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1000個目の魂  作者: NeKo
8/11

第八話 敵対

閲覧ありがとうございます!


「―――リー!!」

「っうわぁああぁぁ!!」

「おい、リザリー!!!」


自分の叫び声と誰かが呼ぶ声で意識が戻る。

気が付いたら死んだ体でぜぃぜぃと肩で息をしてしまっていた。力を失った体は誰かに支えられて立っている。


「う、…」


嗚咽が込み上げ口に手を当てる。

…あれは私の過去だ。思い出したくない記憶。

かつて罪のない人間たちをこの腹に収めた。月の光に狂い、理性を失ってしまったせいで。育ての親を、祖父母を、兄弟を、友人を。

皆が隠したがっていたのはこの事…?これを知った私がショックを受けないように?

考えがあっちこっちに飛んでしまってまとまらない。


「いたぁ…」


腹の傷がジクジクと痛みを訴え始めた。思わず手を当て、顔を顰める。


「大丈夫か?!」


焦った声の方を向くとセトがいた。倒れかけた私を支えてくれたのはセトだったんだ。

なんとか笑顔を浮かべてみる。


「平気…」

「どうしてここにいる」

「何でだろう」


頭を押さえて呻く。

私、どうしてここまで歩いてこれたんだっけ。…何かに導かれるように、歩いた?

月が、満月が、脳裏に焼き付いている。


「まぁいい。とにかく帰るぞ。…これを被っておけ」


と、セトは自分のローブを私に被せてきた。頭から黒い布に覆われ、月光が隠れた。急速に心が落ち着いていく。


「ありがとう」


ローブをしっかり被っているから前が見えない。なぜかセトが私の手を握ってくれたから、素直に彼に従って歩みを進める。セトの手の温度は感じられない。うーん、ネクロマンサーだからやっぱり冷たそう。


今更だけど、…セトって意外と身長高いんだ。意識してなかった。私より手の位置が高い。シュドーやルルドよりは…低そうだなぁ。

恐る恐るセトを盗み見る。

と、彼が私の視線に気が付いた。首を傾げ、一言。


『「何?」』


(―――え?)

不意に。知らない顔とセトが重なった。

黒髪の青年の柔らかい笑みと、目の前のセトの無表情が。

双子みたいにぴったり。


(だ、誰?)


驚いて目を擦ったら黒髪の青年は幻みたいに消えていた。


(あれ…?懐かしい…)


知っている。

私は黒髪の彼を、大事だった、大好きだった、あの人間の事を。



城に着いたら、とある部屋を案内された。数えきれないほど部屋が用意されているというのに、セトの隣の隣の部屋。

おそらく空き部屋かな?豪勢で整頓された一室だった。


「今日はもう休め」

「ここが私の部屋?」

「あぁ。自由に使ってくれて構わない」

「こんなに広い部屋が空き部屋って…。あ、そっか。セトってこの国の王なんだっけ」

「違う。前の王族が消え、無人になったこの城に俺達が棲みついているだけだ」

「あ…」


そうだった。彼はルドガルド王国を滅亡に導いた人物だ。

脳裏に地下牢のゾンビがフラッシュバックする。

私が地下に投獄されていないのは奇跡なのかもしれない。ここは何も言わずに素直に従っておこう。


「じゃあ、おやすみ」

「あぁ」


死体に睡眠は必要ないけれど。ドアを閉めようとすると、セトに呼び止められた。


「ちょっと待て」

「?」


ツカツカと部屋に入ったセトは、大きな窓に近寄り、そして。


――…一瞬で闇が訪れる。


どうやらセトが窓に魔法を施して、光が一切入らない仕様にしたみたいだ。

月光が入らないよう配慮してくれたのだろう。人狼は、月の光で狂う。

天井のシャンデリアが私達をぼうっと照らしていた。


「あ、ありがとう」

「何かあったら呼べ」


それだけ呟いたセトは足元に魔法陣を呼び出し、瞬く間に消えてしまった。

なぁんだ。優しいじゃん、セト。意外といいやつかも。


「よし」


城を探索しますか。この体じゃ眠気も無いし、この城は謎が満載だ。

部屋を案内されたけど、ここで大人しくするとは言ってないもんね。


ガチャ ガチャ


「はっ?」


内鍵は掛けてない。


「あの男…!」


前言撤回。私はやはり、歓迎されたお客サマではなかったようだ。

魔法で封じられた扉に魔法を施された窓。

あーあ。結局罪人のような扱いを受けるんだ。ちょっと見直してたのに。

まぁ、地下じゃないだけマシだと思おう。そう思わないとやってなれない。



「休めたか」

「んん…?」

「起きろ」


おそらく朝が訪れたのだろう。無駄に大きなベッドで大の字になっていると扉が開き、相変わらず陰気な顔をしたセトが現れた。


「大広間に来い。正面玄関の大きな扉の奥だ」



人魚のエリーゼ

ハーピーのケッピー

蛇男のマロノ

吸血鬼のシュドー

エルフのルルド


セト曰く、既に彼らが招集されているらしい。

リザリーは彼らとゲーム内の設定の中で何かしらの繋がりがあるのだろうと思った。

残念かな、私には知る由もないが。


「あ!リザリーっ!!」


扉を開くと大広間に明るい声が響き渡る。翼をブンブンと振ったケッピーが笑っていた。

隣のマロノがこれ見よがしにしかめっ面で耳を塞いでいる。

エリーゼとルルドは控えめに手を振り、シュドーは腕を組み予想通りの無表情。


私の隣に立つセトが口を開く。


「みんな知っていると思うが、リザリーが目を覚ました。でも彼女は以前の記憶が抜け落ちている様子だ。そこで、リザリーがどこまで覚えているのか確認を取りたい。お前が覚えていることを全て教えてくれ」

「…突然だね」


今まで私を除け者にしてきたくせに?今更仲よくしましょう、って?

