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P18

 何かが、少しずつずれ始めていた。予兆などもなく、いつの間にか一組の空気は乱れ、雰囲気は荒んでいた。

 いつ頃からだったのか、無理やり探ろうとすれば、文化祭が終わった後からだろうか。例えるなら水の中で撹拌された泥が舞い上がり、ゆっくり沈み始めていた時期。後はビーカーの底に降り積もり、静かに眠るように落ち着くだけのはずだった。

 脈絡なく水の流れが不規則に乱れ、再び重力に逆らって巻き上げられる。今の一組の空気は、まさにそんな感じだった。


 原因は明白だ。神崎。

 文化祭が終わって、クラスのみんながいい思い出として昇華しようとしていた数週間は平穏だった。佐倉が髪を切って来て、大きな台風が来て臨時休校になって。

 その程度の、こっちからすれば、特段なんていう事の無いいくつかの出来事はあった。が、その度に神崎は荒れた。それに一番振り回される形になったのが、委員長の佐倉と、神崎の八つ当たりとも逆切れともつかないイライラをぶつけられ放題の高城。

 授業中の態度も悪く、以前のように真っ当な質問をしたり、きちんと集中したりする事もなく、課題も未提出が続き、教師から叱責されれば不機嫌に無視する。

 一組全体がおろおろとそのやり取りを見守るばかり。休み時間に雑談で笑い合う事すら憚られるような、張りつめた空気が漂う事もしばしば。

 そしてまた、いつもそんな風に不機嫌かというと、へらへら笑って佐倉達とじゃれている時もある。なんなんだ、一体。

 クラスのヤツラのほとんどが、疲れたような表情を浮かべる事が増えた。こんな状態じゃ、落ち着いて勉強に集中できなくなっても何の不思議もない。担任も神崎を呼び出したりと、なんらか対策を講じている風だったが、特に改善が見られぬまま二学期末の実力テストを迎えた。


 結果は、ある意味当然と言えば当然だが、荒れた。

 入学以来トップをキープしていた佐倉が三十二位、当の神崎に至っては二百十八位にまで順位を落とし、当人たちだけでなく、一組の約半数が二組落ち止む無しという結果になった。

 高城と早瀬はあれだけ神崎の近くにいながら、自分の前の連中が成績を落とした分繰り上がる形で順位を上げた。俺はというと、早瀬と似た状況ではあるが、二組の上位だった奴にも、早瀬にも順位を抜かれ、とりあえず少しだけ前へ出た程度の結果だった。

 張り出された順位表の前で、一組のクラスメイト達が昏い、気まずそうな表情で口を結ぶ。

 今さらだけれど、本当に、今さらこんな事を考えてもどうしようもない事だけれど、もし、二学期、一組に香田が残ったままだったら、まるっきり違う雰囲気を作れていたはずだ。

 かなり順位を落としてしまったらしい女子が、同じグループの数人と固まって、どうしよう、と泣きそうな表情で慰め合っていたりする様子は、みているこっちまで胸が痛む。

 す、っと、数歩離れたところに早瀬が立ち、自分の順位を確認したのだろう、小さく拳を握って、よし、という表情を浮かべた。

 早瀬が悪いわけじゃない。けれど、お前が一組に来なければ、お前が、神崎をうまく宥められていれば、一組全体がここまで雰囲気が悪くなる事もなかったんだ。なのに、自分さえよければそれでいいのか? 早瀬の振り向く気配に視線を逸らすと、ヤツは人だかりができている、成績表の下位の方へ移動した。

 そこで、神崎の順位を知るのだろう。神崎は、どう考えても一組残留は絶望的だ。けれど、それは神崎だけじゃない。この後三学期を残すだけという今になって、一体、一組はどうなるのだろう。

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