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1000個目の魂  作者: NeKo
5/11

第五話 疑問

閲覧ありがとうございます!


「…とはいえ。セトの部屋は一体どこだろう」


広々としたホールで途方に暮れる。左右に伸びる螺旋階段と、目の前にある長~い廊下。

無数にある部屋からセトの私室を見つけるのは至難の業だ。エリーゼの部屋さえ、もう辿り着けるか分からない。


「どーしたものかねぇ」


腕組みをしてじっと考え込む。

と、大きな耳から微かな音を感知した。遠くの方から何か動き、衣が擦れる音が聞こえる。

静まり返ったホールで目を瞑り、耳に神経を集中さ


「っ!!誰!!?」


唐突に背後に何者かの気配。耳というより第六感が反応したというべきか。後ろにある何かの気配に警戒心が引き上げられた。

反射でガバっと振り返った。その先には―――、


「リ、ザリー」


アメジストの目を見開いたセトが、すぐ背後に立っていた。ローブを纏った彼の足元には魔法陣が貼られている。どうやらそれを使って瞬間移動をしたのだろう。

私の方に手を伸ばしていたみたいで、行き場を失った白い手がゆっくり下がる。


「…話がしたいんだ」

「…うん」

「その、俺の部屋に案内するよ」

「地下?」

「いいや。地上だ」


セトが私の手を取り、魔法陣が発動する。魔法陣にはよく知らない言語がびっしりぎっしり。

…不思議。気が付いたら、彼の自室に立っていた。


「適当にかけてくれ」


被っていたフードを取り、セトの白い髪の毛が現れる。ネクロマンサーというからもっとヒョロヒョロした感じかと思いきや、セトの体格は思ったよりしっかりしていた。まぁ、肉体派のネクロマンサーがいてもおかしくないか。

ぐるりと辺りを見渡すと大きな窓に目がいった。カーテンは開け放たれ、厚い空が見える。

全体的に怪しげな雰囲気は無く、ごくごく普通の部屋だった。クローゼットに机、椅子、ベッド、棚。

…ちょっと拍子抜け。


「そんなにジロジロ見渡すな」

「あっ、ごめん」

「いいけど…。っていうかさっさと座れよ。別に取って喰ったりしない」

「ネクロマンサーっていうからもっとジメッとした雰囲気だと思ってた。ちゃんと普通の私室なんだね。意外」

「…俺は生粋のネクロマンサーじゃないから」

「ふぅん?」

「1つ、聞きたい」


声の主は真剣な眼差しでリザリーを見ていた。


「俺のことを嫌っていたのか?」


は。どういう意味?あなたが私を憎んでいるじゃないの?

…っていうか、申し訳ないけれど私はセトが思い浮かべるリザリーじゃない。

2人の間に強烈な溝があったしても一切合切知らないのだ。むしろ教えて欲しい。リザリーはセトをどう思っていたのか。私じゃ決して分からないから。

この場合、どう返すのが正解なのだろう。


「き、嫌ってないよ。た、多分」

「いや、心当たりがないならいいんだ。忘れてくれ」

「…分かった」


セトがあっさり引き下がってくれたので、隠れてほっと一息つく。ひとまず助かった。私が本当のリザリーじゃないのは、あまりバラしたくない。

皆に気付かれる前に、さっさと元の世界に帰るんだから。私が去った後、本当のリザリーがセトと和解すればよいのだ。私はセトとリザリーの関係がなるべく悪化させないよう努めるだけ。というか、殺されないよう気を付けるだけ。多分憎まれているみたいだし。


「これ」


私があれこれ考えていると、セトが何かを差し出していた。海を感じさせる青を基調とした服だ。

動きやすさと耐久性がありそうなアシンメトリーな衣装だった。踊り子ほどではないけれど、意匠がこらされていて、とても綺麗。どちらかを言うと民族衣装に近い。


「お前の服。その…ずっとそれじゃ動きづらいだろ?」

「うん、確かに」


自分を見回して答える。

そう言えば謎の黒装束を着ていたんだった。言わば、布一枚を体に纏っただけの状態。


「どうしたの?」


セトの顔が明らかに私から逸らされていることが気になった。


「鏡を見ろ」


セトの指差す方向には全身鏡が。クルリと一回転し、自身の姿をくまなく確認する。


「お、おぉ、これは…」


そこには、中々に刺激的なリザリーの姿が映っていた。

尻尾の部分で生地がめくれ上がり、血の気のない両の太ももが惜しげも無く映し出されていた。形のいいお尻が映るか映らないかの瀬戸際。

というか、リザリーの足長くて細い!

のだが、膝から下は銀の獣脚だった。その部位は神秘的でしなやかな逞しさを備えている。


ずっとこんな魅惑的な服で過ごしていたのだろうか。他人の体とはいえ羞恥心が湧き上がる。エリーゼ、ケッピー、マロノよ。出来ればセトに会う前に教えて欲しかった。気まずさが一気に跳ね上がったではないか。


「ごっ、ごめん!」

「着替え終わったら呼べ。俺は扉の外にいる」

「うん…、ってもういないや」


私が返事をする前に、セトは既に部屋を退出していた。魔法陣、便利。


―――5分後。


鏡を確認。リザリーの輝く銀髪と濃い青の衣服が見事に調和し、リザリーはなんだか高貴な出の人に見えた。まるでリザリーのために用意された服みたい。センスあるじゃん、セト君。

一回転して、その美しさに満足げに鼻息を鳴らす。


「あ、そういえば…。これ、いつできた傷だろう」


気に留める必要もないかもしれないけど、1つ気になったのは腹部の傷。刃物で刺されたような傷跡だった。着替えている間、やけにその傷だけが目についたのだ。気のせいか、何だかうずくような気も…?


