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閑話 ジゼルレポート2 ~…もう読めた気がする~

引き続き侍女のジゼルです。


コルテーゼ国が見えなくなってもそうして佇んでいたグリセルダ様でしたが、使者に「お部屋へ」と、遠慮がちに促されると軽く頷き、唯一ついてくる事になった私を伴って歩き始めました。

もうそのお顔には憂いなどありません。いつもの軽やかな雰囲気なグリセルダ様です。…私も主様を見習って気合を入れなおしましょう。


さて私達が使者の後に大人しく付いていくと…うむ?何やら視線を感じます。何かと顔を固定したまま目で辺りを窺うと軍艦にて待機していたのであろう衛兵…軍人?達と、多くの船員達がグリセルダ様と私を見ていました。


いや違う。


ガン見です。

血走った目で見てます。超見てます。服どころか内臓まで見てるんじゃないかと思うほど見てます。

超怖い。足震えそう。


「あの、あの立派な軍艦ですのね。さすがは武の大国バルバッツァですわ」


わけわからない異様な空気の中、場を和めようとしたグリセルダ様が当たり障りのない事を仰いました。

「大きな大砲ですわねー」と若干棒読みで続けられます。私も同調するかのように頷きました。

軍艦のグの字も知らない私としましても、この船が戦争にとても


「あの…殿下のお言葉を覆すようで申し訳ないのですが…この船は客船なのです」


は?


まったまたー


案内をしてくれる使者殿によると船は軍艦でなく、国王ら高位の者が使う客船だと仰います。私は改めて船を見渡しました。

全体的に黒く、装飾が少なく、グリセルダ様と私がズラリと並ぶ小銃窓や幾つも備え付けられている大砲をじっと見ているのに気がついていても、それでも使者殿は客船だと言い張りました。

それはまぁ…別にいいですけど。ともかく!動いて安全ならば客船だろうと軍艦だろうとどうでもいい!本当に兎にも角にもただひたすらガン見されるので一等室に引っ込むとグリセルダ様と私は同時にホッと息をつきました。主様も私と同じようにあの異様な空気を感じ取っていたのでしょうか。私達は顔を見合わせ可笑しそうに微笑みます。


「少し横になられますか?」


朝から準備やお支度で大変忙しく、婚姻の儀と続く出立を無事終えられたグリセルダ様に声を掛けます。


「そうね、さすがに疲れたわ」

「では…」

「ううん。誰かが挨拶に来るかもしれないし、何よりすぐにも寝込む王女だなんてバルバッツア国の方に思われたくないわ」


武の国です。体力第一なのは易く思われます。その国の王妃になる女が虚弱だなどと、侮られてはいけません。どんなに疲れていても上に立つ者として見栄や配慮はどうしても必要となってきます。理解してますし当然の事ではあるのですが、…一の侍女としましては少しでも休んでほしいのが本音ですわ。


「では、お茶でも入れましょうか」

「ありがとうジぜル。お願い」


儚げに微笑んで椅子に深く腰掛けられるとフウとため息が思わず零れたご様子。お茶で心良くして下さればよろしいのですが…。

こちらはため息を堪え、備え付けの簡単な給水室で支度をしているとキンキンッと金属が打ち合わされた様な音が僅かにしました。



軍艦、ではなく客船の設備か何かの音だろうか。


キンッ…ガッ…キン!


