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閑話 ジゼルレポート1

私の名はジゼル・ブランジーニ。


敬愛する我が主様、グリセルダ・アデリード・コルテーゼ第二王女殿下の筆頭侍女です。

あぁ、ちなみにですけどブランジーニ伯爵家第一子にて長姉です。が、今更身分など関係ありません、筆跡せねばない事など全くありませんのでそこは捨て置いて下さい。

さて先日、予てからお話のあった遠すぎて認識すら危うい隣国の隣国、バルバッツァ国国王陛下の正妃へとグリセルダ様が嫁がれる事が正式に決定致しました。

姉上様であられるアンジェリカ様に続いて、デル・プレト皇国にもひけも取られぬ大国への輿入れに周囲は浮かれておりますが……


誠に勝手、かつ恐れ多い事ながら私個人的には反対です。

その理由、と言いましても拙いものではあるのですが、あちらの方からの求婚でありながら要求が多すぎ、かつゴリ押しともとれる強引なやり方に、妹君であられるエウフェミーナ様でなくとも不快な印象を抱いてしまうのは仕方ありません。

もっとも、エウフェミーナ様は


「根暗脳筋おっさん国王に嫁ぐなんてお姉様が勿体なさすぎ!絶対ダメ!」


というお話なので私の理由とは全く違うのですが……。

ううーん、全くとはいかないまでもエウフェミーナ様に関係のない私が言うのもなんですが、エウフェミーナ様は結婚というものに薔薇色のフィルターが、しかも多大にかかっているようだが大丈夫でしょうか?あんなに夢見がちでは纏まるものも纏まらないような、取るに足らぬ一介の侍女の私ですらそんな心配を今からしてしまいます。グリセルダ様が嫁がれた後は当然エウフェミーナ様にも縁談が降るように来るはずですし…ええそう思えばこれはご成婚から何十年たっても新婚さんのように仲睦まじい国王様夫妻と、これまた仲のよろしいアンジェリカ様とデル・プレト皇王様ギルバート様の影響が大いに…あ、話が横道に逸れてしまいました。

とにかく!、とにかくいくら政略結婚が珍しくない王族との婚姻だとしてもこれは失礼過ぎるのではと憤慨してしまうのです。それなのに我が主様は二つ返事でお受けしてしまったんですよ!


「わたくしがお相手に求めるものはただ一つ。我が国との有効で平和な繋がりよ。その他は特にないわ」


と仰って。


……グリセルダ様。

民を慈しみ、その民あっての王族としての義務感、誠にその姿勢たるや御立派にございます。ええそのお側近くに仕える我が身が誇りに身を震わせるほどに。

でもでもでもですねグリセルダ様。

エウフェミーナ様のようにとは言いませんがもう少し夢見ませんか?お相手に期待しなさ過ぎ、興味なさ過ぎです。御家族様のみならず王族貴族様達に(一部を除く)たっぷりと愛情を注がれた筈なのに異性間に対してはどんか、いえ、にぶ、ええっと、どうでもいいじゃなくて…無頓着!いやいや…あー…あっそう!純真!純真過ぎるがゆえ!ゆえに異性という前に人間として…という事にしておこう。


グリセルダ様の達観した物言いはともかく、バルバッツァ国の要請という名のゴリ押しに「侍女、並びに護衛は総じて一人」なる部分に眩暈と共に憤りが込み上げます。が、我が主グリセルダ様が肯定しました事に異は唱えますまい。ええ唱えますまい。忘れませんが。そして決まった事ならば当然候補は私以外有り得ませんとも。


「ねぇジゼル真剣に聞いてちょうだい、無理に付いて来なくてもいいのよ?わたくし一人でもあちらの王宮で渡っていけるほどの神経と図太さもあるはずだし、最悪の場でもコルテーゼの非になるような理由・・も作らせない覚悟よ?……でもそれに貴女が巻き込まれていい筈もない。第一わたくしが嫌だわ。随分長い間コルテーゼとも離れるし…、そもそもバルバッツァ国の世界観、事情、在り方を実際見聞きした貴女は里帰りも間々ならないだろうから」


