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脱走

 

 それは、また突然にやってきた。

 「う…」

 またかよっ!?

 ベルファイアはうめき声抑え睡魔に負けないように、床に手を付いた。それでも頭の中はぐらぐらと灰色のマーブル色に染まっていく。まずい!まずい!また丸め込まれるっ!それが嫌で、汚れまくった自身の赤い短髪をかきむしる。…ココへ閉じ込められてから、最近こんな状況に陥る時が結構ある。正直、めちゃくちゃ辛い。コレだけなら良いけど、この後にくるアレが…。

 ほら、来やがったぜ。

 予想通り、この状態で起き続けようとするといつも起こるアレ。堅い何かで叩かれているような痛みが頭に巡る。いや、今度は身体中に上下左右に手加減無しで引っ張られてくるような痛みが走ってる。

 …自分が閉じ込めらて、こんな痛みを耐えられた事なんて一度くらいしか無い。まずやってみるだけ体力のムダ。でも…きっとコレらに耐えられれば何かが手に入れられるハズ。たとえば、ココから逃げ出す情報とか。


 そう思っただけで、何だか今回は絶対に起きようと思った。

ベルファイアは拳を握り締め、爪が肉に食い込ませてた。そうすると何故かその睡魔が少し遠のいた。それと力が入らなくなっている片手を無理やり、空いている手でつねった。…やっぱり痛い。けど、効果は少しあったみたい。

ついでに服の袖で口元と鼻を抑えた、反射的に。まるで、火事で逃げる時なんかでよくやるように。なんで、そうやったのか自分でもよく分からないけれど。まー…だって、灰色の煙が自分達の周りにあるし…きっと、やってて損は無いだろ。


 眉間にシワ寄せて、薄暗い中を必死に探った。ココから逃げ出す情報を、こんな中でも探していた。

「……よし、いいぞ。寝たみたいだぞ」

 あぁ、またこの声だ。前一度起きようとしてた時にも聞こえた声。

 檻の外から、誰かの低いの声が聞こえた。もうムリだ。まただ、また寝てしまう。ここで起きていたら、逃げ出す為の情報が。

 ベルファイアは自分に鞭売って、意識朦朧もうろうとする中、ハッキリと見た。

檻の外にいた者が簡単に、自分が何度も試みた檻の開けた。顔面に刀傷が残る中年男が、誰かを荷物のように担いでココへ放り込まれたのを。その運ばれた誰かも、自分達と同じ金属が付いていたのも。今初めて、全部見た。

 歯軋りをしながら、消え去っていく男達の後ろ姿を見ていた。



 

 気がつけば、俺はどうやら眠っていたらしい。というのも、自分が起きてみると周りもほとんど寝ていた。起きていた少数に、今さっきの光景の事を聞いても、たぶん声は帰ってこない。その少数派ほぼみんな舌を切り落とされている人だから話せない。それに仮に舌が残ってても、この少数派はみんな瞳に光が無く自分を失ってる。

 だから、その人達に話かけてもムダ。他の寝ていた人達もきっと話しかけるだけムダ。

 …なんで舌が無いのか?……言わなくても分かるだろう?察してみて?

脱走しようとしたけど見つかって“罰”として切り取られたそうだ。

今寝ていいる…舌のある人達がその処刑現場を見たって言ってたから。

 自分が倒れていた場所から、近くに先ほど気絶する前に話していた少女が起きて体育座りをしていた。多分、自分と同い年かもしくは年下?う~ん、よく分からん。

「…何だか、上手く丸め込まれている気がする。貴方もそう思わない?いつの間にか、また寝てたわ」

 頷いただけで、先ほど放り込まれた青年を探した。確か…この近くに投げられてた気がする。今回は何か情報を沢山持ってそうな人だったから、今度こそ。

「…ほんとだな。

 はぁ~なぁ卑怯。卑怯だと思わない?」

 俺が聞くと「何が?」と言う感じだけ。どうやら、まだ急に眠たくなるの事が分からないらしい。という事は先ほどの痛みもコイツはまだ知らないのかも知れない。だけど、ココに長くいるにつれ、やがて嫌でも分かるだろう。

 説明、面倒くせ~。

 などと言っても仕方ないので、今まで起きた事や今さっきの事まで詳しく聞かせてやる。舌が無い人達や男達、そして放り込まれた青年。彼女は最後まで聞くと、耳が痛くなる叫び声を上げて黙り込んだ。そりゃあそうだろう。俺だって叫びたいわ。まず、こんな状況で叫ばないのが、おかしい。

「…と、とりあえず今度、その痛み?睡魔?が来た時出来るだけ起きてようよ。そうすれば、きっと今度こそ出て行けるよ」

 まだ怯えている彼女がぼそりと言った。これまた頷いただけで、目線はもう先ほどの青年を探していた。

「ね、ねぇ!わたし、まだ貴方の名前知らないんだけど!!わたしはリア・カナリス!!」

 こんな中で何言うかと思えば、自己紹介。変な奴。

「…ベルファイア。俺の名前はベルファイア・ザナキ」

 リアという名前の彼女は、こんな状況なのに嬉しいに声を上げて笑った。…うわぁ~めちゃくちゃ変な奴。

「…変な奴」

「それはお互い様だと思う。

こんな状況でよく冷静でいられるね、信じられない」

 もういい、反論するの疲れた。

「ベルファイアの髪は赤だから、こんな薄暗い中でもすぐに分かるね!」

「そりゃあ、どうも。俺にとっちゃ、そんなの誉め言葉に聞こえないけどなぁ~。ま~有り難いという事にしておく。ほんとはめちゃくちゃ嫌だけど」

 やっと先ほど放り込まれた青年を見つけた。しかも、檻を触って冷静に檻の外の様子を見ていた。それにしても不思議。こんな状況なのに、冷静でいられる存在なんて、見た事ない。

