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第二十四話 炎の記憶

 樟葉の地で、ついに三軍が合流を果たした。


 東から来た五瀬軍、北から来た出雲・邪馬台国連合軍、そして西から来た吉備・邪馬台国連合軍。


 途中で、多くの兵が加わり今や総勢一万を超える大軍となった。


 あとは葛城の降伏使節の到着を待つばかりだ。


 「兄上!」


 イワレビコが五瀬のもとへ駆け寄った。


 「イワレビコ、無事だったか」


 五瀬が弟を抱きしめようとした、その瞬間。


 イワレビコの表情が、微妙に歪んだ。


 一瞬の違和感。

 だが、すぐに元の無表情に戻った。


 「お久しぶりです、兄上」


 「ああ、元気そうで何よりだ」


 五瀬は満面の笑みを浮かべていた。


 「ニギ、よくやってくれた。お前のおかげで、これだけの援軍を得ることができた」


 「いいえ、今回はイワレビコ殿の活躍があったればこそでした」


 「初めてきた土地なのに、昔から住んでいたかのように、


 どこに何があり、どのように攻めるのが効果的なのかを、


 全て知り尽くして、指揮をしておられました」


 「兄弟とも素晴らしく強いでね」


 「そうか、イワレビコ、すごいな」


 五瀬命は心から嬉しそうに言ったが、イワレビコは照れたのか

 少し困った顔をして


 「今回は、たまたま運が良かったのと、ニギ殿の、勾玉のおかげです」


 と答えていた。


 「私も、五瀬殿のご期待に応えられて、何よりです」


 と、しばらく会わなかった五瀬との再会を喜んでいた。


 夕方には吉備・邪馬台国連合軍も合流して、

 明日には葛城の降伏使節が来ることとなった。


 ついに、勝利が目前に迫っている。


 その夜、勝利を祝う宴が開かれた。


 「明日には、葛城の使者が来る」


 スサノオが豪快に笑った。


 「あっけない幕切れだったな」


 「戦わずして勝つ。これが最善です」


 五瀬が応じた。


 「無駄な血を流す必要はない」


 台与も頷いた。


 「新しい国づくりが、いよいよ始まるのですね」


 宴は盛り上がっていた。

 皆、希望に満ちていた。


 宴も半ば、イワレビコが台与と話し合っていた、

 そのまま二人は、立ち去っていった。


 しばらくすると、イワレビコは戻ってきたが、五瀬と少し話すと、

 五瀬は血相を変えて飛び出して行った。その後にイワレビコも続いた。


 イワレビコが五瀬に告げた言葉は

 「葛城ことで急ぎ、兄上と話がしたい」

 「葛城使者がこっそりと来ているので、

 誰にも気づかれぬように来て欲しいと」


 「わかった。すぐ行く」と駆け出したのであった。

 

 「イワレビコ。どこだ。台与様はどこにいる」


 その時、後ろから一刺し、

 「うっ。なんだ?」

 「イワレビコ。お前が、俺を刺したのか?」


 「イワレビコ、どうした?」


 「……兄上」


 イワレビコが口を開いた。


 「一つ、聞きたいことがあります」


 「何だ?」


 「兄上は、前世の記憶をお持ちですか?」


 五瀬の表情が、わずかに強張った。


 「……なぜ、そんなことを」


 「答えてください」


 イワレビコの声は、静かだが有無を言わせぬ響きがあった。


 五瀬は深く息を吸った。


 「ああ、持っている」


 「やはり、そうでしたか」


 イワレビコが立ち上がった。


 「では、もう一つ質問があります」


 「何だ?」


 「兄上の前世の名は?」


 五瀬は一瞬躊躇した。

 そして、静かに答えた。


 「織田信長」


 織田信長。

 その名を知る者は、この時代にはいないはずだ。


 いや、一人を除いては。


 「そうですか」


 イワレビコの口元に、初めて笑みが浮かんだ。

 それは、悲しみと憎しみが入り混じった、歪んだ笑みだった。


 「では、私の名を当ててみてください」


 「お前の……名?」


 五瀬が困惑した。


 「私の前世の名です」


 その瞬間、五瀬の顔から血の気が引いた。


 「まさか……」


 「そう、まさかです」


 「明智光秀。それが私の前世の名です」


 「イワレビコ……いや、光秀」


 五瀬の声は震えていた。


 「まさか光秀だったのか」


 「あなたは私を使い捨てた。そして最後には、謀反人の汚名を着せた」


 「それは……」


 「違うと言うのですか?」


 「私は、ずっと機会を待っていた」

 「邪馬台国から、ずっと」


 「光秀」


 五瀬が静かに言った。


 「確かに、前世では酷いことをした」


 「今更……」


 「だが、今は違う」


 五瀬の剣は刺さったままだ。


 「今世では、皆で新しい国を作ろうとしている。憎しみではなく、希望の国を」


 「綺麗事を」


 イワレビコが吐き捨てた。


 「あなたは変わっていない。相変わらず、自分の理想のために他人を使う」


 私が叫んだ。


 「あなたは人を魅了し、使い、最後には捨てる」


 「違う!」


 五瀬が叫んだ。


 「私は変わりたかった! 前世の過ちを繰り返すつもりはない!」


 「信じられるものか」


 「だが……」


 その声に、一瞬迷いが混じった。


 「確かに、少しは変わったのかもしれない」


 「なら……」


 「だからこそ、許せない」


 イワレビコの瞳に、涙が光った。


 「なぜ前世で、そうできなかった?」

 「なぜ私を信じてくれなかった?」


 「光秀……」


 「もう遅い」


 「前世の決着を、つけさせてもらう」


 五瀬は、剣を体から抜いた。

 血が吹き出してきた。


 「なぜだ、光秀!」


 五瀬が叫んだ。


 「今世では、共に歩めるはずだ!」


 「もう、無理なのです」


 イワレビコが答えた。


 「私の中の憎しみは、消えない」


 「兄上!」


 五瀬が膝をついた。

 血が、地面を赤く染めていく。


 「光秀……」


 五瀬が血を吐きながら言った。


 「すまなかった……前世では、本当に……」


 イワレビコの手が震えていた。


 「これは、お前の……苦しみを思えば……当然の報いだ」


 五瀬が苦笑した。


 「だが……頼む……」


 「何を」


 「この国を……皆を……頼む」


 五瀬の手が、イワレビコの手を握った。


 「お前なら……できる……」


 「兄上……」


 イワレビコの瞳から、涙がこぼれた。


 「私は……私は……」


 「いいんだ……」


 五瀬が微笑んだ。


 「これで……やっと……対等になれた……」


 「仲間として……共に……」


 そのまま、五瀬は息を引き取った。


 満足そうな、安らかな表情だった。


 「うわああああ!」


 イワレビコが慟哭した。

 剣を投げ捨て、五瀬の亡骸を抱きしめた。


 「なぜだ! なぜ俺は殺した!」

 「憎んでもいた! 殺すつもりでもいた!」

 「でも……でも……」


 前世の因縁。

 本能寺の変の再現なのか。


 だが、結末は違うのか。


 「兄上の……遺志を継ぐ」


 「新しい国を作る。それが、せめてもの償いだ」


 こうして、歴史は大きく動いた。


 織田信長の転生者・五瀬命は死んだ。

 明智光秀の転生者・神倭伊波礼毘古命が、その遺志を継いだ。


 後に神武天皇と呼ばれる人物の、真の物語が始まろうとしていた。

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