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最上位の推し  作者: 琴音
7/15

重大問題が発生しました



 嵌めるつもりが嵌められたのかもしれない。たぶんレイは面と向かって好きとか言わないタイプだ。というより、私のことを好きなのかもわからない。


 会社に行くつもりで来た道を引き返す。家に帰ると言ったら一緒について行ってもいいかと聞かれた。断る理由もないので、どうぞと言った。何気に手を繋ぎたかったがタイミングがつかめず諦めた。

 ある日、野良猫に懐かれちゃったので、知らん顔も出来ずに家に持ち帰ってしまったの図です。


 部屋は来客の予定がないと荒れる。元来、整理整頓は苦手だ。洗濯物が畳まれずに何日もラックにかかっていることも珍しくない。当然、朝食に使った食器も流しにそのままだ。

 

 電気ケトルのスイッチを入れて、マグカップにドリップコーヒーをセットする。私もレイもマンデリンが好きだ。あいにくバラエティーセットのなかにマンデリンが残り一つしかなく、仕方なくお客様であるレイに譲る。私はキリマンジェロだ。ちょっと酸味が強くて苦手だがミルクをいっぱい入れればごまかせる。普段はマンデリンの豆を買うのだが、Amazonのタイムセールで安かったので買ってしまって後悔した。すっぱ系が苦手なのを忘れてた。


「コーヒーでいいでしょ。散らかってるから、適当にどけてその辺に座ってて、あと窓際の洗濯物は見ないように、下着が干してあるから」


 レイはソファのクッションをどけて、その空いたところに座りクッションを抱えた。窓の外を見ている後ろ髪が寝癖で乱れている。そんなに慌てたの?


「髪、黒に戻したんだね」


「ああ、気分転換。それより会社行かないでいいの?」


「あんな所で待ち伏せしといて、それを言うんだ」


「ごめん、考えもなしに行動してた」


「レイにもそんな行動力があるんだね、意外だった」


「だね」

 だねって、なんで他人事ヒトゴトなんだ。


「そっちは今日デートの予定はないの?」


「午後からだから大丈夫」


 二人でコーヒーを飲む。時間がゆっくりと流れて沈黙も気にならない不思議な感覚。レイの横顔はデッサンに使う彫刻のようで、ちょっと近寄りがたい冷たさを感じていたのに、いまは触れてみたい百合の花のようだ。香しく手を伸ばせば届いて、柔らかくしっとりと息づいている。しかも気高く美しい。

 コーヒーを飲んで少し冷静になると、やってやった感と、やってしまった感がぜに襲ってきた。その焦燥感も、目の前にレイがいることで一瞬で立ち消えた。


「どうしたい?僕になにをして欲しい?」

 突然の告白に少しは対応してるつもりなのか。珍しく気を遣ってることに驚く。


「いてくれるだけでいいかな」

 これは本音だ。いろんなシガラミを取っ払ったら、無垢な自分に戻れる気がした。恋人になれなくても友人として傍にいられるなら、それでもいいと思った。今はこの確かな繋がりを大切にしたい。


「最初に言っておくよ。僕は恋人も作らないし、結婚もしない。これだけは揺るがない。それでいいなら、ずっとそばにいるよ」

 

 レイが言った言葉の意味を反芻してみる。それが先回りの牽制なのか、明らかな拒絶なのか全く読めない。これまでのトラウマか、それとも揶揄カラカって反応を見ているのか。でも冗談の口調ではなかった。


「じゃあ、私が恋人にして欲しいとか言ったら、終わりなんだ」


「そうだね」

 そうだねって・・・否定しないんだ。


 いまに始まったことではないが、レイの会話には現実味がない。ふんわりしていて掴みどころがなく、裏も表もこちらで探るしかない。いつも核心に触れず、まるで試されているようで歯痒い。ここは正直な胸の内を聞くしかないだろう。


「ねぇ、聞いてもいい?まさかとは思うけど、これまで付き合った人とかいなかったの?それとも最近、そんな心境になったの?」


「ちゃんと付き合ったのは二人。そのうちの一人とは結婚も考えた。だけどダメだった。出来なかった」

 出来なかったのニュアンスが気がかりで聞き返した。


「出来なかったって、反対されたとか?」


「違う、結婚じゃなくて、僕が出来なかった・・・セックス」


 いやいや、いきなりぶっ込んできた。目の前がチカチカする衝撃。


「ちょ、ちょっとごめん、ここまで聞いて、あとはご想像にお任せって訳にはいかないから聞くけど、、、単刀直入にそれって、つまり、、、EDってこと?」


「機能には問題がないけど出来ない、ノンセクシュアル《非性愛》ってヤツ。恋愛感情は抱くけど性的欲求がないから、好きな人を抱けない。そういう行為までいったのが二人で、フィニッシュまでいったけどその後に吐いた。相手が誰であれ行為そのものを受け入ることが出来ない。それが原因で別れたんだ。病気じゃないから治しようがない」


 レイは最初から冷めているのではない。恋愛自体を諦めていたのだ。

 これは由々しき重大問題である。一緒に居ることが前提ならレイだけの問題ではない。セックスは単に子供を作るだけのものではないし、子供が欲しければ人工授精などいくらでも方法はある。でもデキないは困るだろう。

 さて、しおり、どうする?これを打開する手立てはあるのか。



つづく


明日、21時に更新します。

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