その後も断続的にですが聞こえます。

何でしょうか…?どこかで聞いた事があるような。

不思議に思いながらも、準備が整った茶器や軽食などが乗ったワゴンを押しながら、ふと気配を感じ、なんとはなしに窓のある方へ顔を向けました


……………。


「ジゼル?どうかしたの?」


グリセルダ様が何か仰っているのがぼんやりと聞えます……

ええと…アレはいったい…そもそもナゼそこで…ううん私が見ているのは本物なのか…

私は見たもののあまりの異常事態に混乱していたため、声掛けにも微動だにしない私が気になってグリセルダ様が近づいて来るのに気が付いておりませんでした。失態です。

人があらぬ方向を見ているとつい自分も見てしまうように当然グリセルダ様も見てしまいました。


「グッ、グリセルダ様、見てはいけませんっ」


我に返った私が慌てて声を上げますが遅かった。遅すぎました。痛恨の極みです。

グリセルダ様が見たもの、それは―――


キンッキンッガッガガッ


どう見てもモノホンの剣で斬り合いをしているディラン・ダンバー様とあのルカ・バーリン様でした。

2人はギリギリと鍔迫り合いながら何かを言い合っています。何を言っているのか全く聞こえませんが一頻り言い合うとまた再開しました。若干ダンバー様が押されているように見えます。


「何かあったのかしら?」


首を傾げたグリセルダ様がポツンと呟きます。むしろ何かないと斬り合いなどしないでしょう。


「どちらかが重大な過失でもしてしまったのでしょうか?」


私も同じように首をかしげてなるほどと思われる事を言います。いやもしそうだとしてもいきなり斬り合いになど発展するでしょうか?

私達がなかば茫然と成り行きを見ていると怒り狂ったような形相のバッセル・ギルス様が走ってこられて手持ちの(ナゼか)タライでバーリン様の後頭部を思い切り殴りつけました。

ガコーンというすごい音がこちら側にも聞こえてきます。

剣を取り落とし蹲るバーリン様。

両手は後頭部を抑えています。相当痛そう。

ギルス様が何言か(多分)怒鳴っています。

バーリン様が何か反論でもしたのでしょうか、ギルス様から二回目の(盥による)殴打が炸裂しました。

それがあと2回ほど繰り返され、甲板に伏したバーリン様の襟首を掴むとギルス様はズルズルと引き摺りながら去ってお出ででした。その背中からユラユラと何かのオーラが見えるような気がしてなりません。

その後をため息をつきダンバー様がバーリン様の剣を拾って後に続いたのです。その背はギルス様と違いとてもお疲れの様子であられました。


…………………。


私は足早に窓へと近寄るとカーテンを閉めました。


「―――グリセルダ様、お茶いかがです?」

「…貰うわ。それとやっぱり少し休みたいの」

「是非そうなされた方がよろしいかと」


……グリセルダ様が横になられ、寝具を整えたのち、一礼して寝室を出ます。

その足で真っ直ぐ出入口に向かい、力の限り思い切りドアを開けました。


ガンッ ゴッ


「くっ…」

「う…」


やっぱり。


「何をしてるんです。盗み聞きですか?」


額を抑えたまま慌てて身を起こす2人の衛兵。


「めっ滅相もございません!」

「申し訳ありません!お許し下さい!」


声がデカい。全く…グリセルダ様がお休みになられないではありませんか。

私はドアを閉めて衛兵2人を交互に見ます。無言の圧力というものですね。2人は最初蒼白になっていましたが(さもありなん。先程の騒動を鑑みては)…徐々に赤くなってきました。ちょっと気持ち悪いです。

「正直、貴方達の事情などどうでもよろしいんですの。そんな事よりグリセルダ様はこれから衣装を替える事になっているので余程の事がない限り誰も通さないで頂きたいのです。そうですわね…時間にして一時間ほどです。よろしいですね?」


主様は「虚弱」だと思われるのがお嫌なようですから別の理由を拵えます。女性のお支度ともなれば時間が掛かるのは共通の常識。少し高飛車な物言いでしょうか。さっきの騒動に言及しないのだから大人しいものだと思うんですけど。

というかデカいわね。少なくとも私より40㎝は上に頭があります。ほんとデカいわ。声もデカいけど体格も…首痛。


「かっ畏まりました!」

「お任せ下さい!」


だから声がデカい!!