なんて仰った主様に「そうですねじゃあやめます」なんて言えますか!?言えませんよ!というか仰らなくても付いて行きますけど。

「伯爵家並びにご両親に申し訳ない」と言い募るグリセルダ様を説得しつつ淡々とお支度に精を出します。あ、ついでに申しますとその伯爵家とやらは私の両親なのですが、家督は後妻が生んだ年の離れた異母妹が婿でも貰って継いでくれる筈なのでグリセルダ様がご心配になる事は微塵もありません。


婚姻の儀のあらゆる準備、並びにお支度、大国へと持っていく荷物の選別や勉強会に精を出し、途中エウフェミーナ様が起こす騒動に振り回されながら其れからの日々は過ぎていきました。そうこうして婚姻の儀まであと2週間と迫った日の事です。大国バルバッツァから使者の方々が到着したのは。


……………早い。いや速い。


ったく、なんなのでしょうあの国。


訪れになるのは2週間後の筈でしょう?それを全く常識はず…くっ、またグリセルダ様に諭されてしまいました。わかりました、グリセルダ様がそう収めるのであれば私如き侍女が四の五の言うわけにはいけませんね。お支度に集中します。使者の方々を歓迎する晩餐会へのお召し物のお手伝いをして一緒に会場入りをし、傍近くに控えます。

主の些細なハンドサインを見逃さないよう注意しつつ、使者の方々を観察したり、トラブルがないかと会場中に目を配っていると、エウフェミーナ様の左隣に座られた、…えっとあれは確か使者の一人バッセル・ギルス様。無表情そのもの、かつ言葉少ななエウフェミーナ様にめげずに会話を続けられたそのお方が……


いきなりエウフェミーナ様の背後から伸び上がり、エウフェミーナ様右隣に座ってらした使者ルカ・バーリン様を―――


持っていた何かで思い切りどつきました。


ええどついたんです。思い切り。フルスウィングと言っても過言でない程に。斜め下、死角からのどつきにバーリン様のお体が一瞬浮き上がるのも見えました。

一連の動きをしばし呆然と見ていた私ですが我に返るとグリセルダ様の元へと駆けつけようとして…止しました。

どついた方もどつかれた方も平然としていますし、エウフェミーナ様は首を傾げていますが何事もなくお食事を再開されますし、我が主様に至ってはバーリン様が何事か話されるお話に頷きつつ、その右隣の女性の騎士、ララ・ガルシア様に話しかけられ笑顔で答えていました。


………見なかった事にしよう。


そう、あれは、きっとなんでもないんですわ。ああしなければならない何らかの事情、何らかの病気か何か…うん、そう、そうに違いない。私は何にも見なかった。はいこの案件はおしまい。


無理やり蓋をして片づけた私がその後、たまたまその方向に用事がありまして、使者の方々がお泊りなられているお部屋の前に差し掛かったその時です、不自然な音がしたのは。


ドォン!


…………。


「何やってんだテメェ!!また吊るすぞ!!」

「うぁああ!…もうやだ!絶対変な国だと思われた!」

「つうかなんで隣に座った!我慢できないにもほ▽#+る⑧v!」

「帰れ!今すぐ本も%&$#*…!」


衝撃ゆえでしょうか、後半聞こえませんでした。


フッ……。

私は勿論聞かなかった事にしました。そしてその時を限りにお部屋の前を二度と通りませんでした。しかしこれはさすがに報告だけはしておくべきだったかもしれない…。

個人的に「このご成婚やっぱりやめた方がよいのでは」という思いが強くなる私とは裏腹にグリセルダ様の予定は着々と滞りなく進んでいきました。

そして迎えた運命の日。


「わたくし、グリセルダ・アデリード・コルテーゼはコルテーゼに生まれ育まれた慈愛と協調の精神を持ち、またコルテーゼの一人としての誇りを忘れず、新たなる友好国バルバッツァ大国との友愛の礎として誠心誠意務める事をここに誓います」


ああ、我が主グリセルダ様。その淑やかでありながら凛とした佇まい、とても!とてもお美しいです!

陛下や王妃様を初め、殿下方と長となる別れの挨拶に胸が締め付けられ、思わず零れそうになるものもありますが、我が国高位の貴族達や各国の使者の方々も感銘を受けられたような様子を見て嬉しいのと主様を誇りに思うのとで我が身の震えが止まりません。我が主グリセルダ様、ジゼルはどこまでも付いて行きます!


