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花守人  作者: 惠元美羽
第一章~再会編~
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帳尻合わせの恋心

「そもそも、自分の気持ちが分からない」

「……いきなり何を言い出すんですか、あなたは」

「これは恋なんだろうか?」

「真顔でそんな事言うの止めてもらえますか。あらぬ疑いを向けられるので」


珍しく假屋から放課後に誘われたかと思えば、これだ。次郎は疲れた様子で溜息を吐いた。場所はいつものファストフード店。目の前には困惑顔をした前世からの友人。いったいどんな状況だ、と他人事のように笑い飛ばしたくなった。

姉と假屋が友人として仲良くなるのはとても喜ばしい。次郎自身が望んでいたことであり、そうなるように動いてきたつもりだ。けれども、こんなにめんどくさい事になるなんて完全に予想外である。


「とりあえず、順番に話して下さいね」


それでもどうしたって投げ出すつもりになれないのだから、己も損な性格をしているものだなと次郎は自嘲気味に笑った。




「……要は姉さんと友人関係になったは良いが、向けてる気持ちが友人に対するものではない、と?」

「ああ」

「かと言って恋愛感情かと問えばそうだとはハッキリ言えず、過去と重ねてしまってる気がしてモヤモヤしている、と」

「そうなんだよ……」


次郎の言葉に、假屋の眉が下がって情けない顔になった。

假屋の話を整理してみたは良いが、はっきり言ってめんどくさい。だからつい、本音が漏れた。


「馬鹿ですか」

「ば、馬鹿ってなんだよ⁈こっちは本気で悩んでるんだぞ⁈」

「だから馬鹿だって言ってるんですよ」


次郎の言葉に、假屋は本気で怪訝そうな顔になる。

どうして、こんなに簡単な事が分からないのだろうか。


「忘れてしまえばいい」

「え?」

「昔の事なんて、もう忘れてしまえばいいんです。だって、姉さんは憶えていない」

「次郎……」

「思い出させたいんですか?姉さんにあの頃の事を。憶えていて欲しかった?」

「止めろ」

「俺は絶対に嫌です。あんな事を思い出させたくない。もう二度と、あんな思いをさせるのは御免だ」

「もういい、止めろ次郎!」


假屋の鋭い声音に次郎がようやく口を閉ざす。


「……なんて表情かおしてんだよ」

「そっちこそ」


二人、顔を見合わせて苦笑した。

どうやらお互いに酷い顔つきをしていたらしい。過去の記憶に傷付いているのは、二人共同じだったのだと、気づいた。


「あーもう!止めだ、止め!俺、頭悪いから考えたってわかんねぇよ!」


焦れたように腕を振り上げて、假屋は声を上げた。あれこれ考えるのはもう止めよう。そんなのはどうも性に合わない。

ひとつ、呼吸をして次郎を見据える。


「やっぱり、俺は過去のあの人の事が好きだ。あの頃の俺はあの人の事を愛していたし、今の俺も好意を持っているのは否定しない。けど、高遠とあの人は違うとちゃんと分かってる。魂は同じでも、やっぱり過去と今とじゃ全く違う。それは俺も、お前も同じだから。だから、ちゃんと分かるよ。……それでも、俺は今の高遠の事も大切に思ってる。どう言ったらいいか分からないけど、友達になる前と今とじゃ、違う感情なんだ。守りたいって、笑っていて欲しいとそう思うんだ」


話している内に、なんだかスッキリしてきた。

なんだ、俺はちゃんと高遠とあの人を別人と認識しているじゃないか。それが分かって、假屋は内心でひどく安堵した。


「だから、側にいると決めた。もう後悔なんてしたくないからな」


友人としてでも何でもいい。彼女が許す限り、その側で生きよう。


「これが恋かどうかなんて、初めから考える必要も無かったみたいだ」


あー、スッキリした!と清々しい笑顔を見せた假屋に、次郎は大きな溜め息を吐いてみせた。


「假屋さんと友人になってから、姉さんは毎日楽しそうです。いろいろ思うところはあるけど、正直なところ、俺は姉さんが笑って過ごしてくれるだけで構わないんですよ。假屋さんの姉さんに対するその気持ちが恋心であったとしても、構わない」

「そうか」

「……けれど!」


次郎は假屋の胸倉を掴んで、真正面から睨みつけた。


「もし泣かせるような事があれば俺は許さぬぞ、亜稀」

「御意」


低く唸るように告げられた言葉に、主であった頃の面影と気迫をひしひしと感じながら、假屋は静かに首肯した。

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