第二十三話 三つの軍勢
三つの軍勢が、葛城を目指して進軍を開始した。
それぞれの道で、それぞれの戦いが始まろうとしていた。
東軍・尾張からの進撃
五瀬は、尾張の地に立っていた。
「懐かしい」
思わず呟いた。
前世、織田信長として、この地から天下統一を目指した。
今世でも、同じ地から出発することになるとは。
「五瀬様、準備が整いました」
エウカシが報告した。
「兵は三千。皆、士気旺盛です」
「よし」
五瀬は地図を広げた。
「まず、美濃を抜ける。そして近江へ」
前世と同じ道だ
「だが、今回は違う」
「征服ではなく、解放だ」
進軍が始まった。
五瀬の土地勘は完璧だった。
どこに川があり、どこが隘路で、どこで伏兵を置けるか。
全てを知り尽くしている。
「ここは桶狭間に似た地形だ」
五瀬は、ある谷間を指差した。
「敵が来るなら、ここで迎え撃つ」
案の定、葛城の分隊が現れた。
「五百ほどか」
エウカシが報告した。
「よし、包囲する」
五瀬の指揮は的確だった。
敵を谷間に誘い込み、両側から攻撃。
瞬く間に勝負がついた。
「降伏する者は許せ」
五瀬の命令に、兵士たちは戸惑った。
「しかし、敵では」
「敵ではない。同じ民だ」
五瀬は断言した。
「我々は、葛城の圧政から彼らを解放するのだ」
この方針が、後に大きな効果を生んだ。
降伏した兵士たちが、五瀬の寛大さを各地で語った。
すると、戦わずして降伏する城が相次いだ。
「関所を越えれば、近江だ」
五瀬は前方を見つめた。
「あそこには、浅井の城がある」
前世では、妹の夫・浅井長政に裏切られた地。
今世では、どうなるか。
「使者を送れ」
五瀬は命じた。
「戦いを望まない。協力を求めると」
数日後、意外な返事が来た。
「歓迎する、と」
「どうやら、葛城の圧政に苦しんでいたらしい」
オトカシが説明した。
こうして、五瀬軍は順調に西へ進んでいった。
北軍・丹波の激戦
一方、出雲・邪馬台国連合軍は、丹波で苦戦していた。
「敵の抵抗が予想以上に激しい」
スサノオが舌打ちした。
山がちな地形で、敵は地の利を活かしていた。
「このままでは、進軍が遅れる」
私は焦っていた。
その時、イワレビコが口を開いた。
「私に任せてください」
「どうする気だ」
「この地形、見覚えがあります」
イワレビコの目が、一瞬遠くを見た。
「まるで、前世で戦った地のようだ」
前世?
イワレビコも転生者なのか?
だが、今はそれを問う時ではない。
「裏道があるはずです」
イワレビコは地図を指差した。
「ここから回り込めば、敵の背後を突ける」
「本当か?」
スサノオが疑わしそうに言った。
「信じてください」
イワレビコの声には、珍しく感情が込められていた。
結果的に、イワレビコの読みは的中した。
裏道は確かに存在し、我々は敵の背後に回り込むことができた。
「今だ!」
挟撃された敵は、瞬く間に崩れた。
「見事だ」
スサノオが感心した。
「まるで、この地を知り尽くしているようだった」
イワレビコは、また無表情に戻っていた。
「運が良かっただけです」
だが、その後も彼の「運」は続いた。
どこに水源があり、どこが守りやすく、どこが攻めやすいか。
全てを知っているかのような指揮だった。
「お前、本当は何者だ」
ある夜、スサノオが尋ねた。
「ただの、五瀬の弟です」
イワレビコは答えた。
だが、その瞳の奥に、何か別のものが潜んでいるような気がした。
丹波を抜け、我々は近江へ入った。
「ここからが正念場だ」
スサノオが言った。
「葛城の本隊が待ち構えているはずだ」
だが、意外なことが起きた。
葛城軍が、次々と撤退していくのだ。
「なぜだ」
「おそらく」
イワレビコが推測した。
「他の方面でも苦戦しているのでしょう」
「兵力を集中させるため、撤退している」
その推測は正しかった。
西軍・台与の参戦
吉備から進む邪馬台国第二陣。
その先頭に、意外な人物がいた。
「台与様!」
中津が慌てた。
「なぜ、最前線に」
「皆と共に戦います」
台与は凛とした表情で答えた。
「女王が後ろにいては、士気が上がりません」
実際、台与の参戦は大きな効果をもたらした。
兵士たちの士気は、天を突くほど高まった。
「台与様のために!」
「邪馬台国の誇りを示せ!」
吉備津彦も全面的に協力した。
「五瀬殿との約束です」
彼は千の兵を加えてくれた。
四千となった西軍は、破竹の勢いで進んだ。
「播磨を抜ければ、摂津です」
中津が報告した。
「そこを越えれば、大和は目前」
「皆、もう一息です」
台与が兵士たちを励ました。
その声には、不思議な力があった。
疲れた兵士も、新たな力が湧いてくるようだった。
「さすがは卑弥呼様の後継者」
吉備津彦が感心した。
「人を惹きつける力がある」
播磨で、葛城の抵抗があった。
だが、台与は奇策を用いた。
「使者を送ります」
「使者?」
「はい。降伏を勧めるのです」
皆が驚いた。
「しかし、聞き入れるでしょうか」
「聞き入れなくても構いません」
台与は微笑んだ。
「大切なのは、我々が平和を望んでいると示すこと」
使者は案の定、追い返された。
だが、その夜、奇妙なことが起きた。
敵陣から、脱走兵が相次いだのだ。
「どういうことだ」
捕らえた兵士に尋ねると、答えは意外だった。
「邪馬台国の女王が、慈悲深いと聞いた」
「葛城のために命を捨てるより、投降した方が良いと思った」
台与の作戦は、見事に成功した。
戦わずして、敵の戦力を削いだのだ。
そして合流へ
こうして、三つの軍勢は、それぞれの戦いを経て、大和へ向かった。
東から五瀬。
土地勘を活かし、最小の犠牲で進軍した。
北から出雲・邪馬台国連合軍。
イワレビコの不思議な知識に助けられ、難所を突破した。
西から邪馬台国第二陣。
台与のカリスマで、士気高く進撃した。
葛城は、三方から攻められ、もはや抵抗する力を失っていた。
「降伏しかない」
葛城の重臣たちは、そう進言した。
カシキヤ王も、ついに決断した。
「使者を送れ」
「降伏の意思を伝えよ」
「会談の地は、樟葉とする」
三つの軍勢の奮闘が、ついに実を結んだ。
新しい時代への扉が、開かれようとしていた。
一ヶ月の戦いは、こうして終わりを告げた。
そして、歴史的な会談が、樟葉で始まろうとしていた。
この章はここまでで終わりです。
次からは終章です。