次の日です。


グリセルダ様本日は甲板に出て午後のティータイムを楽しんでおられます。


「殿下、こちらは我が国最南の地バーミントッドで手に入る希少な茶葉「シーグラス」です。なんと海水を掛けて栽培するのですよ」


満面の笑み、としか表現できない体で仰いますのは、使者の一人であるララ・ガルキア様です。

彼女は軍人であるのもさる事ながらなんと宰相補佐であり、バルトロメイ・ガルキア王陛下の実の妹君であるという実力も腕力も兼ね備えている才女です。

このティータイムは彼女ともう2人の使者、リア・エクレンド様とレシャ・カルステン様からの招待です。全員が女性。まずは同性の使者と懇談し少しでもバルバッツァ国に馴染んで欲しいようです。実際遠まわしに仰いました。

最初は双方緊張気味でしたがそこは王族と高い身分同士。そつない話題と振る舞いで徐々に打ち解けてきました。内容は主にバルバッツァ国の現在の在り様や気風、テーブルに並べられた国産の茶葉や菓子など軽いお話。給仕に徹している私も勉強になります。あとでちゃんとメモしなければ。さて情報交換も兼ねた楽しいお茶会ですが会話が途切れた一瞬、グリセルダ様のお顔が少々難しげに曇りました。何か重要な事柄があったのでしょうか。そんな表情です。


と言っても、


(昨日は見て見ぬふりをしてしまったけど、これから王妃となるからには見過ごせない事なのではないかしら。もしバーリン殿が何らかの問題を抱えているのならわたくしが…いえ、やっぱり差し出がましい…でも後々大きな問題に発展したりしたら…馬鹿ねそんな事あるはずないわ。まだバルバッツァにも着いてもいないのに気にし過ぎよ。…でも情報として知って置くべき?いいえ、彼が、彼等が新参者のわたくしに話すわけがないわ。でも一応聞いてみても…)


などと私個人としては放って置いた方がいい、傷を抉るな的な事を考えているのはわかりますが。

なんでわかるのかって?長い間お仕えしてきたスキルによる賜物です。

グリセルダ様が忘れようにも忘れられない出来事に唸っていると横合いから声を掛けられました。


「…殿下、お顔の色が優れませんわ。もしかして船に酔ってしまわれました?それともお疲れでしょうか。あの、ご気分が優れないようでしたらお部屋へお戻りになられては…」


ガルキア様が軽く眉根を寄せて心配気です。…なんと言うかお心遣いは有難いのですがそのどれもが全部違いますガルキア様。

心配げに伺われてグリセルダ様が一瞬目を見開きました。内心しまったと思っているのでしょう。

いくら昨日の事が忘れられないとしてもその所謂いわゆる情報交換の場でもある席でつい考え込んでしまうとは主らしからぬ失態です。それだけ衝撃的だったのでしょう。


「ぼんやりしてしまって、ごめんなさい皆さん。船にも酔ってはいませんし、疲れてもいないのです。ただ…すこしだけ気になる事がありまして」

「気になる事…私達でよければお話を窺いますが」


事は個人的か組織的かはわかりませんが当事者達にとっては斬り合いになるくらいには重大でしょう。そんな事情を気軽に聞いてもよいものだろうか。グリセルダ様は尚も躊躇っていましたが「わたくしが気にしていた事は内密に」と前置きして切り出しました。


「…実は昨日、使者のダンバー殿とバーリン殿が真剣で斬り合っている所を見てしまったのです」


瞬時にガルキア様達は凍りました。

ああ、言っちゃった…


「何やら言い合っていましたが、ギルス殿が鬼気迫る勢いで走ってこられて、その…持っていた盥でバーリン殿を打ち伏せたのです」

「………」

「………」

「………」


「それでその、ぐったりされたバーリン殿を引き摺ってギルス殿は去り、続いてダンバー殿がバーリン殿の剣を拾われて去りました」

「………」

「………」

「………」


「あの、バーリン殿は何か問題…いえ悩みを抱えているのでしょうか?こんな事言うとなんと差し出がましい、と思われるかもしれませんけれど、わたくしバーリン殿が気がかりなのです。彼の事情もあるでしょうからわたくしからは軽々しく声を掛ける事は叶いませんが、知っているのと知らないのでは対処、いえ接した際にでも配慮の仕方があると思うんですの」

