猫の楽園
或る所に、猫好きのお姫様が居ました。そのお姫様は大層我儘で、王様もお妃様もほとほと手を焼いていました。ほら、つい最近だって、
「セバス! セバスは何処!」
「はい、此方に」
「注文していた子猫はまだ届かないの!」
「商会からは、馬車が壊れたので三日ほど遅れるとの連絡がありましたが」
「本当に使えない店ね! 私がどれだけ猫が好きなのか分かっていないのかしら! 一日よ、あと一日だけ待つわ。遅れたら、どうなるのか幾ら教養のない馬鹿達でも分かるわよね? そう伝えときなさい」
「分かりました」
ね、我儘でしょう? そんなお姫様だから、周りがどう思っているのか、知りませんし知ろうともしません。巷で有名な“我儘姫”は、今日も今日とてとても我儘でした。
「あのね、セバス。“猫の楽園”って知っているかしら?」
「嗚呼、確か西の果てにそのような場所があるとか……」
「知っているのなら話は早いわ。私、そこに行きたいの!」
「しかし、姫様。何処にあるのかも分からないのですよ?」
「なんだ、そんなこと。そんなの、民にでも探させれば、良いじゃない」
「はあ……」
「じゃあ、宜しく頼んだわよ」
「ははあ……」
さて、困ったのは執事のセバスチャンです。幾らお姫様の命令でも、王様に許可を取らなくては、大々的なことは出来ません。
(どうしたものでしょうか……)
とにもかくにも、一人では判断がつかなかったセバスチャンは王様に相談することにしました。
コンコン
「入れ」
「失礼します。セバスチャンです」
「おおう、セバスか。用は何だ? また、娘が何かやらかしたか」
「いえ、まだ何も」
「そうか。だが、“まだ”ということは、何かしら企んでいるのだな?」
「企んでいますといいますか、なんといいますか……」
「ほう、珍しく歯切れが悪いな。一体、娘は何を言ったのだ?」
「その……“猫の楽園”に行きたい、と……」
「はっはっはっ、あれはただの絵空事だろう。娘の猫好きもそこまで来ていたか! はっはっはっ」
「笑い事じゃありませんよ。民を使ってでも、見つけ出せとおっしゃられていて……」
「いや、しかし、これは良い機会かもしれん」
「と、言いますと?」
「……これが…ああしてだな……」
「……はあ、なるほど……」
――数日後
セバスチャンは王宮の廊下を走っていました。今すぐ、お姫様に伝えなければならないことがあるのです。
「姫様」
「あら、セバス。どうしたのかしら、そんなに急いで」
「“猫の楽園”を発見致しました」
「本当!? 今すぐ行くわ!」
「その前にこれをお付け下さいませ」
「これは?」
「猫耳で御座います。これを付けることによって、猫達と意思の疎通を図ることが出来るのです」
「優れものじゃない! こんなものがあるのなら何故もっと早くに用意しなかったの!」
「つい、先ほど開発されたばかりなのです。馬車の用意は出来ております。さあ、どうぞ猫耳をお付け下さいませ」
「こ、これでいいのかしら」
「姫様、大変お似合いで御座います」
「そ、そう?」
「はい、とても。では、馬車が待っていますので」
「ええ、分かったわ」
西に向かって馬車に揺られること、数時間。何故か(・)“100m先、猫の楽園”と書かれた立札を見つけた、お姫様。
「セバス、私にはおかしな立札が見えたのだけれど……これは幻覚よね?」
「いいえ、幻覚では御座いません。まもなく到着致します」
「“猫の楽園”って、あんなに大々的に公開しているものだったかしら」
「姫様が知らないだけで、実は一般公開されていたのですよ」
「そう……なんだ。いや、待って可笑しいわ! “猫の楽園”って、西の果てにあるのでしょう?」
「そうですね」
「そうですねって、貴方……」
「姫様が思っているよりも、ずっと世界は狭いのですよ」
「……まあ、いいわ。この際、本当かどうかなんて、どうでもいいわ! 何故なら、猫達が私を待っているにゃ!」
「そうですね。嗚呼、ほら到着したようですよ」
「……人がまるでいにゃいのだけれど」
「王家で貸し切りにしましたので」
「そういうこと、なら思いっきりはしゃげるわね」
「はい、私どもはしばらく離れますので、存分に楽しんでくださいませ」
「そうさせてもらうにゃ」
猫と戯れるお姫様を尻目に、セバスチャン達は“猫の楽園”から去っていきました。
それから数年後、王宮の皆は、お姫様のことを、王様や王妃様でさえ忘れ去っていました。そんな中、一人の兵士が王宮の前で倒れている一匹の猫を見つけました。おかしなことに、その猫はドレスを着ていたとか。
終
一応誕プレ用。
どうして、こうなったのでしょうww
あげましたけどw