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花守人  作者: 惠元美羽
第一章~再会編~
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俄かに色めき立つ夜

「次郎……、次郎ッ!ちょっと居ないの⁈」


乱暴に玄関のドアが開く音がしたかと思えば、酷く焦った様子の姉の声が響いて、次郎は慌てて玄関へ走った。そして目にした光景に一瞬、声を失う。


「假屋さん⁈」


姉の肩を借りて立つ假屋の姿はずぶ濡れで、血と泥に塗れていた。


「ちょ、どうしたんですか⁉」

「いいから早くタオル‼救急箱もついでに持って来て!」

「わ、分かった!」


姉に一喝されて走っていく次郎の姿を見ながら、假屋は遠慮がちに声を上げた。


「あのさ、俺は大丈夫だから」

「足引き摺って歩くような人が何を言ってるのよ。いいから、ここに座って」

「……ハイ」


やばい、怖い。

有無を言わさぬ声に逆らう事など出来る筈も無くて、促されるまま玄関の上り口に腰を下ろした。ジワリと床に水が広がる様子に、罪悪が芽生える。


「とりあえず、上着脱いで」

「へ?」

「そんな濡れたままの着てたら風邪ひいちゃう」

「いや、平気……」

「見てるこっちが平気じゃないのよ。脱いで、ほら早く」

「分かった!分かったから、引っ張らないでくれ」


ぐいぐいと服を引っ張る彼女を必死で制して、濡れたシャツを脱ぐ。途端に彼女が息を飲んだ。


「……痣が、」

「こんなの怪我の内には入らないって」

「痛くないの?」

「慣れてるから、別に」

「……嘘つき」


そう言って彼女は目を伏せた。

不意に訪れた沈黙を持て余していると、次郎がタオルを手に戻ってきた。


「はいこれ!姉さんも假屋さんも早く体拭いて……って、なんで假屋さん脱いでるんですか⁉」


ぎょっとしたように假屋を見る次郎の目は訝し気で。


「……おまえ、なんか誤解してないか」


疚しい気持ちなんて無いぞ、と目で訴えてみる。このシスコンめ。


「私が脱がせたのよ」

「姉さん⁈」

「濡れた服なんていつまでも着てたら風邪ひくでしょうが!早くタオル寄越しなさい‼」


彼女はそう怒鳴ると、次郎の手からタオルをひったくるように奪って假屋に押し付けた。


「ごめんね、馬鹿で」

「いや、ありがとう」


借りたタオルで体を拭いながら、苦笑する。


「俺はもう大丈夫だから、着替えてきた方が良い」

「え?」

「女の子が身体を冷やしては駄目だろう?」


途端、彼女の顔が赤く染まった。


「……っ、」

「大丈夫か?なんか顔が」

「だ、大丈夫。えーっと、私も着替えてくる!次郎、後はお願いね!」


慌てたようにそう言うと、彼女はタオルを片手にその場を急ぎ足で離れた。その背中を半ば呆然と見送る。


「……俺、なんかしたかな?」

「無自覚ですか」


次郎の視線は相変わらず痛かった。

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