表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/36

P31

 あの投げ文の日から、佐倉とは段々と普通に話すようになっていった。

 元々、どことなく千尋に似たタイプの佐倉とは話やすかったし、物理なんかにも興味があるらしく、話題に困らず楽だった。

 自分のクラスにわだかまりが無くなったのと、香田からも遠まわしに「一組の人たちとも話したら?」って感じに言われたのがあって、二組にはほとんど行かなくなった。

 そういえば。ふと思いついて、会話の途中で佐倉に聞いてみた。


「神崎って、ほとんど一組に来ないな?

 元々五組に仲の良いヤツ、いたっけ」


 佐倉は、ううん、と首を横に振って、にこりとした。


「今いる場所を大事にしよう、って。

 五組にならなきゃ話せなかった人もいるはずだし、せっかく縁があって出会ったんだしね。一期一会、は、ちょっと意味が違うかな。

 クラスが移動したばかりの頃は、お弁当も一人で食べていたみたいだけれど、今は話す人も増えたって」


 あの神崎が、一人で昼飯を?

 それでなくても短い三学期、一組に来て時間をつぶしてしまえば、その方がずっと楽だったはずだ。五組のヤツラに溶け込むために、あえてそれをせずに。

 くっそ、リア充め。格好いいじゃねえか。

 二組の香田の元に逃げるようにしていた俺は、負けたような気がしたけれど、悔しいというよりは、清々しい気分だった。


「戸川君、可愛いペン、使っているんだね」


 ちょっと意外、という佐倉の視線の先には、エリィのシャープペンが置いてあった。普段使いの物は別にあるけれど、最近、ペンケースに入れて持ち歩くようになった。


「しばらく前にやっていたやつだけどね。エリィ、知らない?」


「うん、僕、アニメとか詳しくなくて。あ、早瀬君、エリィって知っている?」


 自分の席の戻ろうとしていたらしく、ちょうど近づいて来た早瀬が、問いかけに、エリィ? と首を傾げて、佐倉が手にしていたペンを見た。ば、ばか、佐倉はまだしも、どことなく大人っぽく、ドライな早瀬に魔法少女アニメの話をするのは。


「名作だね」


 きっぱりと断言した早瀬を、思わずまじまじと見てしまった。


「瀬尾監督の初期の作品としても名高いんだけれど、設定がしっかりしているし、評価の高い作品の話題には必ずといっていいほど出てくる。

 中学の頃よくみていたんだけれど、ちょうど去年の終わり頃、だったかな、急にエリィの事思い出してさ、ネットで動画探してみているうちにまたハマっちゃって。

 この前、春にでるDVDBOX予約したところ」


「え、DVDでるんだ?」


「以前のもののリメイクだけじゃなくて、続編も入っているし、先行予約で、特典が付くし、ね」


 なんだと、エリィの続編が? これはぜひお年玉で、じゃなくて。

 骨髄反射でテンションあがりまくってしまったが、早瀬がエリィに、だけでなく、アニメにも詳しいらしい事が、何よりびっくりだ。

 早瀬にあらすじを説明されていた佐倉が、みてみたい、と言い出した。


「いいよ、DVDが届いたらうちにおいでよ」


「うん、戸川君も早瀬君ち行こう?」


「え、俺、も?」


「早瀬くんのおかあさん、きれいな人なんだよ」


「かあさんはいなくなっちゃったけれど、それでもよければ」


 佐倉の無邪気な様子に、微笑ましげに、ふふ、と笑いながら早瀬がそう続けた。


「そうなの?」


「うん、出て行っちゃったからね、うちに来ても、もういないんだよ」


 そうなんだ、おかあさんはいないんだって、と、にこやかに俺に話を振る佐倉の顔を、思わず愕然と見てしまった。母親が、出ていった、って。そんな、さらっと話すようなことじゃないだろ。何この超絶地雷地獄。佐倉、よくお前平気に笑っているな。


「戸川君もエリィ好きなら、よかったら遊びに来てよ。

 美人のかあさんはいないけれど」


 早瀬も、なんでわざわざさらにダメ押しした? お前、佐倉のリアクションを楽しんでいるだろ? 無理やり曖昧に笑ってその場を濁した。




「なあ、早瀬」


 少し後、佐倉が席を外していた時を見計らって、隣の席の早瀬に声を掛けた。


「あのさ、佐倉って、いつもあんななのか?」


 早瀬は、ふむ、という風にちらりと周囲を窺って、少しだけ俺の方へ顔を近づけた。


「修君を地球人だと思っているのなら、その認識は改めた方がいいかもしれない」


 は? 早瀬は、声のトーンを落として、真顔でさらりと言って、真意を確かめようとする俺を無視して次の授業のノートなどを出し始めた。

 早瀬の表情からは、本気とも冗談とも判別できなかったが、まあ、早瀬にとって佐倉はそういう認識のヤツなのだろう。世の中には変わったヤツがいるもんだ。頭が良すぎるのも考えものだな。内心そう呟きながら、俺も授業の準備をした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