「ねぇ、あんた誰?なんでココにいんの?ココから出る情報なんか、持ってたりする?」

 呼びかけても、青年は少年の言葉を無視して、ただ外を見つめているだけ。やっぱりムダだったか。諦めてリアと脱走について話し合おうとした時、青年が「お前らもココから出たいか?」と言い出した。そんなの出たいさ、出たいに決まってる。そう俺が言うと、ただ「そうか」と一言言って黙り込んだ。しばらくして青年は周りを見渡しながら、器用に檻登りして天井まで行ってしまった。見上げると、真っ暗闇で彼がどこにいるのかすら分からない。

「……なにあの人…」

 後ろにリアがぼそりとつぶやいた。知らねーよ、聞いてこいよ。

 あれから結構時間が経って、天井の方から「ガキンッ」というド派手な音がした。その瞬間、さっきの青年が天井から降ってきた。幸い、見回しにきていないからラッキーだな。じゃなくて一応、手当て手当て。痛そうな音した割にはピンピンしてるけど。

 いきなりリアが俺をバシバシと叩いてきたので、驚いて青年のケガしている足を思い切り踏んでしまった。

「な、なんか、開いた!」

 開いたぁ?何が?青年に平謝りして振り返って、檻を見た。

 あんなに頑丈だった檻が、砂のように消えていく。

「行け!!これで全員の鎖は取れるし!」

 青年がそう叫んで、自分の肩に冷たくて固い物がぶち当たった。急いでそれを捕まえて、リアを連れて檻の外へ走りだした。今度こそ、外へ逃げ出せる気がした。








 一方、その檻の外。

 船の個室。

 たった今、自分を慕ってくれる仲間が捕らわれていた人達が檻から逃げたと教えてくれた。それそれで良かったと個人的に本当に思う。  

「マナカさん!!ど、どないしましょう!!」

 マナカと呼ばれた女性は怯えている仲間の肩をなだめてから、美しい蜂蜜色のウェーブかかった髪を麻紐で1つにまとめた。 

「捕らわれていた人達は逃げたなら良いわ。私もそうなれば良いと願ってたから。そんな事より、つい数時間前、私の弟が養父親に逆らって捕らわれていた人達を解放しようとしたのがバレて処罰待ち。それから弟はどうなったの?」

 仲間の問いなど無視して、マナカは鏡を見て化粧を顔に施している。 

「で、ですが…」

そんな様子に焦ってきた仲間達は激しく動揺しているのを、マナカはただじっと横目で伺っていた。

「いいから、コッチが先!!今は、解放しようと人達と一緒にいるハズ。誰か、ちゃんと鍵渡してくれたわよね?脱走用のと金具を取る用の奴どちらも」

「は、はぁい!!わ、渡しました!!あたいらはマナカさんの仲間であって、フック船長の仲間ではないので彼の言う事なんか聞きません!!」

「俺も!」

「私もよ!」

 マナカは人差し指で桃色のルージュをサッと唇につけ、張しっぱなしの仲間を見渡した。

「そうね。あなた達は私の仲間。

でもね私たち姉弟の養父親…つまりフック船長。フック船長は今、この船の長。そんな事言うだけでも命取りなのに……なんで私に従ってくれるのかしら…?」

 マナカは嬉しさと悲しさが合わさったような表情でうつむいた。

「でも、付いてきてくれて嬉しいわ。ありがとね」

 彼女が笑顔でそう呟くと、仲間達全員も心底嬉しそうに微笑んだ。

「フック船長は間違ってるし、私は彼の娘としてやるべき事をします。もう、私は黙ってるなんていう行為なんか出来ないわ。私がとしても、私は私の良心に従うだけ。私の弟もそうしたのだから。

 誰かに養父親の言う通り、弟は悪い事した事をしたのかも知れない。でも実際、一番悪い事をしているのは養父親の方よ!!私は知ってる。養父親は、人を物のように、売っている奴隷商人じみた事をしているのを見ているし知っていた。でも、どうすることも出来ず、黙ってきた。私たち姉弟は養子だし、まだ子供だったから。だけど私たちはもう大人。子供じゃない。下手な言い訳はもう通用しない!!」

 マナカはそこまで叫んで、羽織っていたマントを脱ぎ、椅子にかけていた黒コートを着た。

 右肩下から普通あるハズの腕は、彼女にはもう無い。

左手でかつて右腕があった場所を、腕を通す事のできない衣服の袖を、癖でいつの間にか優しく撫でていた。撫でてたっても、もう何にも無いのに。そんなマナカの様子を仲間達を悲しそうに見上げていた事を、マナカは知っていたがどうする事も出来なかった。

「お前達にお願いがあるわ。私達は法で処刑されるかも知れない。だけど…それでも。

………それでも、私と一緒にいてくれますか?」

 まだ17になった娘マナカは少し震えながら問いかけた。もちろん異論無しで、一同頷いた。それを見て、マナカは片腕で自分の剣を取り出して、空に突き上げた。


「…弟と捕らわれた人達を港に解放します。

そして、父を法廷に出します。

ナギサ、あなたは弟の仲間達と共にフック船長とその仲間を確保してください。…頼みましたよ?」



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