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千載一遇は千思万考!?

― グリセルダは大きくなったら何がしたい?

― グリセルダはお父様のお側にいたいです

― それはまた嬉しいことを言ってくれる

― そうですか?わたしも嬉しいです

― はっはっはっ!な アリー 聞いたか?

― しっかり聞きましてよ。グリセルダ お母様はどうしましょうか

― ? お母様も一緒にいます

― まぁお母様も?

― 勿論です!お父様もお母様も バルド兄様もダニエル兄様もアンジェリカ姉様もエウフェミーナもジュリオも アグリタにジゼルにそれからそれから

― まぁまぁ 大勢ねぇ フフフ…

― はい!グリセルダはみんなとずっと一緒にいるんです!


――― ずっと…みんなと…一緒に…




グリセルダは閉じた窓からお気に入りの中庭を見下ろした。ふと、幼い頃、両親と交わしたあの時の会話が浮かんだ。自然、頬が緩む。随分可愛い事を。でもあの頃は本気でそうなれると思ってた。


「グリセルダ王女様、バルバッツァ国から使者の方がお着きになりました」


侍女のジゼル・ブランジーニの声に物思いから引き戻された。その言葉の意味に軽く眉を寄せる。


「…予定より随分早いお着きね」

「そうですね、彼の国を出立したと聞いてから2週間は早いです」

「天候にでも恵まれたのかしら・・あ、こうしてはいられないわ。ジゼル、支度を手伝って頂戴」

「かしこまりました。灰のドレスになさいます?それとも黒?」

「………」


グリセルダはまじまじと侍女であり、親友であり、乳兄弟でもあるジゼルを見つめた。


「ジゼル…まだ怒ってるの?」

「はい?何を仰っているのでしょう。ジゼルは何時ものとおりですけど」


何時ものジゼルはそんなに眉間に皺が寄ってないと思うわ、と言いかけてグリセルダはやめた。


「…灰も黒もだめよ。失礼でしょ」

「そうでしょうか。あの陰気な国にはお似合いだと思うんですけど」

「ジゼル」

「…では先週仕上げた桃色のドレスになさいますか?」

「それでいいわ。耳飾りは…ああ、折角だからバルバッツァ国王から頂いたダイヤにしましょう。使者の方にも受けがいいでしょうから」

「髪飾りはカルヴィーノ伯爵からの」

「いいえ。お母様から譲られたエメラルドにしましょう」

「では首飾りはコロナーロ公爵」

「ジゼル、いい加減にしなさい」


チッと舌打ちが聞こえたが無視してグリセルダは支度部屋へと足を運んだ。

頑固な侍女はいまだに事の次第に腹を立てているらしい。

大きな姿見の前に立つと仏頂面したジゼルがハンガーからドレスを外すのが映った。グリセルダはここまでの騒動を思い返し、軽く頭痛がしてきた。




時を遡る事2ヶ月前。

予兆もなく突然、遥か北の国バルバッツァ国から『コルテーゼ国第2王女グリセルダ殿下を正妃に迎えたい』なる親書が届いた。グリセルダが王女を務めるコルテーゼ国は西洋大陸の端にあり、デル・プレト皇国を挟んで彼の国バルバッツァ国がある。大国を間に置いてで特に今まで交流らしきものもなかったのだが。その青天の霹靂とも言える直球の申し込みに、コルテーゼ国王以下臣下達は困惑と混乱に顔を見合わせた。


「一体…どういう事なのだろうか。これまで皆無とは言わないが国交などなかったはずだが・・」


コルテーゼ国王、ガイウスは眉間に皺を寄せながらも早速情報集めにかかった。親交のあるお隣デル・プレト皇国にも秘密裏に問い合わせる。今は一線を退いているが前皇王は国王の知己であった。

早馬を遣わしたが一日目で戻ってきた。というか前皇王を伴って帰ってきた。


「おいおいどういう事だ。バルバッツァ国から嫁くれだと?」


前皇王、アドルバートはガイウスの執務室に入るなり開口一番そう言った。


「アデルバート…お前また城を抜け出してたのか」

「もう隠居したんだから自由にしても構わんと思わんか?ちょうど国境近くをぶらぶらしてたらお前んとこの早馬を見つけてな、無理やり止めたんだ」

「…お前宛だったからよかったものを。そういうことはやめてくれと前も言ったはずだが」

「俺とお前の仲ではないか、堅い事言うな」

「言うわこのバカ!前皇王といえ己の立場を」

「うるさい小言は後で聞く!それよりバルバッツァ国だ」

「覚えておれよ貴様。…これだ」


ガイウスはバルバッツァ国からの新書を手渡す。


「…フム」

「バルバッツァ国王は確か・・30を過ぎていたと思うが・・正妃はおらんかったのか?」

「あいつらはあんな広大な国土を持っておきながら身持ちが固くてな、中々入り込む隙がないのよ。幸い敵対しているわけでもないが十分な国交があるわけでもない。慇懃な態度でのらりくらりとはぐらかし、何度も間諜を放っているが王族については微々たる話しか聞けんとないない尽くしよ。おまけに国民共々よそ者に厳しくてな、口が堅いのなんの。そんな惨憺たる数少ない情報だが現国王に妃があったという話はない。ちなみに歳は35前後だと聞いている」

