計を見上げている。



不意に玄関から音がしたので、慌ててミサちゃんと出迎えると。

夜行が大きな男を背負って帰って来た。

坊主頭の体格の良い男は夜行の背中で、意識を失っているのかピクリとも動かない。

というか、呼吸すらしていないんじゃないかってぐらい静かだ。


「…ミサ。居間を借りる。」

「そんなん言わんでも、はよ。」


夜行はその巨体を負ったまま居間へ急ぐ。


大きな男を床に寝かすと、夜行は何かの紙を取り出した。

それを寝ている男の顔と腹に貼る。


え?何かのおまじないですか?

それよりも病院に連れてった方が良いんじゃないか?相当ヤバい感じがするぞ?

けれどミサちゃんも携帯すら出さずに、夜行の行動を見守っていて。

俺はその場で口出しも出来ない。


夜行が片膝を着き、左手で右ひじを支える。そして右手を指2本立てて伸ばした。


「南に朱雀。その身の焔に願う。」


そう言ってから指先を自分の額に軽く当てて、その指先を男に貼った紙にそっと触れさせる。


「我と我が名において命ずる。」


夜行がじっと何処かを見る。

虚空を見ているその眼は、更に闇を深く携えていて。


「還伏。我が名は夜行!」


指先が素早く何かを描くように動く。

そして。


俺の目の前で、紙が光り輝き赤い炎に包まれた。

紙は綺麗に燃えて無くなり、灰さえ掻き消えて。

男の額も腹も、焦げた後すらない。


夜行が構えを解いてフウッと息をはくと同時に、男が呻いて横にゴロンとなった。



「お、おい。今のは?」


ちょっ。今のは何だ?

え?おまじないじゃなかったのか?


俺が驚いていると、ミサちゃんと夜行が何故か。

ああ。そうか。

みたいな顔をして頷き合った。何ですかその顔は。


夜行が俺を見ながら、仕方なさそうに口を開いた。


「…俺達は術者だ。」

「術者?」


それは、あの。

陰陽師みたいな?映画みたいな?


「…そうだ。あなたの想像で合っている。」


口に出しては言わなかったのに俺の表情を読んだのか、夜行が俺の顔を見て頷く。

た、確かに今のはそう見えたけど。紙も札には見えたけど。


夜行とミサちゃんが俺をじっと見ている。

その二人は真剣で。俺は笑ったりできなくて。


「ほ、んとう、なのか?」


二人が肯く。

俺は絨毯の上に座った。

にわかには信じがたく。

しかし否定も出来なかった。


何故か俺の心の奥底で、知っている事だと言う確信が根付いていて。

それを表面の俺だけが信じられないと、駄々をこねている。

そんな気がして。


「…そうか。」


「……信じるのか?」

「信じるしかなさそうだな。」


俺は自分の口がそう言うのを、何だかもやもやした気持ちで聞いている。

本当ははっきりと分かりたい。


もっときっぱりとした事実が欲しい。

こんな何かの手品みたいな物じゃなく。

何も知らない俺にも分かるような。


それでも。

それがなくても、彼を。

目の前の夜行を信じる。

そう思っている自分に呆れている。

一体何処から、俺の確信は湧いて来るんだ?



「…信じなくても、事実は変わらないけどな。」


夜行がそう言って俺を見る。

その眼の奥は暗闇に閉ざされたまま見えない。

じっと見返しても、それを見切ることは出来なさそうだ。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