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10 ジミーの覚醒

 梅雨が明けて、生徒たちは期末試験を何とか越えることができました。その後は、生徒たち皆が待望する夏休みでした。

 ジミーを除く1Aの全員は、期末試験でそれなりの成績を修めていました。反対に、ジミーやほかのクラスのメンバーたちは補習授業が必要だと宣告され、補習合宿のために南伊豆の学園海浜施設に行くことになりました。また、理亜と玲華も、学年一位二位の成績優秀者であるということで、補習支援をするために特別に参加することになっていました。


「あ、みんな、おはよう!」

「あれ、ジミー君は?」

「理亜、あんたが連れてくるはずじゃないの?」

「なぜ、私が連れて来なければいけないのよ?」

「だって………彼が落ち込んでいるのは、あんたのせいよ。それなのに、あんたはジミー君にあまり声をかけていないからじゃないの?」

 玲華の指摘に、理亜は黙ってしまいました。玲華は理亜を一瞥すると、ジミーが来るかどうかを確認して、のろのろと動いているジミーへ駆け寄っていきました。

「あのう、ジミー君、早くいかないと」

「僕は災いなんだ、僕は災いだ」

 ジミーには、この時の玲華の顔が輝いて見えました。ジミーは昔から、理亜の優しさはよく知っていました。しかし、いまのジミーには、自分が原因ではないにしても、異世界時空から脱出してきた際に、半裸の理亜を怒らせてしまったという負い目がありました。だから、今、彼の目の前に理亜がいないことを当然のことだと思ってはいたのです。

 それに対して、玲華が彼のやるべきことを淡々と伝えてくれたときの玲華の高い声と表情だけは、ジミーの心にとって救いでした。このとき、ジミーの心の奥に玲華のきらきらした表情が深く刻まれたのでした。 

 ただ、玲華一人では、ジミーを引っ張って行けませんでした。その状況をみて、ようやく理亜もジミーを急き立てなければいけないと気づき、玲華とともにジミーをバスまで引っ張っていくのでした。


 ジミーは依然としてブツブツと自分を呪い続けていました。ジミーがこのようになったのは、少し前、梅雨の季節に強制的な性教育を受けた時からでした。もちろん、理亜も玲華も、ジミーが縛り付けられて逃げられないようにされて教育を受けたということは知っていましたが、彼がそれ以上に何かしらの厳しい矯正を受けたという認識はありませんでした。それに、理亜はジミーに半裸を見られたというわだかまりが心に残っていたため、自らを呪い続けるジミーのことを理解してはいませんでした。理亜が落ち込んでいるジミーに的外れな質問をしたのも、そのせいでした。

「あの、落ち込んでいるのは、1Aで一人だけ補習になったからだよね」

「理亜ちゃん、すまない。ぼくは、僕は見てしまったんだ。情欲で見てしまった。女性を見てしまった。女性の大切な所を見てしまったんだ。僕は災いだ」

 玲華は、二人のやりとりを見ていて、理亜がジミーに的外れな問いかけをしたことについて、理亜をたしなめずにはいられませんでした。

「理亜、あんた、まだジミー君がふさぎ込んでいる原因をわかっていないのかしら。あんたは、ジミー君が異世界時空から脱出したばかりの時、裸を見たからと言って彼の状況を理解しようともせずに、一方的に叩いて責めたじゃないの。そのことがあってから、ジミー君はルビカおばさんの恐ろしい強制的性教育を受けさせられて、女性の顔はおろか私たちの顔までまともに見ることができなくなったのよ」


 二人はそう言い合いながらも、心配そうにジミーを見つめました。ジミーは、まだ虚ろで無意識なまま自らへの呪いの言葉を繰り返していました。やがて、さまざまな話を周囲から聞くようになって、彼女たちにはジミーの状況がおぼろげながら浮かび上がり、それとともにジミーが手も足も出ない状況で何かを見せつけられたのだろうという推定に考えが及びました。理亜はまだわだかまりがあったのですが、玲華は再びジミーに語り掛け、ジミーの心の傷をなんとか癒そうとしました。

「あの…もしかして、女性の身体を見せつけられたから、そんなに罪の意識を持っているの? いったいルビカおばさんや早川先生にどんな矯正教育を受けたの?」

「ああ、僕は災いだ」

 ジミーは、玲華に救いを求めるような目線を返しながらも、依然として自分を呪い続けていました。玲華と理亜は仕方なく、ジミーの手を引いてバスに乗り込んだのでした。

_________________________ 


 朝、学園を出たバスは、夕刻前にようやく南伊豆の海浜施設へと到着しました。皆、一様に宿舎の入り口から、海に見惚れているようでした。確かに、宿舎からは遠浅の海岸がみえ、沖合には岩山のような無人島が、夕陽に生えていたのでした。

