パパ行方不明 1
あと数時間しかない。もう時間が無い。早く外へ逃げないと。時計の針が回りきれば、もう明日だ。明日になる前にココから出なければ。わたしは見に付けている鍵をギュッと握り締めた。
始まりはカルミア町だ。パパがとつぜん行方不明になった、あの夜にすべては始まったんだ。
*…*…*…*…*
わたしの名前はリア・カナリス。こないだ16才になったばかり。
10才の頃からパパと2人で暮らしている。生まれは都市生まれだけど、パパの仕事の関係で色んな所を引っ越ししてた。わたしはパパがどんな仕事をしているのか、ずっと知らなかった。だって教えてくれないんだもん。でも、パパが仕事に行く時の格好をいつも見てたから、何となくパパがどんな仕事をしているのか分かってるつもりだった。パパが仕事に行く時の格好は決まって、鉄臭い油の付きまくったつなぎ姿。たぶん、機械を扱ってるんだろうね。そんなの別に秘密にしてなくても良いのにね。パパに秘密にしてたけたけど、わたしね、こう見えて結構機械いじり好きなの。だから、パパが機械いじりしてる所を付いていって、どんな仕事してるのか知りたいの。「俺の事なんてどうでも良い。お前はポップダンスでもしてろ」って言うのが、パパの口ぐせだった。
ルールその1。パパがやっている仕事を探らない。これは、何があっても絶対なんだ。そのルールを、わたしは破った事がなかった。パパがとつぜん行方不明になったというニュースが流れるまでは。
行方不明になったのは、3月14日だ。その日も、わたしはいつも通り、パパがくれた変わった鍵を見に付け、壁に掛けてあるママの写真を見上げた。ママが亡くなって、わたしはパパがいつも1人でママの写真を見てるのをこっそり見ていた。
でも、その日は変な事にパパはママの写真立ての前に一枚の白い封筒を置いたんだ。中身を見たかったけど、頑丈にノリが付いてて開けられなかった。
その日を境に、パパは消えた。家族のわたしを置いて。あれから、一週間。1人でも生活できるから、何の苦労もなかった。けど、家族がいないのはつらい。ひとまず、パパのお姉さん…おばさんの家に電話しよう。そうすれば、きっと何か分かるハズだもん。でも、おばさん…家にいるのかな…。
そう思いながら今、電話の前に立ってる。かけようか、かけまいか、悩んでいる時にいきなり電話が鳴ったからビックリした。パパ?そう思って楽しみで取ったのに、パパじゃなかった。こっちが落ち込んでるのに、電話の人はお構いなしにこう話してきたんだ。
『………これは鍵に選ばれし者に継ぐ。これを聞いているという事は君の身にもすでに危険が迫っているという事だ。時間が無い、これの在り方へ行け。これを持って、市立図書館へ行け。
金の光を浴びる獣。
その獣の赤い瞳は真実を宿す
瞳は東を天を見上げ
瞳が解放された時
真実への道は開かれる
これを持って市立図書館へ、早く
闇がすべてを暗くする前に』
そこで電話はブチリと切れた。慌てて履歴を探して見ると、今の電話の番号が載っていなかった。イタズラかと疑ったけど、不意に脳裏にパパの顔がよぎった。…もしかしたら…。そう考えた瞬間、わたしはスニーカーを履いて外に飛び出していた。