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P35

「東野君、藤森さんと、何か約束でもしているの? イベント?」


「別に、約束は。けど、なにか、さ、僕の事話していないか、って」


「ううん、なにも?」


 もうすぐに迫っているイベント、といえば、流れから察するに、バレンタインの事だろう。

 東野はつまり、中学時代からずっと藤森の事を。

 二人の会話を聞いていて、いろんな事が急速に繋がった。だから、文化祭で二組を見に来た、とムキになっていたのか。二組はほとんどの生徒が教室から離れていた。藤森とも会えずじまいだっただろう。お気の毒さま。


「まあ、佐倉に話すような事じゃ、ないしな。

 連絡なら、いつでもしてくれて構わないって伝えておいて。

 基本的にいつも忙しいけれど、藤森さんに合わせるし」


「麻琴が、東野君に連絡? しないと思うよ?」


「はああ?」


 ぶーーーーーーー。

 思わず心の中で吹き出してしまった。佐倉、はっきり言い過ぎだろ。


「だって、東野君、僕とまこ……藤森さんの事、いとこだって言っても、何回も何回も、付き合っているんだろうって言うじゃない?

 だから、僕たち、家では名前を呼び捨てだけれど、学校では苗字にさん付けするようになったし。藤森さん、怒っていたんだよ、やだなあって」


 東野の色を失くし、愕然とした表情を見ているうち、さすがに気の毒になってきた。コイツなりに、精一杯藤森の事が好きだったんだろうに。東野が完膚なきまでに叩きのめされているのは、正直見ものだったが、そろそろいいだろう。


「あのさ、明日もテストだし、帰ろうぜ」


「そ、そうだね、そうだよ、こんなところで話している場合じゃないよね」


 俺の申し出に、同じ気持ちだったのだろう、千尋も勢いよく乗っかってきた。佐倉も同意して頷いた。


「みんな、試験頑張ろうね。戸川君、また明日、学校でね。

 僕は東野君と帰るから」


「な、なんで佐倉と帰らないといけないんだよ!」


「なんで、って、一緒の電車じゃない。せっかく久しぶりに会ったんだし。

 東野君、小学校が違うから家、知らないんだけれど、近かったら僕の家、寄っていかない? 一緒に勉強とか」


「しないよ! するわけないだろ。僕はこれから用があるんだ。

 佐倉は一人で帰れよ」


 そう言われ、特に残念な風でもなく、ふうん、じゃあね、と手を振って改札に向かって歩いて行った佐倉――を、蓬泉の制服を着た女子生徒が追った。


「修! 待って」


「ああ、麻琴、今帰り?」


 噂をすればなんとやら。

 親しげに佐倉に話しかけているのは、藤森麻琴に間違いない。


「ちょうどよかった。ね、そっちいって一緒に勉強していい? 数学、不安で」


「うん、いいよ、一緒に帰ろう。さっきね、東野君に会ったんだ」


「えー、同じ中学の?」


 並んで歩く二人は、人混みの向こうに姿を消して、それ以降の会話は聞き取れなかった。気まずくて、さすがにもう東野のカオは見られなかった。


「え、っと、じゃ、俺たちも帰るか」


「うん、東野君、また明日」


 脳裏に、天敵、という言葉が浮かんだ。

 佐倉には全く悪意というものはない。相性なのか、もっと別な何かなのか、東野にとって佐倉は天敵だ。

 藤森と一緒に帰って、試験勉強とはいえ話す時間が持てるとわかっていたら、佐倉の申し出を受け入れただろうに。人生って、いろんな日があるな。ま、東野、頑張れ。俺はもう、付き合いきれないけれど。

 千尋を伴って、そそくさとその場を離れた。昼前の電車内は、試験期間中らしい学生が多かったが、比較的空いていた。なんとなく言葉を発する気になれず、千尋と並んで立っていた。

 が、ふいに、千尋がクスリと笑って俯いた。


「なんだよ」


「東野君、ちょっと可哀想だったなって。

 泣きっ面に蜂って、こういう事を言うのかな」


「ああ、うん」


「でさ、たくちゃん、前に言っていた僕に似ているクラスメイトって、もしかして、佐倉君?」


「さあね」


 俺もつられて笑ってそう応えたけれど、千尋には、それが肯定だと伝わっているだろう。なにせ、物心付いた頃からの付き合いなんだから。

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