P33
中間テスト期間で、いつもより早い下校時間、再び駅で千尋と、あの、東野とかいうヤツと会った。相変わらず何と戦っているのやら、いきなり臨戦態勢で鬱陶しい事この上ない。
「啓徳も中間テスト? 期間中は勉強が気になって落ち着かないな」
「そうだね、努力は、とりあえずしないよりした方がいいよね。どの階級でも。
僕もさらに上を目指すのが人類のためっていうか。これは、テストの成績に限らず、だけど」
うっぜええええええ。なんだよ、人類のためって。どんだけの重責を背負って生きているんだよ。
「戸川君。と、あれ? 東野君?」
かけられた声に振り向くと、佐倉がにこにこと笑いながら立っていた。
東野は、誰だ? なんで自分の名前を知っているんだ? というような、不審そうな目で佐倉を見ていた。
「佐倉、コイツ、知っているの?」
「東野君? うん、中学が一緒だったから」
「佐倉」
東野が佐倉の名前を呟く前、小さく「げ」と言ったのを聞き逃さなかった。
へえ、同じ中学。言われて思い出したけれど、文化祭あたりに佐倉は長かった髪を切り、それまでとがらりと雰囲気を変えた。中学卒業以降会っていないのだとしたら、一見して気付かなくても不思議はないのかもしれない。
俺は千尋と佐倉に、簡単にお互いを紹介した。
ん、そういえば、文化祭、といえば。
心の中に、アメリカアニメの悪役の、どす黒いニヤニヤ笑いが浮かんだ。
「紹介しろ、なんて、元々知り合いだったんじゃないか」
俺の言葉に、三人の視線が集まった。佐倉が不思議そうに首をかしげる。
「紹介、って?」
「文化祭で、佐倉の事、あれ誰? 紹介しろ、って言っていたよな?」
「東野君が? 蓬泉の文化祭、来てくれていたの?」
「佐倉となんて、会っていないだろ。会っていたとしても、紹介しろなんて」
「もしかして」
千尋がおずおずと言う。
「佐倉君、水色のワンピースを、着ていた?」
その時の、東野のカオ。佐倉は、けろっと、ああ、と納得したように頷いた。
「あれは、アリスの恰好なんだよ。クラスの子が作ってくれて。
はじめは女の子の格好なんて、ちょっと恥ずかしかったんだけれど、みんな褒めてくれて、とてもよくしてくれて。
ああ、そっか、あの時も今も、眼鏡かけていなかったから、東野君、僕だってわからなかったんだね」
いや、眼鏡だけの問題じゃないだろ。文化祭の時は長い金髪のウイッグに目をひくドレス、薄く化粧までして、フルモデルチェンジしていたじゃないか。なんで眼鏡限定なんだよ。マジでこいつの脳内構造が知りたい。
「あ、あれはだね、男のくせに女装なんて、低俗な輩が、どこのどいつか知りたかっただけだよ!
まさか、同じ中学出身の奴だったとはね。僕の脳が、判断を拒否したのもしょうがないな」
「あはは、そんなわけないじゃない。東野君の脳って、おもしろいねえ」
佐倉、全否定したあげく、ヒトの脳をおもしろい扱いするのはやめてやれよ。東野、軽く泣きそうじゃないか。俺にとっては佐倉の脳の方が摩訶不思議だよ。