P34
「と、ところでさ、この前、全国一斉試験、あっただろ? 結果、どうだった?」
東野が、軽く咳払いをして、ちらりと佐倉を見た。
唐突にこんな事を言いだすなんて、まあ、多分、自己最高順位でもとったんだろう。佐倉と会って、最初の「げ」の意味を推測するに、成績の良さに全プライドをかけているような東野は、中学時代、佐倉を抜いた事はなかったに違いない。見下している蓬泉に進学した佐倉に、今こそ成績で勝てれば、と、自分のやたらたっかいプライド保持のため躍起になっているってところか。
「ああ、冬休み明けの外部模試? この前結果返って来たところだよ」
続けてさらりと口にした順位に、佐倉以外の三人が硬直した。
おいおい、お前ってそんなに成績良かったのかよ。その成績だったら、少なくとも国内で入れない大学はない。
「佐倉君って、すごいんだね。蓬泉でも、トップ?」
「二学期はそうだったんだけれど、二学期末のテストで戸川君に抜かれちゃって。今は、戸川君の後ろの席なんだよ。
二年生でもきっと、理系コースの同じクラスになると思うし、今度こそ戸川君に負けないように頑張らないと、って思っているんだ。
自分より上のライバルが近くにいると、いい刺激になるね」
ちょ、何その言い方。佐倉が俺の順位より下になったのは、お前が大幅に成績を落としたからだろ。その言い方じゃまるで、俺が蓬泉のTOPになったって、全国テストで二ケタ順位まであと一歩の佐倉より勉強ができるって誤解されるだろ。
ほらみろ、千尋は思いっきり尊敬のまなざしで俺を見ているし、東野は目を見開いて驚きを隠せずにいるじゃないか。
まあいいや、千尋には後でちゃんと説明するとして、東野には勝手に誤解させておけば。気分いいし。
「それはともかく」
お、東野、立ち直ったよ。さすが最上クラスのソーシャル・スケールを自負するオトコ、なかなかの精神力だな。
「ふ、藤森さんは、その、何か言っていないか?
ほら、もうすぐあるだろう? イベントが」
「麻琴?」
「また! なんですぐに呼び捨てにするんだよ!
付き合っているわけでもないんだろ?」
「え、ごめん。イトコだから、つい」
「いとこだなんて、全然似ていないじゃないか」
「藤森さんは、父方のイトコなんだけれど、僕は母さん似だから」
藤森麻琴? 二組の、ハキハキした元気いっぱいって感じの女子か? 他のクラスのヤツ、しかも女子生徒となると記憶が曖昧だが、可愛い感じで目立っていたと思う。へえ、佐倉といとこなのか。
「兄弟だって似ていないヤツはいくらでもいるだろ。まして、いとこなんて」
俺の言葉に、千春さんと似ていないと散々言われ続けている千尋もうんうん頷く。
東野は、俺たちをぎっと睨んで、再び佐倉に向き直った。
「だいたい、藤森さん、啓徳にはいれるくらいの成績だったのに、なんで第一志望が蓬泉だったんだよ。
佐倉が一緒に行こうとかごねたんじゃないのか?」
「そんな事ないよ。
おじいちゃんが、小中は公立でいいけれど、高校からは私立にって、建学の精神があるから、蓬泉の教育方針はなかなかいい、って、そう言って、だから、まこ……藤森さん兄妹も、僕も、いとこはみんな蓬泉なんだよ」
なるほど。確かに実際私立高に入学してみると、メリットだと感じる部分は多い。