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最上位の推し  作者: 琴音
4/15

めんどくさいよ



 モヤモヤが晴れない。中学の卒業アルバムを探し出し捲ってみる。モブキャラなので目を凝らさないと見つけられない。いた三上玲ミカミレイ、よく見ると確かに目鼻立ちはレイだ。何もかも均等に整っていて、スーーーとしすぎてインパクトに欠けてるという感じだ。

 おとなしいし、スポーツや勉強ができた印象もないので単に埋もれていたんだと思う。よく芸能人がいわれる目立たない子でしたってやつだ。


 ちょっと気になってサイトのレビューとかブログとかをチェックしてみる。メチャメチャ楽しそうなことばかり書いてあって、内心では平静でいられなかった。人気は過熱気味で予約は一か月先まで取れない。逢えないと逢いたいが募る。これが人間のサガなのでどうしようもない。


 LINE、メルアド、電話番号など個人情報の交換はご法度である。つまり私とレイを繋いでいるのはチャットにログインできるIDだけだ。サイトのアプリを開いては閉じてを、何度も繰り返した。ええい、なるようになれ。


 ピロン♪

 やっと繋がった。

 このままお待ちくださいで48分、、、長かった、長すぎる。


『お待たせしました。レイです、こんにちは』

『しおりです、予約をお願いします』

『ご予約ですね、ご紹介ページに掲載のスケジュールは確認していただけましたか?一番早くて3月8日になりますが、ご希望の日を教えて頂けますか?それに沿った予定を作成します』

『待てません』

『キャンセル待ちもありますが、そちらも予約制でして』

『そんなに待てないです、明日20時に欅の下で』

 

 そのままログアウトしたので回答は不明だ。正式な契約が成立していないので、来るか来ないかはレイ次第だ。

 会社を通さず個人で会うのはご法度である。会社がチャットをチェックしてたら、職務規定違反でお咎めは免れない。そんな危険を冒してまで来るとは思えなかったが、来なかったらそれまでと諦めるしかない。


⊶-------------------------------------------------⊶

 

 今日は、今冬一番の冷え込みで足先がジンジンと痛くなるほどだ。予報では曇りだが雪でも降りそうな気配がする。普段は履かないスカートなんかで来るんじゃなかったと後悔した。下からの冷気に身震いする。


 駅前の欅は以前レイと待ち合わせに指定した場所である。小さい噴水があり、視界が開けるので集合場所に指定する人は多い。さすがに夜なので人は少ないが、待ち合わせらしき人がスマホ片手に改札口に目を凝らしている。

   

 たぶん、レイは来ない。何となくそんな気がしていた。私はレイのタイプではない。先日のデートでは、営業スマイルもできないくらい鼻持ちならない女に認定されている。しかも今日は仕事ではなく、都合も考慮しない一方的な呼びつけである。益々、嫌われるのがわかっていながら、逢いたいを抑えることができなかった。

 相手は恋人役のプロである。そこに好きとか嫌いとかの感情を介入させてはいけないのだ。こちらもその積りで打算的に割り切ればいい。今日、逢えたらこれでお終いにしよう。もう26歳の大人なんだから、きょう限りの恋愛ごっこを楽しめばいいのだ。その積りで現金も用意している。私はレイの時間だけを買うのだ。

 

 気がつくと21時を過ぎている。手の感覚がなくなるほど冷えてきた。手袋をしてくれば良かったと、ぼんやり考えながら空を見上げた。

 ひらりと白いものが落ちてきた。雪だ、どおりで寒いはずだ。冷え切ったのは身体だけではない。心の奥までキンキンに凍っている。どうせなら何も考えられないくらいに雪に埋もれてしまいたい。そしたら身も心もカチコチに凍って思考停止。それがいい。


「あ~あ、こんなに冷えちゃって」

 

 いきなり後ろからハグされて息が止まるかと思った。でも振り向かなくても誰だかわかる。トックントックンと重なる鼓動、首筋の白く煙る吐息。


「・・・来て・・・くれたんだ」身体が硬直して動かない。


 レイがなにか言ったけど、ちょうど電車から降りてきた酔っ払いの奇声にかき消された。えっ、なに?


「言葉より、こっちのほうが伝わるよね」

 腕に力がこもり、ぎゅっとされ、ますます身動きが取れない。


「レンタル彼氏はスキンシップNGでしょ、正式なオファーじゃないけど大丈夫なの」


「もうここに来た時点でNGですよ。引き返せない、最も危険なデンジャラスゾーンに立ち入っちゃいました」


「そうだよ。自分で言うのもヘンだけど考えてるより、ずっとめんどくさいよ、わたし」


「あんたが、これから、ちゃんと生きられるか心配になっただけ。だってほっとけないでしょ、僕の大切な初恋の人なんだから」


 声が小さくて、エッて聞き返したくて、

 でもホントは言葉なんてどうでもよくて、

 背中にくっついてる暖かな胸が、

 無言で励ましてくれる気がして、

 クシャクシャな泣き顔なんか見られたくなくて、

 前に絡んだ腕がほどけないように必死に握りしめた。


つづく


明日の21時に更新します。

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