…違う。そうだ。私に知られたくない、思い出して欲しくない「過去」をこの人たちは隠しているんだった。

多分、私の思い出したくないあの「食事」のことだろう。それならばもう知っている。


「私、知ってるよ」


皆が私に隠したいこと。私が満月の夜、狂って人間達をぱくりと食べてしまったこと。

残虐に非道に、恩人たちを貪った、あの哀しい過去を。


「私の過去。何があったのか、何をしたのか。…この前全て思い出した」


視界の端で、ハッと皆が息を飲み私に注目するのが見えた。――敵意だ。

エリーゼの水を含んだ髪は浮き上がり、ケッピーの羽毛は逆立ち、マロノの瞳孔が拡大し、ルルドの目が剣呑になり、シュドーは…相変わらず。

彼らの反応を見て、この記憶がなぜか皆にとって非常に不都合なんだとはっきり悟る。


「いつだ?」


セトが私の肩を痛い程掴んできた。痛みはないけど、服の皺からして相当な力だろう。

彼はなぜか激怒しているように見えた。ぼうっとする私にセトが詰め寄る。

そんなに怒らなくても、と心のどこかで思っていた。


「いつ、思い出したんだ!!」

「…昨日だよ。森の奥の洞窟に行ったら、頭に記憶が流れ込んできた。ちょうどセトが私に声を掛けてくれた時」

「間に合わなかったのかよ…」


ぶつぶつと何かを憎々しげに呟くセトは、リザリーの肩から力なく腕を降ろした。そして、勢い良く背後を振り向く。彼は大広間の中央に存在している机の上の砂時計を睨むようにして見ていた。


――それはアプリでさんざん見た、「魂」を閉じ込めるあの魂時計だった。


上半分には数えるくらいしか魂が集まっていない。999個の内、ほとんどが下半分に移動したようだ。

…私が最後に目にした時には、上半分にのみ魂が集まっていたというのに。


「ルルド、欠片は!?想定外の事態だ!」

「落ち着け、セト。現在変わらず999個。リザリーがこの世界で目覚めたってことは、最後の1欠片は近くにあるんだろうけど…。とにかく時間が無いな。何せ前例が無い術だったからね」

「あちゃー。もしかしてマズそ~な感じ?」

「マズそうじゃなくて、マズいんだよ。ケッピー。それもかなりね」

「どうしましょう、時間が無いわ…」

「俺に案がある」


シュドーが不気味なほど白い手に、小瓶を握ったままリザリーに近付いた。

中身は泥のような灰色。


「大人しくしていてくれ」

「いっ、嫌だよ!?」


見るからに不安な色をした薬品に、リザリーの脳内は警鐘を鳴らしていた。狼の本能がキケンだと訴えている。


「意味わかんないよ!!」


リザリーは大声で叫び、その場から逃走しようと足を踏み出した。



とにかく外に出ないと。適当な家屋に忍び込む?それともひたすら距離を稼ぐ?どうしよう!っていうか、何か足が動きづらい。液体が纏わりついているような…――?


「エ、エリーゼ…?」

「いかないで」


突然動きが鈍くなった足を見ると、大きな水の塊が絡みついていた。透き通るような青のそれは、エリーゼによって操られていた。足が、もつれる。


「ごめんねリザリー!」

「僕らを許さなくていい」


よろめいた体に追い打ちをかけるようにケッピーが大きな白い翼を羽ばたかせた。竜巻のような突風がリザリーを襲う。マロノが不気味に目を光らせたのを視界の端で捉えたリザリーは、反射で彼から目を背けた。顔を手で覆いながら、突風を利用して狂ったように広間の窓から飛び出す。

もう何が起こっているのか訳が分からなかった。旧知の仲だと思っていた人たちから突然襲われているのだ。「過去を思い出した」と、そう言っただけなのに。


「う、わっ」


シュっとリザリーの頬を何かが霞めた。つぅとしたたり落ちる液体に指で触れれば、赤…ではなくゾンビらしい緑色の液体が手につく。色はもはやどうでもいい。それより重要なのは、矢が背後から撃たれたことだ。走りながら顔だけ振り返ると、矢を構えたルルドが見える。考えることを放棄したリザリーは、なりふり構わず城を飛び出した。






「誰か、誰か…!」


って、私は誰を頼ればいいの?


地を駆けていた足が止まる。これだけ走っても乱れない息が、今は都合よかった。頭が冷静に事実を訴えている。私はこの世界で、1人で生きていけるのだろうか?

無理だ。後ろ盾も無い。家族も知らない。友人は敵、知り合いも敵。

リザリーは何を生業にして、どこに住んでいて、故郷はどこで、どんな人物だったのか。何1つ、私は知らない。知らないから生き方も分からない。


「リザリー」


背後から声が聞こえた。振り返らなくても分かる。リザリーを憎んで殺したくて仕方がないアイツだ。ネクロマンサーとかいう、非人道的行為を嬉々として行う悪。振り返るもんか。でも、一言言ってやらないと気が済まない。私をリザリーだと思い込み、リザリーの罪を何も知らない私に押し付けている本人に、私が言ってやるんだ。


「私はリザリーじゃない!」

「…何が言いたい」

「私はみんなが知る『リザリー』じゃないって言ってる!私は!私は…っ」


声が震える。これは私の自己満足だ。せめてもの反抗だ。


「 別の世界で生きている人間なんだよ 」


――セトがハッと息を飲む。


ありがとうございました!

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