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P32

 三学期は、環境委員、とかいうのになった。校内清掃のチェックやら、啓発ポスターを作ったりする。

 委員会の会合の始まる前、意外な奴から声を掛けられた。


「ね、戸川君って、立花君と仲良かったよね? 今も連絡取っている?」


 同じ委員会になった同じ中学出身で七組の山崎は、高校に入ってから辞めてしまったバレー部に、一学期の途中頃から所属していると聞いていた。

 千尋は中学時代、バレー部のヤツらに見下され、粘着されていた。急に千尋の名を出されて、思わず警戒してしまった。


「千尋? うん、まあ。なんで?」


「そっか。立花君、将棋強いよね。

 俺も祖父に鍛えられてわりと自信あるんだけど、立花君とは五分五分か、もしかしたら負け越しくらいでさ。

 中学の時は週イチのクラブ活動でくらいしか対戦できなかったんだけど、またお手合わせ願えたらなって」


 ええ、お前ら、将棋仲間? 仲良かったの? 

 確かに、千尋は中学の時、部活とは別の、週一回のクラブ活動は、俺の選択した柔道についてくるのを迷って断念して、囲碁将棋クラブだったっけ。バレー部に所属していたというだけで、勝手な思い込みで、山崎を敵視してしまっていた。なんだよ、もう。

 千尋は、将棋、強い。けれども、それは。


「わかった、千尋に話しておくよ。けど、千尋に将棋教えたの、俺なんだよね」


 ドヤ顔でそういうと、山崎は、お、という表情を浮かべた。


「じゃ、戸川君、自信あるクチ?」


「んー、前は千尋より強かったけど、アイツ、凝り性だし、今はどうかな。

ブランクもあるし」


「いいよ、いいよ、駒の動かし方知っているってやつもなかなかいなくてさ。

 昼休みとか、よかったらたまに付き合ってよ」


 それから、社交辞令で終わる事なく、週に一、二度程度、昼休みに山崎と将棋を指すようになった。


 その日も、中庭を見下す渡り廊下の、穏やかな陽の差すベンチで駒を動かしていた。


「ごめーん」


 中庭から校舎に反響して俺の所にも届いた声に見下ろすと、並んで立つ男子生徒たちから、一人、小柄なヤツが走り去るところ。顔ぶれを見れば、うちのクラスのヤツラ。

 バレーのパスをしていて、ミスってボールを弾いてしまった佐倉が、拾いに追いかけて行ったのだろう。

 あいつ、謝ってばっかりだな。思わず苦笑が漏れる。


「楽しそうだねえ。俺もたまに仲間に入れてもらおうかな」


 盤上に視線を落としたまま、山崎が言う。ぱちり。


「部活でもバレーやりまくっていて、昼休みもかよ」


 ぱちり。


「部活とは、なんか違うでしょ。

 スタートは遅れたけれど、バレー部に入ろうって、バレー、やっぱり続けようって思えたの、高城君たちのおかげだし」


「へえ、あいつらの?」


「ん、クラスマッチで。一組、すごく頑張っていたよね」


 山崎が少し考えて、次の駒を動かす。ぱちり。

 悪いな、その手は予想通りだ。ぱちり。


「あ、ちょ、ええ」


 焦った声を上げて長考に入った山崎から、視線を再び窓の外へ移す。

 長身の高城が、慣れた風に軽く、佐倉にパスをすると、ととと、と、必死に追いかけてボールを上げる。千尋の飼い犬のエリーとボール遊びをしている時の様子を思い出してしまう。

 山崎は、視線を落としたまま、まだ考え込んでいる。

 うららかな陽射しに、思わず欠伸が漏れた。春先に雪解け水が流れ出して水車を回すように、コトコトと、何かが動き出す。わだかまりが消えていく。

 二年生になるのも、もうすぐだ。ふいに胸の中がすっと軽くなった。

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