 教師たちと補習支援の理亜と玲華には、二人一組でオーシャンビューの部屋があてがわれました。これに対して、補習対象者はクラスごとに部屋が与えられていました。ただし、1Aから補習対象者が出ることが想定されていないかったこともあって、ジミーは、少し離れた別棟の教師用客室の下にある地下室部屋があてがわられることとなりました。


 次の日の朝、午前中は臨海学校や補習授業のオリエンテーションと、ホームルームとが予定されていました。ところが、ジミーだけは教室に来ていませんでした。理亜と玲華は昨日の彼の様子から心配し、別棟の地下室まで彼を迎えに行ったのでした。

「ジミー君! 起きてるの?」

 部屋の中からはくぐもった声しか聞こえませんでした。理亜たちは心配のあまり、そっとドアを開けて中の様子をうかがいました。

 ジミーは身をかがめてうなされていました。心配のあまり、二人はジミーの傍に駆け寄ったのでした。

「ジミー君! 大丈夫?」

「あ、この匂いは理亜ちゃんと玲華ちゃんだ.....あ、玲華ちゃんも理亜ちゃんも、なんという格好で!」

 ジミーは夢うつつで理亜と玲華の声を聴いていたらしく、寝ぼけた答えを返してきました。それと同時に、彼はうずくまってからはっと目を覚まし、「あーっ」と声を上げて起き上がりました。そして、彼を見つめていた理亜たちの視線に気づき、驚きと気まずさの混ざった視線を返してきました。

「玲華ちゃんと理亜ちゃんが…・あ、夢か......え、理亜ちゃんたちがなんで僕の横に? 夢の続き?」

 彼はそう言うと何かに気づいたのか、かぶっていた布団の中を見て、今度は意気消沈した表情に変わったのでした。

「あー、これは何だ?」

「どうしたの?」

 理亜と玲華はジミーに駆け寄ると、ジミーは真っ赤な顔をして『来るな』と静止してきたのでした。

「あー、僕は最低だ、僕は災いだ」

 その大声に気づいたのか、上の階にいた先生たちが駆けつけてきたのでした。

「どうしたんだ?」

「何があった?」

「えっと、ジミー君がなかなか起きて来なかったんです。だから、私たちが迎えに来たところで、彼は病気か何からしく、私たちを見て大声を上げたんです。それからは、ずっと下を向いたまま独り言を言い続けています」

 理亜たちは、自分の見たままを報告すると、ジミーもそのあとに申し訳なさそうに言葉をつづけました。

「僕は、たとえ夢であっても、見てはいけないものを見てしまいました......何も身に着けていない玲華ちゃんと理亜ちゃんが乗っかってきて......目が覚めたら目の前に玲華ちゃんと理亜ちゃんがいて、そしたら、僕は漏らしていたんです。僕は最低だ、僕は災いだ、僕は滅びる」

「ああ、なるほどね。でも、ジミー君は大丈夫だよ」

 駆けつけてきた早川先生達は、納得したような声を小さくして、理亜と玲華に告げました。

「あれは夢精よ。彼はろくに性教育を受けていないから......。だから彼の身の上に何が起こったかを、彼はわかっていないのよね。そして、自分が見た夢と起きた生理現象とで自己嫌悪になり押しつぶされているんだわ」

「え、そんな夢の中で私と玲華を見ていたの?」

 さすがに理亜と玲華は十分に学んできていましたから、目の前の従兄弟に何が起きたかを把握していました。ただ、その夢見の対象者が自分たち姉妹であることを知り、複雑な顔でジミーを見つめていました。

_________________________


 その日は朝から、波が静かでよく晴れ上がっていました。施設のがけ下にある海岸では、午前中から補習対象者ではない玲華と理亜だけを相手に、体育教官たちが遠泳を指導していました。

 今回の臨海学校は、補習が主な目的であることもあって、水泳教練とはいっても水着は生徒たちに任されていました。それゆえ、玲華と理亜の水着は白いビキニでした。その姿は、補習授業を行っている教室からもよく見えていました。また、補習の生徒たちが用意していた水着も、思い思いのものでした。それらのせいもあったのでしょう、午後1時になって、やっと補習から解放された生徒たちが水泳教練に参加した時には、異様な盛り上がりを見せたのでした。


