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花守人  作者: 惠元美羽
第一章~再会編~
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友達になりました

あの雨の夜から、数日が経って。

假屋が高遠朔という少女と友人関係になってから知った事が幾つかある。


「假屋くん、お待たせ!」

「お疲れ。じゃあ、帰るか」

「今日は比較的早く終わったねー。いつもこうだったら良いのに」

「でも、楽しいんだろう?」

「うん、汗だくになっちゃうけどね」


そう言って笑う朔からは仄かに制汗剤の匂いがした。意外な事に、彼女は運動部である女子バレー部に所属している。どちらかというと華奢な体型であり、色白な肌。文化部だろうと勝手に思い込んでいたため、初めて知った時にはとても驚いた。ついでに彼女の帰宅時間の遅さにも驚いて、次郎に詰め寄ったのはまだ記憶に新しい。


「それにしても、毎日待っててくれなくても良いんだよ?」

「俺が勝手にしてることだから」


過保護だと、笑いたければ笑え。

彼氏面するわけじゃないが、暗い帰り道でもしも何かあったらと思うと心配で。

考えるよりもまずは行動、という事でこうして一緒に帰るようになった次第である。


「今日は何してたの?」

「あー、図書室で調べ物してた」

「また?」

「気になる事があってさ」

「そっか、勉強熱心だねぇ」


そう言って朔は感心したように笑った。


「私は勉強ってどうも苦手で、ついつい部活に逃げちゃうんだよね。帰っても勉強しないで寝ちゃう事の方が多いし」

「それだけ体力使ってるんだから仕方ないだろ。無理して体調崩すより、そっちの方が良い。……高遠はよく無理をするから、見てるこっちが心配になるよ」

「假屋くんは心配性だね」


それは貴女に対してだけだ。

内心で假屋はそう呟く。朔は知らないのだ。假屋にとって、己と他者にどれだけの違いがあるのかを。当事者であるが故に、これからもきっと知ることは無い。



これまで、假屋亜稀という男が他人に対して感心を持つ事は殆どといって良い程無かった。それは前世の記憶があるために、ある意味人生を達観してしまっている事も要因のひとつにあたるが、何よりも彼の魂が絶望を知ってしまっている事にある。


『嘘だ、違う……そんなはずはない!あの人が、……咲耶様がどうして死ななければならない‼』


大切な人の喪失という体験が、假屋にとっての大きな傷だった。過去に一度死んで後、生まれ変わっても記憶という名の未練を遺すほどに。


……あの日の慟哭を、彼女は知らない。



「ねぇ、そういえばもうすぐ学外研修だね」


朔の声に、思考の内に沈んでいた假屋ははたと我にかえった。そういえば、ホームルームの時間に担任がそんな話をしていたような気がする。たしか、


「一泊二日だったか」

「ちがうよ、二泊三日。夏の勉強合宿も兼ねてるって言ってたから」

「……てことは一日はホテルに缶詰めって事だな」

「うん、多分ね」


思わず苦笑を漏らす朔に、假屋は溜息を吐いた。考えただけでも気が重い。勉強が大事なのは分かる、分かるがやっぱり苦手だ。座学に励むよりも体を動かす方が好ましい。


「まあ、でも今回は一日は外で自由に動き回れるしまだ良いんじゃないかな?去年はずっと軟禁状態だったらしいよ」

「そうか……で、何処に行くって?」

「県境の山奥だって」

「……それさ、自由行動あって何か意味ある?」

「無いね。うん」


イジメか何かか、これは。

山奥のホテルなんて陸の孤島に同じである。そんな場所で一日自由行動の時間を作られたところで、生徒に何のメリットが発生するのか是非教えて頂きたい。結局のところは軟禁と同じだ。せっかくの自由を森が容易に阻む事が想像できる。


「あ、でもそんなに町中から離れては無いみたいだよ。地理の先生が、なかなか風情のある下町があるから観光出来るって喜んでたし」

「へえ、それなら良いな」

「ねえ、もしそれが本当だったら一緒に回ろう?」

「……おう」

「やったー。じゃ、約束ね」


何でもない風を装って答えてみたものの、假屋の内心はかなり動揺していた。

自由行動を一緒に過ごす相手として選んでくれた事が嬉しい。嬉しいけど、本当に良かったのだろうか。他の友達とではなくて良かったのだろうか。我ながら女々しいとは思う。思うが、彼女はどうして俺なんかを誘ってくれたのだろうか?


「なんだかちょっと楽しみだね」


けれどもそう言って笑う朔に、假屋は何も聞く事が出来なかった。


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