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P9

 香田がのっそりと、背後を振り返って首を傾げながら通路歩いて来て、じっと見る俺の視線に気付いて隣の席に座った。


「佐倉君、なんかあった?」


「え?」


「さっき、辛そうな顔で駆けていって。声を掛けようと思ったんだけれど、高城君と神崎君が来て、なんだか真剣そうな顔で、佐倉君を探さないとまずい、みたいに話していたようだから」


 なんだよ、それ。ちょっとからかっただけじゃないか。たったあれだけの事で、そこまで大騒ぎか? どれだけ甘ったれのおぼっちゃまだと思いながら、佐倉と、昨日の千尋の表情が重なる。なんだよ、クソ。しょうがない、せめて、様子うかがいに声くらいかけよう、そう考えながら、佐倉達が帰って来るのを待った。が、開会式の時間になり、アリーナに集合するため移動し始めても、三人は戻って来なかった。一年生、特に一組は、他の学年、クラスと比べてきっちりしている者がほとんどで、集合、整列が早い。体育館の一番奥側、生徒の一番端の列に並んで床に座っている間も、三人とも姿を見せない。いつも、臆病なくらい真面目すぎ、こんな風に集合したりする場合は、誰よりも先に到着して待っている佐倉すら。その異常事態に、クラスの連中も心配そうにひそひそと話し合う。


 探しに行こうか? どうしたんだろう? やっぱり、さっきの。


 だから、謝るつもりだったんだって! と、叫びたくなるくらい、見事な針のむしろ状態。担任の椎野が、列の一番前に座るヤツに、


「委員長どうした? ん、副もいないのか。あいつら、何やってんだ? 何か聞いているか?」


 と聞いている。問われた生徒が、さあ、なにも、と、曖昧に首を傾げて返した時、高城が息を切らして駈けてきた。


「おう、高城、遅いぞ」


「すみません、いっち、神崎が、えっとー、ハラ壊して。なんか、怒涛の滝、とか、そんな感じで? で、佐倉が一緒に付き添っています」


「はあ? ハラ? 便所に付き添ったってどうにもならんだろうに。しょうがないな、早く座れ」


 飄々とした風に、高城は列の中央辺りにスペースを開けてもらい、割り込むように列に並んで座った。高城の、どこかおどけたような態度に、クラスの連中の雰囲気が一気に緩み、女子までもが、やだ、といいながらもクスクスと笑い始めた。神崎が? 突然腹を壊すのは、誰にだってあり得ない事じゃない。けれど、このタイミングで? いや、待てよ。本当に神崎が腹を壊しているんだとしたら、それでもし、付き添いが必要だというのなら、残るのは高城の方が自然じゃないか? 神崎を支えるにしても、チビで細い佐倉より、体格がよく、腕力もありそうな高城の方が適任だろう。クラスをまとめるためにも、委員長は先に行け、という流れになるはずだ。具合悪いのが、佐倉だったらまだわかる。けれど、ウソをつく意味はなんだ? 高城は、何を隠している? 佐倉と神崎が姿を見せたのは、それからしばらくして、開会式が始まる直前だった。案の定、というべきか、先生からハラの調子を聞かれた神崎は、派手に愕然として、佐倉は、おなかを壊したのは自分です、と告げて頭を下げた。高城の言い間違い? それも不自然だ。どうにも気になって、クラスの列の一番前に並んで座る佐倉と神崎を盗み見た。佐倉は、若干まぶたを腫らし、目の淵を赤くして、どこか疲労を湛えて座っている。神崎は時折、そんな佐倉の様子を気にしているようだった。やはり、「何かあった」のは佐倉の方だろう。謝ろうと思っていた。が、その行動の不審さに、素直に声を掛けるのが躊躇われた。

 サッカーは予想通り、一回戦で早々に敗退してしまった。一組で一回戦を突破したのは、女子のバスケと男子バレーのみ。一応、クラスの連中、香田たちに誘われて、バレーのコート際で応援していたが、接戦の末に負けてしまった。かなり惜しいところまで行ったが、ま、二回戦の相手は経験者の多い七組、これで勝てる方がおかしいくらいだ。

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