 準備運動が終わると、教練教官は大きな声で教練の内容を説明しました。

「午後の教練は、最初は泳げないものを中心に、我々が指導する。その間、他の者は自由に過ごしてよし。その後、残りの一時間は全員で沖合にあるあの浮きブイと海岸とを往復しろ。終わった者たちから順次宿舎に戻ってよい。」

 こうして、海岸は、男女の生徒たちがビーチバレーや様々な遊びと練習をする姿で、華やかな雰囲気となっていました。そして、最後の締めとなる教練では、参加した生徒たちはおもむろに海岸から少し離れた浮きブイと海岸とを往復していました。そして、夕方になって最後の組となったジミーと玲華、理亜ら三人が浮きブイまで泳ぎつき、これで水泳教練が終わったところでした。

「おーい、三人とも、そろそろ陸へ戻って来いよ」

 担当の体育教官が大声で三人に声をかけてきました。海岸には、すでに三人以外の生徒たちが、次々に宿舎へと戻っていく姿が見えていました。そして、急速に日が暮れると、生徒も教官も先に帰ってしまい、海岸には誰もいなくなってしまいました。


 ちょうどこの時、南岸を地震が襲ったのでした。しばらくすると沖へ向かって海水が少しずつ引き始めました。

「まずいわ。これは津波の前触れよ」

 その声が終わるや否や、引いていく海水の勢いが強まっていきました。その水流の激しさに、三人が手で掴まっていた浮きブイは、アンカーからはずれ激しい水流とともに沖へと引っ張って行かれました。

 二人の悲鳴に、ジミーは体格を活かして二人をしっかりと両腕で保持すると、そのまま浮きブイにしっかり掴まりました。ただ、浮きブイは激しいながれによってそのまま沖へと流されていき、いつの間にかに浮きブイは無人島の岩場の入り江に入り込んでいました。

 入り江に入り込んだ時、三人はある異変に気付きました。ジミーが右腕と左腕とでしっかり保持している玲華と理亜の上半身には、先ほどまであった白い水着が無くなっていたのです。彼女たちのトップが激しい水流にもぎ取られたのに気付かずに、三人はそのまま浮きブイにしがみついていたのでした。

「ジミー君、あのう、私たちのブラが無くなっちゃったのよ」

 二人は言いにくいことをやっと伝えたのですが、ジミーは聞いてはいけないフレーズが聞こえたために、反射的に両手で耳をふさいでいました。すると、三人はブイの周りでバラバラになってしまいました。当然に、今までジミーの目には見えていなかった二人のそれぞれの双丘が、ジミーの目に写ることになり、三人は悲鳴を上げました。

「え、あれ、ええ!」

「キャー。見ないで!」

 この時、ジミーは彼の胸部にあたっていた柔らかいものがなんであるかを、理解しました。

 三人は波にさらわれ始めたため、ジミーは緊張しながらももう一度彼女達を抱え上げました。もちろんこの時、三人は互いにどのような接触状態にあるかを、とてもよく意識していましたが、皆難しい顔をしながら、がまんしていました。

 少し経つと、突然目の前に、持ち主不明のブラがふたつ流れてきました。きっと同じような事故に遭った女性たちがいたのでしょうか。ジミーはそれらを取り上げて、理亜と玲華に渡しました。

「これ、カップが小さい」

「これじゃすぐに、ズレちゃう」

 この言葉で、もう、ジミーは限界でした。陸に上がったジミーは、再び自分を呪う言葉を口走り始めた木偶の坊になり果てていたのでした。


 陸に上がった理亜と玲華は、沖合に大きな白波が立ち上がっていることに気が付きました。先ほどまでの激しい引き波から考えても、今度は大きな津波が来ることは、確実でした。

「このままでは危険だ。この島の頂上まで行きましょう」

 三人の水着はズタズタのままだったのですが、今は一生懸命に生き残る努力をするべき時でした。二人の娘は、動きの緩慢なジミーを引っ張って、やっとのことで頂上に登りつきました。この時には、既に津波は島を通り過ぎて海岸へ到達しつつありました。

 この後も、何度も津波が浜へと押し寄せて行きました。このため、三人は離島から陸へはそう簡単に戻れそうもありませんでした。既に浮きブイは流れ去っており、島には食料が確保された漁師小屋が丘の上に設けてあったものの、陸へ戻る船は見当たりませんでした。彼らはここで4日ほど過ごすことになったのでした。


 さて、ジミーや理亜と玲華が宿舎に帰り着いたのは、4日後の夜でした。真っ暗な海岸から崖を登り宿舎にたどり着くと、宿舎はすでに明かりが消え、無人となっていました。五日前の地震のため、合宿は取りやめになったらしく、宿舎からは全員が撤収したあとでした。