「その年で正妃がいないだと?」

「ああ。だが後継者はいる。歳は20を超えているし、姓も違うのでおそらく養子だろう」

「確か軍事色が強い国柄だな」

「ああ。奴らはかなり強力な軍だぞ。陸軍も強いが海軍がかなり強い。五年前、東洋の国ヒゼイが攻めてきたが僅か3日で半滅状態にして追い返した」

「なんと…」

「こっちがこれ幸いとお近づきになろうと画策する間もなくな。あの時は驚いた」

「ううむ…」

「まぁ俺から言わせてもらえば今回の申し出、羨ましい限りだ。ああ俺のところに年頃の王女か公女がいればなぁ。なな、もしグリセルダが嫁ぐのならその伝手でこっちにもなんとか繋ぎを取ってくれぬか。これこの通り!」


アデルバートは羨ましげにしていたのを一転、拝み倒すかのように身を乗り出してきた。

確かに悪くはない話だ。今までその必要はなかったが外交カードはあればあるほどよい。とかく未来は未知数だ。可愛い娘はできるなら傍近くに嫁いで欲しいものだが彼は国王である。並みの父親ではない。


(断るにしては魅力的な話だな…)


ガイウスは、彼が相手にしないのをみると王宮がどんなにつまらない所かと愚痴る役に立たないアデルバートを力づくで追い返し、先ずバルバッツァ国にもう少し具体的な事を聞くために宰相と相談しながら親書を認めた。

そして仰天する事になる。

親書が出されて僅か三日で帰ってきたからだ。


「………」


ガイウス王は宰相から恭しく、しかし困惑気に手渡された黒檀にルビーが輝く小振りな箱を、同じく困惑気味に見下ろした。中には当然バルバッツァ国からの親書が収められている。


「お父様、お開けになられないの?」

「…グリセルダ」


柔らかな声に我に返る。今日グリセルダがここにいるのはバルバッツァ国からの申し入れを話すためであった。そして話をしているちょうどその時にこの親書が届いた。


(この縁談大丈夫であろうか…)


一抹の不安が王の胸にじわりと浮かぶ。彼の国との物理的距離と今の郵便事情を鑑みてどんなに急いでも10日は掛かる筈なのだ。それを3日…驚異的な早さといっても過言ではない。そしてその速さは未知なる国からのと相まって困惑を不安にかえる。


「グリセルダ、私は…この婚姻を進めるつもりであるが…お前の意見も聞こう」

「わたくし如きに寛大ですこと。ですが決まっております。コルテーゼの益となるならばどんな所へでも赴く所存です」

「固いな、まるで勇ましい戦士のような」

「まぁ、お父様ったら」


穏やかに笑う愛娘に目尻も緩む。一息ついて黒檀の箱を開けた。中には分厚い親書が収まっている。

親書には『バルバッツァ国王その人となりとグリセルダが正妃になった暁に分与される財産目録、それに付随する爵位、新たなる国交に基づいての互いのメリット』等々が事細かに書かれていた。しかしそれだけではない。親書には驚くべきことも書かれていた。はとんでもない要求・・いや決定事項であった。


『申し入れを受け入れてもらえるのならば、コルテーゼ王女殿下には申し訳事になるが婚姻は冬が始まる前に我が国にお輿入れを願いたく。今日より二ヶ月の間にお輿入れの準備を終えればよろしいかと。お迎えしは使者十人を遣わしたく。真に恐れながら従者、侍女、護衛は総じて少数にて一人と願わく。見届け(びと貴様たる人物も極少数にて賜りたく……』


「二ヶ月!たった一人だと!……何たる事だ!」


ガイウスは思わず親書を握り締めたまま立ち上がった。たったの二ヶ月とはどういう事かわかっているのだろうか?しかも従者、侍女、護衛を含めても一人しか連れて行けないなどと正気か?

…無礼にも程がある!やはりこの婚姻おかしすぎる。


「まぁ二ヶ月だなんてあまり時間がありませんわね」


横合いからグリセルダが親書をのぞき見て漏らした。ガイウスは一時憤りも忘れ、心持身を引いて娘をまじまじと見つめた。


「…あまりではなく、全くだろう」

「そうですわね」

「…事態を把握しているか?」

「勿論です、わたくしの結婚ですもの」


心外だとばかりにグリセルダは言い返すと父王にしずしずと向き直り、少し腰を落として礼を取りながら凛として顔を上げた。


「この喜ばしきお話、どうぞ良きとしてお進め下さい。グリセルダはバルバッツァ国へと嫁ぎとうございます」

「グリセルダ…しかし」

「バルバッツァ国は友好国にして大国デル・プレト皇国がぜひにも繋ぎを持ちたいと願うほどのこれまた大国です。その国王陛下に正妃へと望まれるとは我が国としても王族としても大変名誉あること。これ以上の縁はありません」


微笑みながら、しかしけして後には引かぬと強く光る愛娘の瞳を見て父はため息をついた。

不安はある。第一王女を送り出した時より遥にずっと。………だが、もう。


「本当に…よいのだな」


ガイウスは苦いものを飲み込むように厳しく問い、グリセルダは相変わらず微笑んで柔らかく、しかしきっぱりと答えた。


「はい。よしなに」




こうして更に何度か親書が飛び交い、それに伴い何度も会議が開かれ、更に更に詳細を詰めに詰めたのち……申し込みから一月という異例の速さで、目出度くバルバッツァ国王バルトロメイ・ガルキアとコルテーゼ国第二王女グリセルダ・アデリード・コルテーゼの婚姻が決まった。

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