「セト、さん!着替え終わりました!」


扉に向かって大声を出した。ガチャリと空いた扉から、なぜかセトの不機嫌な顔が見えた。


「敬語は止めろ。普通でいい」

「分かった。頑張る」


普通。あなたにとってリザリーの「普通」って何だろう。多分、友達みたいに接して欲しいって意味だと思うけど、それじゃまるで私とセトが仲良かった…みたい。もしかしたらリザリーとセトは意外と仲良しだったのかも…?

セトに対する私の警戒心が一段階下がった。


「肌の色はずっとそのままか?」

「うん。血が通ってないみたいだからこーんな灰色。でも…ほら。普通に動くよ」

「心臓は?」


胸に手を当てる。トクン、とは言ってくれない。


「多分動いてない。そもそも私、一回死んじゃってるんでしょ?起きたら棺桶の中だったし」

「……」

「無視ですか」

「違和感は?」

「特に無いよ。…っていうか、セトの術で生かされてるなら、こんな検診みたいなことしなくても、術者が一番対象のコト分かってるんじゃない?」


と、言うとセトはふいと視線を逸らす。そのままローブを被って白髪を隠してしまった。彼の顔も見えなくなる。その姿は少しだけ、私を不安な気持ちにさせた。


「正確に言うと俺はお前に何も出来なかった。お前は確かに死んだはずなのに。俺の死者蘇生が通用しなかったんだ。…有り得ない。一体、お前は俺に何を隠している?何を考えている?あの日から、俺はお前が分からないんだ。リザリー」

「え…?」


ぶつぶつと呟くセトの周りに、紫の霧が集まり始めた。彼の負の感情に比例して霧が濃くなるような気がする。


「なぁ…、教えてくれよ。お前はずっと嘘を吐いていたのか?バカで愚かな人間だ、って内心は嘲笑っていたのか?お前が俺に言った言葉は…すべて嘘だったのか…?」

「な、何の話!?」


今の彼を見ていると強烈な不安に駆られる。これ以上ここにいたくない。じり、と後ずさる私にセトが一歩近づく。その紫の目は空虚で何も映していない。いや、見えない何かを映そうとしているんだ。リザリーは初めて心の底からセトに対する恐怖を感じた。


「 俺はお前を許さない 」


ゾッと背筋が凍った。ネクロマンサーだから、とか関係ない。これは彼の本心。

セトの心からの発言にリザリーの心が悲鳴を上げた。


「わ、私を、殺すの?」

「死なせるつもりはない」

「じゃあどうして私を起こしたの?目覚めさせて生き地獄を味わわせようって?リザリーに復讐するつもり?」

「さぁな。俺はリザリーを恨んでいる憎んでいる。…あぁ。でも、こうして会えて嬉しいと思う自分がいる。…俺はお前をどうしたいんだろうな」


不意にセトと目が合った。

胸が詰まったように言葉が出てこない。


…知らないよ。私とあなたは初対面だもの。


でも、心のどこかからムクムクと好奇心が湧き上がる音がした。リザリーとセトの間に何があったのだろう。元の世界に帰る前に、せめてそれだけは知りたい。アプリでも知らされていない彼らの真実を。


…って、あれ?


腑に落ちない点が1つ。

セトは、『デッド・ラブ』唯一の攻略キャラであったはずだ。だとしたら、彼の恋の相手はプレイヤー。つまりゲームをプレイしていたこの私。


―じゃあリザリーは?ただのモブキャラ?


今までの会話から、セトはリザリーと何らかの関係があったのは明らか。

ただのモブキャラ・リザリーと主要キャラ・セトの設定ってゲームに必要?

ちなみにプレイヤーである私とリザリーの絡みは一切無かった。そもそもリザリーは立ち絵すらなかったのだ。彼女のゲーム内での役割とは何だったのだろうか。


『デッド・ラブ』は緻密なストーリーがあるというより、「魂」を捧げるだけの作業ゲーに近かったから、セトとの会話でリザリーやエリーゼが登場する意図が分からない。いや、登場人物が攻略対象1人のみのゲームは流石にクソゲー認定されちゃうか。でも、他の攻略対象の存在は仄めかされてすらいない。

…あれ?そういえば「プレイヤー」の姿も知らない気がする。


まぁ今は答えを出せなくてもいいか。

ゲームの事をあれこれ考えるより、今は元の世界に帰る手段を確立しなければ。今のところ手がかりはゼロ。帰る方法と並行して、リザリーとセトの確執を探ろう。これは私の野次馬根性だ。


「リザリー」

「…!」


いつの間にか物憂げな顔をしたセトが私の頬に手を添えていた。温かさも冷たさも感じないのは、私が既に死んでいるから。


「もう、いなくなるな」


ぽかんとする私を残し、セトは魔法陣で移動してしまった。

怒ったり悲しんだりセトは忙しいヒトだ。


ありがとうございました!

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