 三人は、そこから移動する手段も持たないために、しばらくその宿舎で過ごさざるを得ませんでした。幸い、ジミーが別棟の地下室には、ジミーの荷物が残されていました。ただし、ろくな着替えはありませんでした。

「理亜、この小さなブラでは、使い物にならないわ」

「でも、ここには何も無いわね」

「このタオルは」

「短すぎ」

「あとは見当たらないわね」

 結局、三人は申し訳程度の水着でしばらく生活し続けたのでした。


 次の日の朝、三人は無人の宿舎を見て回りました。

「みんな、帰ったんだよね」

「そのはずだよ」

 津波があったにもかかわらず、崖上の宿舎は無傷でした。ただし、停電のため調理室も風呂も作動させることは無理そうでした。三人は簡単に水だけで身を清めた後、ジミーにあてがわれた部屋で、仮眠をとることにしました。明日以降は、なんとか荏原学園に戻ることを考えなければならないと考えながら、三人はそれぞれ眠りについたのでした。

 その夜、三人は無人のはずの本館で、何かが動いている気配に気づきました。本館はすでに停電のために、全ての施設が使用不能のはずでした。彼らは暗闇にまぎれながら、別館から本館へ忍び込んでいきました。本館に入ってからは、星明りを頼りに各階を探りながら上から下へ、そして大ホールへと移動していきました。

「この本館は、もう電力が通じていないはずだよね」

「中央大ホールからは、機械か何かの騒音が聞こえてくる」

「確かに! あのホールには何かがいる。人間というより機械、ロボットが動いているようにみえる」

「電力が無いのに動いているなんて……」

「あ、誰かがやってきた」

「ユバルに似ているね」

「でも、女性だよ」

 三人が暗闇でホールを観察し続けていると、ユバルに似たカインエルベン族の女性が、屋外から入ってきました。ジミーたちは、彼女を追うように、そっとホールに入り込んでいきました。ホールの中では、彼女は制御盤らしい小さなプレートを操作しはじめていました。制御盤とはいっても、彼女はスイッチを操作するのではなく、手から放つ光の粉ヘクサマテリアルを介して、ホール内の機械類やロボットを操作しているようにみえました。

「あの女の子、うちの学園の制服を着ている。ここで、何をやっているのかしら」

「ここが何かをするための拠点になっているのかしらね」

 このとき、女子生徒はホールにいる三人に気づきました。

「だれ?」

 この女子生徒は、ユバルでした。彼女の目が三人のいる暗がりに向き、同時に彼女の発した光の粉が三人を照らしだしました。彼女の目は三人の中のジミーに注がれ、同時に彼女の顔は驚愕に満たされました。ただ、ユバルは女性形に戻っていたために、ジミーや玲華たちにはクラスメイトのユバルであるとはわかりませんでした。

「あ、あんた」

 この声と同時にユバルの脳裏には彼女の作業場である地下室の光景とある預言が響き、同時にそれがジミーにも伝わりました。すると、途端にジミーは凍り付き、また彼の脳の一部が急速に計算機能を作動し始めていました。他方、ユバルは目の前のジミーに何が起きたかを知り、あわててホールから逃げ出していきました。

 ジミーは、逃げ出していくユバルを追いませんでした。彼の脳裏には、ホールの床下への入り口、そして地下室の情景が浮かんだからでした。確かに、地下室へ通じるドアの奥からは、かすかに複数の男女の苦悶が聞こえてきました。また、同時に複数の長身の人間たちと機械たちが動き回る音も聞こえていました。ジミーは理亜と玲華に声をかけ、水着のままで地下室へと下って行きました。ドアの隙間から地下室の内部をうかがうと、確かに縛られた男女たちがいました。

 彼らは、ジミーたちと補習のために臨海学校に参加していた同じ学年の男女生徒たちでした。彼らは男女とも後ろ手に縛られて監禁されていました。しかも彼らの周囲には、先ほど逃げ出したユバルと同じ顔立ちの長身の男女たちが歩き回り、まるで品定めをするかのように、縛り上げた男女たちの服をたくし上げたり、剝がしたりしていたのでした。

「約束と違うじゃないか」

「いい女たちのハーレムがあるというのは嘘なのかよ」

「あんたたち、私に仕える立場なんでしょ!」

 後ろ手に縛られたままの男女生徒たちは、ユバルに似たエルベン族たちにそう叫び続けていました。しかし、カインエルベン族たちはその声を一切無視し、作業を続けていました。