「………」

「………」

「………」


痛いほどの沈黙。3人のお顔は青ざめています。口はきつく引き結ばれ、目は焦点を失いそう。そして昨日のバッセル様のようなオーラが立ち上っているようなのは気のせいでしょうか。これは余程の事があるに違いない。そう思わせるような空気でした。でもまぁグリセルダ様が考えているような事ではないと思いますけど。

グリセルダ様は思ったより深刻そうなガルキア様達を見て、話さなければよかったと後悔にしたようです。


「あの…ごめんなさい、わたくしが口にして良い事ではありませんでしたね。お節介にも程がありますわフフッ。ですが決して興味本位ではないのです。そこだけは信じて下さいませ」


まずい。まずった。この国家の一大事のような雰囲気、やはり聞いたのはまずかった。取り敢えず悪気はないとフォローしなくてはならない。そんな内心が聞こえてきそうなグリセルダ様は焦り、尚も続けました。


「そうです!わたくし…っあんなに間近で斬り合いを見たのは初めてだったものですから!びっくりしてしまって…」


更に冷え込みました。


あたふたとグリセルダ様が何とかしようとしていると


「……訓練なんです」


ガルキア様がほんの数分前「殿下は本当にお美しくて可愛らしくてこうしてお傍近くにいられるのが夢のようです」とややはしゃいだ様に仰ったお声とは思えないほど、重く暗い声音でポツリと言いました。

残りの2人が弾かれたように顔を上げます。


「く、訓練?」

「ええ。あれは…あれは…アレは…」


ガルキア様の目が不自然に揺れています。俗にいう泳ぐ、ですね。

エクレンド様とカルステン様が何かに祈るように両手を組み合わせました。


「アレは……っ、そう!奇襲に備えての訓練なのです!」


まるで天啓を得たようにガルキア様がガッツポーズを決めながら叫びました。大丈夫ですか落ち着いて下さい。コルテーゼ産の鎮静作用のあるお茶をお出しするべきか。


「奇襲…」

「敵はこちらが休んでいようが何をしていようが構わずやって来るものですから何時如何なる時でも冷静に対処できるよう日頃から訓練しているのです」

「まぁ…そうでしたの」

「ですが殿下のお目に入る場所で訓練を行うなど度が過ぎています人には私からもの申して置きましょう」

「いえそんな。わたくしは何とも…(一瞬口ごもる主様。お労しい)…思っておりません。むしろ訓練なのに驚いて早合点してしまってお恥ずかしいですわ」

「殿下が恥じる事など何も。知らなかったのですから当然です瑣末な事ですので窺うのを失念しておりましたわ申し訳ございません」

「そうです!さぞ驚かれた事でしょう3人に代わって謝罪いたしますわ!」


ガルキア様が流れるように続け、3人方が揃って頭を下げるのをグリセルダ様が慌てて止めに入ります。


「おやめ下さい、誰からも謝られる事なんてありませんわ。どうかお顔を上げて」


(なんだあれ訓練だったのね)という言葉が聞こえてきそうなほどホッとしたようにほほ笑むグリセルダ様。


「何時如何なる時もですか…さすが武の国バルバッツァですわね。わたくしもこれが当たり前だと思わなければなりませんね」


…なるほどそうキタか。さすが我が主様。無意識か。更なる混乱へと導くルートなんですねわかります。


気に掛かっていた事が解消されたグリセルダ様がニコニコと笑ってガルキア様達に話し(追撃)かけると、引き攣った顔でガルキア様が応えました。


「…ええ…あの…慣れては困……そうですね、何とかします」

「え?」

「何とかしますので」

「あの、ですか」

「…お任せ下さい」


これ以上何が言えるというのか。

私からは些細な根回しかできません。


「は、はぁーいぃ」


…グリセルダ様が、…『応う』と


いえ…ですから…何を?


わかって…絶対らっしゃない!!!

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