伊達メガネ!?
美波の親友、優の好きな人の紹介内容です。
バイトが始まり、私と優は交代で平日は夕方4時から8時まで、土日は必要に応じて勤務することになった。放課後部活は大丈夫?と思うかもしれないが、私と優は書道部に属しているため、各自のペースで進めている部活なので、出展作品を期日までに仕上げてさえいれば、特に問題はなかった。
それから、2週間が過ぎようとしていた。
私の仕事は、専ら皿洗いと簡単なデザート作り(ココアを温めて生クリームを盛る等)裏方メインだった。このお店『カフェ・バーグ』は、私のような裏方仕事から始まり、次は料理(手作り)、最後はレジ(接客)といった順番に仕事を覚える。そうすれば接客の時、何を聞かれても答えられるという考え方のようだ。私にいきなり接客は、ハードルが高いので好都合だった。
デザートを作る作業スペースからは、よくレジ周辺が見える。そのレジに立つのが、優の好きな人 天野 隼 さんだ。隼さんは店長から信頼されているお店のリーダー的存在だった。私と優の教育係でもある。優、一歩前進してほんとに良かったね!と思わずにはいられなかった。
ところでだが、隼さんのことで少しわかったことがある。彼は休憩中はメガネを外すのだ。Why?と思い、一度聞いてみたところ「お店の雰囲気を壊さないようにする為。」と返ってきた。いわゆる伊達メガネというやつなのだ。本人も童顔だという事をわかっているのだろう。メガネをかけた隼さんは、それなりに年相応に見えた。店の雰囲気通りオシャレな感じのイケメンにも見える。仕事モードの隼さんなのだ。
(やはり私は裏方が合ってるわ。)
と考えていたとき――
「天野くーん。」
OLらしき女性が店にやってきた。どうやら隼さん目当ての客のようだ。
「いらっしゃいませ。今日はいかが致しましょう須藤様。」
私は、どこぞの執事喫茶かここは!!と思ってしまった。
私が固まっていると、隣の厨房の同じアルバイト仲間の大西 優衣さんから
「常連さんなのよ。」
と耳打ちされた。さらに
「彼、ホスト隼って呼ばれてるの。」
と、にっこり微笑まれて教えられた。
……大丈夫なのか優!?――――私はおもいっきり不安になった。
「美波ちゃん。」
「?」
「ちょっと混んできて手が回らないから、これ3番テーブルまで持って行ってくれるかい。」
そう言われ、隼さんからホットコーヒーとサンドイッチを手渡された。いつの間にこんなに混んでいたのだろう。
私にも運んで行く位はできるだろう。と思い
「了解です。」
と答えた。
「彼、パソコン扱ってるから溢さないように注意して。」
さすが隼さんだ。お客様をよく見てる。
「わかりました。気をつけます。」
美波は緊張した面持ちで、ホットコーヒーとサンドイッチを乗せたトレイを持ち客席へと急いだ。
(トレイから落としてもダメ。お客様のテーブルに置く時、溢してもダメ。気をつけないと……。)
3番テーブルはカウンターから3列目の席だ。客席は満席、人にぶつからないように歩かないといけない。と思いきや足が縺れる。
(やばい!!)
「おっと!」
運よくトレイを支えてもらえた。相手は3番テーブルのお客様だった。
「すっすみません。」
「どういたしまして。」
相手はビジネスマン風のスーツをきっちり着こなした大人の会社員ぽかった。
「すみません。パソコンを使っているのに危なく溢す所でした。」
「……もともと飲食店でパソコン使ってる方が悪い。だから気にしなくていいよ。」
そう言うと彼はパソコンをパチンとしまった。
それにしても、なんて包容力のある言葉だろう。大人の人だ。
「見かけない顔だね。新人さんかな?」
テーブルを片付けると、彼は美波のトレイからコーヒーとサンドイッチを受け取った。
「はい。二週間になります。」
「そうか。まだまだ覚えたてだね。頑張って。」
「ありがとうございます。」
彼は、ゆっくりとコーヒーカップを口に運ぶ、その仕草が大人の雰囲気をより引き立たせた。
素敵な人だな。さぞやもてるだろうな。そう美波に思わせた。
「お疲れー。」
更衣室手前のロッカールーム。隼さんも今日はあがりのようだ。先に着替えた様子。
「はぁ。今日は、疲れました。」
「はは、コーヒー溢しそうになったからか。」
「あ、見てたんですね!」
「そりゃね。教育係なんで。」
やっぱり。隼さんは良い先輩だなあ。
「私、隼さんのように接客できるようになれるでしょうか?」
「慣れだよ。慣れ。ま、俺の場合、楽しんで仕事している部分もあるけどね。」
そう言ってメガネを外した。
やっぱり、かわいい顔。
クスッと隼さんが笑う?
「見とれないでね?」
「!?」
「俺、顔はかわいいからさ。」
「!!!!!!」
…………な、なんて自意識過剰――。そしてお客様の時とは明らかに違う態度。二重人格!?
「明後日もよろしくな。」
そう言って出て行った。
「…………。」
隼さんっていったい……。
短期間しか見てないからわからないけど、とても面倒見がいいし、後輩思いだし、いっぱいいいところあると思う。でも気になるのは、優は、あんなホスト隼?さんになっている時の隼さんを好きになったのだろうか?それとも本性を知ってるのだろうか?わからない……。
……やっぱり、優。大丈夫かなあ。――――美波はおもいっきり不安になった。今日、二度目である。
――――To be continued
読んでいただきありがとうございます。
少しずつですが、他キャラクター登場しています!