 これらを把握したとたん、ジミーの脳裏に浮かんだものは、監禁された同級生たちを一瞬にして解放することでした。すると、ジミーのイメージ通りに、縛られていた同級生は全員が一瞬にして解放されました。さらに、ジミーは同級生たちの解放を確認することなく、その部屋にいたカインエルベン族に襲い掛かり、周囲の自動機械やカインエルベン族たちを一瞬で消し飛ばしていました。


 一瞬の戦いの後、そこにはカインエルベン族の指揮官だったヤバルが、ひとりだけ残っていました。三人は、彼を捕まえて、尋問を始めていました。

「あんた、名前は何というんだ」

「何も言わんよ」

 ヤバルは、何も言うまいと強く念じていました。しかし、ジミーの脳の片隅で始まった改編数学の計算により、ジミーは何をすべきかを完全に理解していました。

「ほお、それでは強制させてもらおう。『お・ま・え・の名は何という?・お前の目的とおまえの・役職を言え』」

 ジミーの尋問は、彼自身が脳裏に有していた改編数学の能力により、ヤバルの精神に直接働きかける強制力を帯びていました。ヤバルは強制された口調で説明をし始めました。

「私は、カインエルベン族派遣の...原時空人類捕獲部隊並びに原時空人類監視部隊の分析指令、ヤバルである。我々の目的は…・」

 そこまで彼がしゃべった時、突然ジミーたちは外から入ってきたカインエルベン族の大部隊に襲撃されたのでした。

「降伏しろ、虫けらども。我々はお前たちを包囲している」

 縄を解いた男女生徒や理亜・玲華をかばいながら、ジミーは包囲しているカインエルベン族のヤバルに怒鳴り返しました。

「僕たちが虫けら? そうか、あんたたちは、まだ酷いことをつづけるのか」

 すると、外から戻ってきた大部隊の中にいたユバルの脳裏に、ふたたび預言の言葉が響き渡り、それば同時にジミーの脳裏に響きました。その辺りには、カインエルベン族が持ち込んでいただ光の粉、ヘクサマテリアルが充満していたことも、この現象を強めていました。

「なぜいうのか

 私の道は主に隠されている、と

 私の裁きは神に忘れられた、と

 あなたは知らないのか、聞いたことはないのか

 啓典の主は、とこしえにいます

 疲れた者に力を与え

 勢いを失っている者に大きな力を与えられる

 恐れるな、虫けらと言われたジミーよ

 私はあなたを助ける

 見よ、私はあなたを新しく鋭い歯を持つ叩き棒とする

 あなたは山々を踏み砕き、風が巻き上げ 嵐が散らす」

 途端に、ジミーとエルベン族たちとの戦いが始まりました。ジミーが周辺のカインエルベン族を瞬時に抹殺すると、戦闘は宿舎の外へ広がりました。外では魔道具を駆使するカインエルベン族とジミーとの間で激烈な戦闘となり、大部隊だったカインエルベン族は次々に蒸発させられていきました。驚いたヤバルたちは、すぐに姿を消して異世界時空へと逃げ帰ってしまいました。


「これらの残骸は、魔法道具だね」

 肩で息をしながら、ジミーは周囲の魔装具、魔道具、傀儡などの残骸を見て回っていました。そう分析するジミー自身も、彼が分析に用いている情報は、先ほどの預言に付属して知らされたものでした。

「魔法道具? どんなものなの?」

「僕もいままで見たことがなかった。さっきの自動機械の動かし方から推測すると、どうやら魔力を伝えるらしいマテリアルを、操作対象に吸収させて、その後で魔道具が動くらしいね。おそらく、いろいろなものがありそうだ。目についただけでも、魔装具(「ウェアラブルデバイス)、魔道具マギックデバイス傀儡くぐつ大型魔道機構ラージマギックスがあったね」

 宿舎ホールの中から出て来た男女生徒たちは、逃げ出した騒ぎのせいで半裸のままでした。同級生たちは、互いに服を分け合い、互いを見ないようにしていたので、問題はありませんでした。しかし、玲華と理亜は、ジミーとともに傷んだ水着のままでした。その恰好のまま、三人は魔道具を運んだり、整理したり活発に活動していました。

 理亜と玲華そしてジミーは、自分たちの作業が一段落して、今まで身に着けていたトップが上にずれていることに気づきました。このとき、すでに能力を閉じていたジミーは、この二人の姿に気づき、途端に気を失って倒れこんでしまいました。 


 宿舎ホールから脱出して5日たちました。南伊豆の施設から、生徒たちは戻ってきました。それでも、生徒たちは、五日後、地震の後片付けがいたるところでなされている光景を見ながら、やっと荏原へ帰りついたのでした。

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