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P5

 教科係の仕事は、授業前に職員室の担当教諭の所に顔を出して、資料や返却のプリントなどを預かり、いくつかある理科系の教室――標本室やら、実験室1、2、プロジェクタの置いてある投影室などの鍵を預かり、次の移動先をクラスのヤツらに告知する。理科は教室を移動する事が多く、しかも、音楽などと違って移動先が確定していない分、他の教科係よりも忙しかった。はじめにらっきー、なんて軽く思ったけど、とんでもない。香田はもっさりしている雰囲気からすると意外だったけれど、すごく気の利く奴だった。俺たちの席が近かったのもよかったのかもしれないが、「職員室に行ってきいてくるよ」「今日は、教室、理科1だって。僕は教室の鍵開けてくるから、戸川君、黒板に書いておいてくれる?」と、一歩先に動いてくれて、すごく助かる。蓬泉のヤツとは、馴れ合わないつもりだったけれど、そんな事にこだわって素っ気なく接する俺にも、香田は変わらずに話しかけてきた。そうなってくると、こっちの器の小ささが浮き彫りになるというか、ガキっぽさがバカらしくなってくる。


「あれ、戸川君、そのシャープペン」


 少し驚いたような、嬉しそうな香田の声に、どくん、と背筋が冷たくなった。やばい、うっかり机の上に出しっぱなしにしてしまった。学校に持ってくるつもりはなかったのに、昨日、家で勉強した時に紛れ込ませてしまったのだろう。慌てて隠すのも不自然なタイミング。某アニメのキャラクターとロゴが、机の端でポップな色彩を放っているのが恨めしい。小、中学時代、千尋と一緒に夢中になったアニメは、当時は意識していなかったものの、ジャンルとしては魔法少女アニメ。絶対、バカにされる。香田がシャープペンを手に取った時、戸川、こんなアニメ見ていたのかよ、と、教室中にふれ回る姿を予想して、終わったと思った。


「なつかしいなあ、毎週見ていたよ」


「え、見ていた? 香田が?」


「うん、日曜の朝にやっていたよね。あれ、これ、映画の?」


「ああ、うん」


「映画はみてないんだよ。テレビでやったっけ? DVD借りようかな」


 教室で少女アニメの話をする事に、香田は何のためらいもないらしい。誰かに聞かれはしないかと周囲の目が気になるのが半分、バカにされずに済んだとほっとするのが半分。けれどやはり、楽しそうにアニメの名場面やらキャラクターのセリフを話す香田の前では、自分が小さく思えてしまう。こいつと一緒にいると、これまでの常識と感覚がおかしくなってくる。自分は細かい事を気にし過ぎているのかな、と。実際、その時、俺たちの会話を気にしている奴なんて、一人もいなかった。

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