婚姻宣誓の儀を済ませたグリセルダ様は、王や使者等の言祝をにこやかにほほ笑んで受け、静々と宮殿の外へ出ました。

そこにはズラリと並ぶコルテーゼ国きっての精鋭達、近衛隊が。それが寸分の狂いもみせず揃って礼を取り、二列になります。グリセルダ様はその中央を歩きながら見送るたくさんの貴族、王宮の使用人たちに笑顔で応えます。見送る人々の中にはしきりに目元を拭くお方が何人もいらっしゃいました。グリセルダ様はどなたにもお優しい方でしたから皆名残惜しくまた反面嬉しく思っているのでしょう。私ももらい泣きしそうです。馬車が待つ中央広場では沢山の国民が主様の晴れ姿を一目見ようと溢れかえっておりました。手に手に花や旗を振る民、口々にグリセルダ様の婚姻を祝ってくれました。うう、涙腺が涙腺が。


さて。グリセルダ様に先んじて港に着いた私を、コルテーゼではあまり見ない威圧感という言葉がぴったりな軍艦が待っていました。軍艦ですよ軍艦。『軍艦』という言葉をその体躯をもって表しているという感じです。私、軍艦なんて見た事ないのですが。その前には先行していたバルバッツァ国の使者達が並んでいるのも見えました。主様の不備がないように荷物が無事収められたか、お着きの際の私の位置などを確認していると近衛騎兵に囲まれたグリセルダ様がお着きになられました。

馬車が定位置で止まるとすかさず近衛隊長が前に進み出て、ステップを降りるのに手を貸しています。

音楽隊が高らかにファンファーレを奏で、詰めかけていた国民がワァッと歓声を上げます。それに満面の笑顔で手を振る主様。

近衛隊が敬礼し臣下の礼をとる中、近衛隊長様がエスコートするのをグリセルダ様は静々と赤絨毯の上を歩きました。


「殿下…どうかいついつまでもご健勝で…我々近衛全隊、殿下のお幸せを切に願っております」

「セウィング殿、幼い頃から迷惑ばかり掛けていた私に今まで本当にありがとう。言葉には言い尽くせないほど感謝しています。貴方達も身体に気を付けて。お父様達をよろしくね」

「…殿下との思い出に迷惑であった事など一つもありません。貴女様は今も昔も素晴らしいレディです。後の事はどうぞお任せ下さい。これまで通り誠心誠意仕えさせてもらいます」


最後に近衛隊長セウィング様はグリセルダ様の手の甲に軽く唇を押しあて別れの挨拶をしました。やばいです本当に涙腺が。鼻水も。

グリセルダ様の目も潤んでおります。それも無理はありません。かの隊長との思い出が様々に蘇るのでしょう。幼い頃、王女にしては少々お転婆だった主様を今より少し若い彼が窘めながらも暖かく見守ってくれた事を。私も一緒になって叱られたり褒められたりしました。出立の前日。「…これまでよく頑張った。君ほど殿下によく仕えた者を私は知らない。これからも、いや一層励んでくれ」そう仰って私如きに拝礼して下さったお姿、私一生忘れません。

…かのお方が初恋の君だった事はグリセルダ様にも秘密でございます。

ああ、こうしてはいられません。我に返った私は、微笑み、国民に向けてでしょう手を振りながらタラップへと足を掛けるグリセルダ様へと歩みます。すると使者の一人ディラン・ダンバー様が手を差し延べられました。どうやらたくさんの花束を抱えたグリセルダ様の足元が危なっかしく見えたようでした。ナイスフォローです。私がお手を取ろうとしたのですが、これはこれで両国間の良きイメージに繋がることでしょう。グリセルダ様は逆らわずにこりと笑って手を預けておいででした。

トラップを登り切ると軍艦の左舷に寄り、祖国に、みなに手を振るグリセルダ様。

近衛隊が乱れぬ隊列で見送っているのが見えます。笑顔でグリセルダ様を称えるコルテーゼの民の姿も。音楽隊や国の重鎮達、仲が良かった貴族令嬢や悪かった貴族の方々…様々でありましたがみんなグリセルダ様を見送りに来てくれました。


「……さようなら、コルテーゼ。どうかいつまでも平和でみんな仲良くいて……」


とうとう最後まで涙を見せずに笑顔で仰ったグリセルダ様。

まだまだ未熟な侍女は我慢できずにポロリと一滴漏らしてしまいましたのに。

…えっと、取り合えず生きてる的な……………ソレ。

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