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1000個目の魂  作者: NeKo
7/11

第七話 記憶

閲覧ありがとうございます!


――ルドガルド王国の滅亡に、私のヒントがある。


そう思って城の書庫に飛び込んだ。びっしりと並んだ本棚が私を見下ろしている。

首が痛くなる高い天井にまで届く本棚。それが壁一面。

一体どれだけの本が、どれだけの知識がこの空間に収まっていたのだろう。

その本棚に本があれば、の話だが。


「何で…」


きついカビの匂いに顔を顰める。

書庫はまさに廃墟だった。本棚は壊され、所々焼け落ちている。他の部屋と違ってこの場所は一切修復された気配がない。壊れたガラス窓の周辺は完全に腐り落ちている。


ここはまるで知の墓場だ。知られたくない何かを葬るための。

後ずさると、パキとガラス片の悲鳴が聞こえた。



それ以来。私に笑いかけてくれた死者たちは揃って手のひらを返した。


「あのっ!」

「…」


話し掛けようとすれば目を逸らし、逃げられる。


「待って!」

「…ごめん、出て行ってくれ」


私が酒場に行ったら、化け物を見るみたいに怯えられる。


「…リナ」

「ごめんなさい。わたしたちは、おはなしできないの」

「何、で?」

「それもいっちゃだめ。いったらぜんぶがきえる。セト兄がかなしむ。わたしだってかなしい」

「セトが悲しむ?」


「リナ!!!余計なこと言うな!」

「ご、ごめんなさい」


誰かに叱られたリナは、パタパタと私から離れていく。

私は大通りで独り立ち尽くすしかなかった。

今日も曇天。

――この世界に来て以来、陽の光を見ていない。





あーあ。なんでこうなったんだろ。望んでいない世界に飛ばされて、よく知らないキャラになっていて、とある人からは憎まれていて。

死んでるけど案外楽しい生活が送れそう?とか、元の世界に帰るまで意外となんとかやっていけるかも?とか思っていたのが愚かだった。

みーんな私を避けて、無視して、逃げて。化け物を見るみたいに怯えられる。


――絶対に何かを隠している。私の過去に関する何か。


考えれば考える程、見ないようにしていた心のモヤモヤが深まっていく。

転生したっていい事なんか1つも無かったな。異世界に胸を躍らせなかった訳じゃない。どうせなら楽しもうって思っていた。


最悪だ。薄暗い死体の国だし!生き返りは歓迎されてないみたいだし!

結局憎まれて惨たらしく殺されるなら、もうぜーんぶ滅茶苦茶にしてやる。

立つ鳥後を濁しまくってやるんだ。

もう知らない。こんなクソみたいな世界!


ズキズキと腹の傷が痛む。


「ん?」


視界に何かが映り込み目を上げると、霧が集まって大通りに紫の道を作っていた。

まるで私をどこかに導いているみたいに。

霧の道は大通りを抜け、暗い森に通じている。鬱蒼と茂った木々がガサガサと私を歓迎していた。おいで、と木々が誘っている。


霧に従って森に入ってみた。

陽の光が入らないせいか、気温がぐっと下がった気がする。

ホーホーと梟の鳴く声。湿った匂い。

空を見上げると完成された満月。霧を突き抜けるようにして橙色に輝いている。


「…こっち?」


立ち止まる私の周囲に霧が集まってきた。足を止めるなと言わんばかりに霧道の流れが速くなる。

霧に急かされるようにして進んだ先には、ぽっかりと大きく空いた穴があった。

人目を隠れるようにして洞窟が口を開けている。

そして満月の光が真っすぐに洞窟を指していた。まるでスポットライトで照らされているみたいで、洞窟の穴が酷く魅力的に感じた。


満月。月の光。

人狼は月の光によって狂う。月は狼を狂わす力を持っている。

私だって例外じゃない。はるか昔は満月が近付くと、怯えるようにして地下牢に閉じこもっていたような気もする。どうしてだっけ。あぁそうだ。


――昔、食べちゃったんだ。


脳に懐かしい風景が流れ込む。まるで思考を阻害する霧のように。



*****

****

***

**



あれはいつのことだろう。思い出したくない記憶だから忘れた。

でもかなり昔。そんな気がする。


むしゃむしゃ


私は人間に育てられた。幼かった私は人里に捨てられていた。

魔族の子も人間と一緒。親の愛情は平等に降り注がれるものではない。

幸運なことにその里の人間は魔族に対する偏見が無く、私を快く迎え入れてくれた。

魔族と人間の寿命は違う。私を拾ってくれた人は気が付いたら老死していた。

それでも私は、何世代にもわたって温かい人間の世話になった。


ガリ ボリ パキ


とても、とてもやさしい人間達だった。

人狼という危険な生物、人間からいつ迫害されてもおかしくない。実際長きに渡って魔族と人間の関係はギクシャクしているから。魔族は人間を見下しがちだし、人間は魔族を化け物だと罵倒する。でも、ここの人達はバケモノを受け入れて何世代にもわたって世話をしてくれた。

その恩は私の寿命をかけても返しきれないよ。


ズルズル ゴトッ ぶち じゅるじゅる


あぁもう!さっきからうるさいなぁ。もっと静かに食べられないの?人間は私に下品な食事の仕方を教えてくれたことは無い。両の手を使って、ナイフとフォーク。お皿に顔を近付け過ぎない。

出された食事は残さないこと。

「ごちそうさま」と食材に感謝をすること。…あ、食べる前には「いただきます」も忘れずにね。


ガラガラ コロン


あれ、落ちちゃった。白くてちょっと長い…、フォーク?じゃないな。見た事も無い道具。山のように積み重なった白い道具は、揃えて置かないからガラガラと崩れちゃった。

大小さまざまの白。玉みたいなものもある。こっぷ、かな?

ううん。大きな穴が二つある。これじゃ液体を注げない。じゃあ、これは何ていう道具だっけ?

ねぇ誰か教えてよ。1人でご飯は寂しいよ。


ボロ べちゃべちゃ


あ、おちた。…危ない危ない。

地面に手を伸ばしかけて引っ込める。

そうそう。落ちたものは食べない。これも口うるさく言われてきた。

美味しそうな赤いお肉。食べたいなぁ。皆にも分けてあげたい。


…?


遠くに誰かいる。何かを貪っている化け物だ。

暗くてよく見えない。

月の光が射しこんできた!見えそう。


…あ、見えた。


銀の毛並みを輝かせ、大きな尻尾を楽しそうに揺らす誰かの姿。

食事中らしく、その人と同じサイズの何かにかぶりついている。


ちょっと、待って。


怪物がゆっくり視線を上げる。満月のような黄色い瞳だけが不気味に光る。


…あれ、って、


「わ、私…?」


震える声そう呟いた瞬間、私が襲い掛かってきた。

意識を失う直前。化け物が私の親友だったモノを地面に投げ捨てたのが見えた。

虚ろな瞳と目が合った。

ガラガラと人骨が崩れ落ちる。


**

***

****

*****


閲覧ありがとうございました!

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